知財判例データベース 外国に登録又は出願された特許に関する特許権移転登録請求と出願人名義変更手続きに関する履行の訴えに対して韓国法院の国際裁判管轄権を否認した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- LG PHILIPS LCD株式会社(原告)v. ○○○他2人(被告)
- 事件番号
- 2006ガ合89560
- 言い渡し日
- 2007年08月23日
- 事件の経過
- 上訴
概要
178
特許権に関する属地主義の原則とは、各国の特許権がその成立、移転、効力などに関して該当国家の法律により定められ特許権の効力が該当国家の領域の中でのみ認められることを意味するものである。即ち各国はその産業政策に基づき発明に関してどのような手続きによりどのような効力を与えるかを各国の法律によって規律しており、韓国においては韓国特許権の効力は韓国の領域の中でのみ認められるのに過ぎない。従って、国家の審査と登録という手続きにより発生する特許権の附与、登録移転や有効・無効に関する訴訟に関しては該当登録国の専属管轄であると解釈するのが正しい。
事実関係
本件は原告会社と被告らの間で職務発明に該当するかどうかをめぐって争いがおき、原告会社が被告らの名義で韓国と外国(日本、台湾)に特許登録された特許権と、特許出願された発明に対する特許を受ける権利とを無償で譲り受け、更に紛争発生時、ソウル中央地方法院を管轄法院とすることに合意したと主張しつつ、被告らに対してその特許権移転登録と出願人名義変更手続きの履行を求めたところ、被告らは韓国法院は上記のような請求に関しては国際裁判管轄権を持たないと主張して争った。
判決内容
国際裁判管轄に関して明文で規定した国際私法第2条によれば、「法院は当事者又は紛争になった事案が韓国と実質的関連がある場合に国際裁判管轄権を持つ。この場合、法院は実質的関連の有無を判断することにおいて国際裁判管轄配分の理念に符合する合理的な原則に従わなければならない(第1項)。また法院は国内法の管轄規定を参酌し国際裁判管轄の有無を判断するものの、第1項の規定の趣旨に照らして国際裁判管轄の特殊性を十分に考慮しなければならない(第2項)」と定めている。これと共に国際私法第2条は国際裁判管轄権の認定基準に関し実質的関連の原則を受け入れて訴訟原因である紛争になった事案又は原・被告などの当事者が法廷地である韓国と「実質的関連」を持つ場合に韓国法院に国際裁判管轄権を認め、このような実質的関連の有無は国際裁判管轄配分の理念と合理的な原則により決定されなければならないことを宣言している(第1項)。ここで「実質的関連」とは韓国法院が裁判管轄権を行使することを正当化できるほどに当事者又は紛争の対象が韓国と関連性を持つことを言い、その認定如何は法院が具体的な個別事件ごとに総合的な事情を考慮して判断しなければならない。
また法院が具体的な管轄有無を判断することにおいては民事訴訟法の土地管轄規定など国内法の管轄規定を参酌するように定めているため、被告の住所、法人や団体の主な事務所又は営業所、不法行為地、その他民事訴訟法が規定する裁判籍のうち、どちらかが韓国内にある場合には被告に対しいったんは韓国の国際裁判管轄を認めることができるものである。ただし、韓国の国内法上の裁判籍に関する規定は国内的観点から制定されたものであるため、国際裁判管轄の特殊性を考慮しなければならない(第2項)。より具体的には、法院としては訴訟当事者らの公平、便宜そして予測可能性のような個人的な利益を考慮するだけでなく、裁判の迅速、適正、効率及び判決の実效性などのような観点で軽視できない問題を含んでいるため、このような法院ないし国家の利益も共に考慮するのが相当である。
ところが、特許権に関する属地主義の原則とは各国の特許権がその成立、移転、効力などに関して該当国家の法律によって決められ、特許権の効力が該当国家の領域内でのみ認められることを意味する。即ち、各国はその産業政策に基づいて発明に関しいかなる手続きでいかなる効力を与えるのかを各国の法律によって規律しており、韓国においては韓国特許権の効力は韓国の領域内でのみ認められるに過ぎない。
従って、国家の審査と登録という手続きにより発生する特許権の附与、登録移転や有効・無効に関する訴訟に関しては、該当登録国の専属管轄であると解釈することが正しい(ヘーグ国際私法会議の1999年10月第5回特別委員会で確定した「民事及び商社に関する国際裁判管轄権及び外国判決に関する条約準備草案」第12条第4項は登録を要する知的財産権の登録、有効性、無効に関して登録国の専属管轄にすると定めていることを参考)。これは、特許権は同一な発明に関するものであっても各国での行政処分により異なる権利が各々附与されており、当該権利の登録国がその権利の成立と効力及び移転に関して判断することについて最も密接な関連性を持っており、その登録国で判断することが裁判進行の便宜性や執行などを通した裁判の実效性の側面から最も有利であり、その権利の登録は登録国の全権的行為であるため、その権利の成立と効力及び移転に関する最終的確定権限を当該登録国に帰属させることが相当なためである。
一方、民事訴訟法第31条によれば、専属管轄が決められた訴えには管轄の合意を認めない。また、国際的な場合にも専属管轄が認められる事件では合意管轄が認められないと見なければならない。従って当事者間で、特定事件に関して特定国家の法院に裁判管轄があると合意したとしてもその問題になった事件が他の国家の裁判権に専属する場合にはその合意の効力が認められないため、特許権のように特定国家機関の登録を必要とする権利の移転に関する手続きの履行を求める訴えにおいてその登録国以外の他の国家の法院を管轄法院と定める管轄合意は効力がなく、被告が異義を留保せずに本案に関して答弁しても専属管轄の原理に反する限り弁論管轄ができる余地もないと見ることが相当である。
従って、本件訴えのうち、韓国で登録された特許権に対する移転登録手続きの履行を求める部分を除外した残りの請求は、本法院に国際裁判管轄権がないため不適法である。
専門家からのアドバイス
渉外事件に関する法院の対応は2種類の場合を想定することができる。本件のように国際裁判管轄権を否認する場合と、国際裁判管轄権を認めて実体の判断を下すもののその判決の執行如何は該当国家の判断に任せる場合とがあり得る。このとき、いかなる基準が適用されるかが問題になり得るが、韓国法院は原則的に訴訟原因である紛争になった事案又は原・被告などの当事者が韓国と実質的な関連を持つ場合にだけ韓国法院に国際裁判管轄が認められるものの、国際裁判管轄の特殊性を考慮している。このような点に照らし特許権の属地主義の原則、外国で登録又は出願中である特許の移転手続きはその外国の国家機関が関与している点などを根拠に韓国法院の国際裁判管轄権を否認したことは、国際裁判管轄の特殊性を十分に考慮したものと見られ、まだ上級審の判断が残ってはいるものの、一応妥当な判決であると言える。ただし、原告の立場から見れば、本判決が韓国における権利救済の可能性を基本的に否認しており、国際裁判管轄権の認定と韓国法院判決の外国における執行問題は別個であるという点などを理由にして争う余地があるため、これに対する上級審の判断が注目される。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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