知財判例データベース 積極的権利範囲確認審判の審決取消訴訟において、時期を逸した確認対象発明の不実施主張が許容されないことを説示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
○○(原告)v. デホ株式会社(被告)
事件番号
2007ホ647
言い渡し日
2007年10月05日
事件の経過
上告

概要

183

積極的権利範囲確認審判手続きにおいて被請求人が確認対象発明をあたかも実施しているかのような言動を示し、請求人も特許審判院も被請求人がこれを実施していることを前提として手続を進め、被請求人敗訴の審決に至った後、審決取消訴訟の段階に至ってはじめて被請求人がこの確認対象発明を実施していなかったと主張することは、禁反言又は信義則によって許容されない。

事実関係

被告は、本件確認対象発明が被告の登録特許発明の権利範囲に属するという趣旨の積極的権利範囲確認審判を特許審判院に請求し、特許審判院はこれを認容する審決を下した。その後、原告は特許法院に上記審決の取消を求め、自分は本件確認対象発明を実施していないため、本件審判請求は適法でないという主張を新たに提起して争った。

判決内容

法院は、権利範囲確認審判において、確認対象発明の特定は審判請求の適法要件として審決時を基準に判断され、これに対する審決取消訴訟はそのような審決の適法性のみを判断の対象とする点、特に積極的権利範囲確認審判において確認対象発明を実施しているかどうかは被請求人の支配領域にあるものであるため、請求人はこれを正確に把握することができず、これを確認及び立証するのに相当な努力が要求される反面、被請求人は非常に容易にこれを確認することができる点、積極的権利範囲確認審判で請求人が特定の確認対象発明を被請求人が実施しない場合には確認の利益がなく、特許発明の権利範囲など本案に関してさらに判断する必要なしにその審判請求は却下される点、及び審判手続きにおいて確認対象発明の補正は審判請求趣旨の補正に該当し特許法第140条第2項、第1項により要旨を変更しない範囲内で許容されるが、審決以後の審決取消訴訟の段階では許容されない点などを考慮すれば、積極的権利範囲確認審判手続きにおいて被請求人が請求人の審判請求を単純に否認し請求人の側が特定の確認対象発明の実施・不実施を立証するようにするのではなく、答弁書又は意見書を提出したり口頭陳述するなどの方法で審判請求の適法要件と本案の要請に関して積極的に争いつつも、実際に当該確認対象発明を実施しているかどうかに関してはこれを肯定したり、又は何ら答弁をしないなど、請求人に対してあたかも確認対象発明を実施しているかのような明示的又は暗黙的な言動を示すことで、これにより請求人が確認対象発明の補正やその実施に関する証拠提出などの特別な措置を取らないまま審判手続きを進め、特許審判院も被請求人が確認対象発明を実施していることを前提に審決を下した場合には、たとえ審判手続きと審決取消訴訟手続きが審級関係にはないとしても、審決取消訴訟の段階に至ってようやく被請求人であった当事者が当該確認対象発明を実施していないと主張することは自らの言動により形成された相手側の信頼を害し、審判手続きを過度に形骸化させるものとして禁反言又は信義則により許容されないと言えると判示した。

専門家からのアドバイス

積極的権利範囲確認審判において被請求人が確認対象発明を実施しているかどうかを審判段階から積極的に争わなかったのにもかかわらず、審決取消訴訟に至ってから実施していないと主張するということは、当事者の訴訟戦略という側面から見れば、一応許されるのではないかと見ることもできる。しかし、一般訴訟とは異なり、特許法上の審判手続きと審決取消訴訟手続きは互いに上級審下級審の関係ではないため、被請求人が審判段階では全く争わなかった確認対象発明の実施・不実施を審決取消訴訟の段階に至ってから不実施であると主張した場合、審判請求人は訴訟段階でそれに対し効果的に対処できる手段が実質的にないという点を考慮すれば、結局のところ、特許法院が禁反言又は信義則を根拠にこのような適切な時期を逸した不実施主張を許容しなかったことは妥当な判決であると言える。

従って、積極的権利範囲確認審判の当事者、特に被請求人はこの点を念頭に置いて審判手続きに臨まなければならないことはもちろん特許審判院でもこれを考慮した適切な審判手続きの進行が必要であろう。

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