知財判例データベース 前提部と特徴部に分けて記載された考案の請求範囲において、前提部は必ずしもこれを公知の技術として認めるという趣旨とみることができないと判示した事例
基本情報
- 区分
- 実用
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- ○○(原告)、株式会社スングァン(補助参加人)v.○○(被告)
- 事件番号
- 2007ホ2469
- 言い渡し日
- 2007年10月05日
- 事件の経過
- 上告
概要
180
前提部と特徴部に分けて記載された考案の請求範囲において、権利者が前提部については権利を主張しないという意思があると判断されるが、これは権利の保護範囲に関する問題であるだけで、出願された考案が先行技術に比べて新規性又は進歩性があるかを判断することにおいて、どの構成要素が出願前に公知されたのかは事実関係の問題であって考案の請求範囲の記載形式により時期的事実関係が確定されるのではないため、権利の保護範囲から除外するという意思があるとしても必ずしもこれを公知の技術として認めるという趣旨とみることはできない。
事実関係
原告は被告の本件登録考案がその出願前に公知となった先行考案と比べて新規性ないし進歩性がないため、その登録が無効とならなければならないという趣旨の無効審判を請求し、特許審判院は上記の審判請求を審理した結果、「本件登録考案の構成部分(1)及び(4)は比較対象考案1から、構成部分(2)は比較対象考案2から極めて容易に考案できるものであるが、構成部分(3)は比較対象考案1ないし3から極めて容易に考案できない」という理由で原告の審判請求を棄却する本件審決をした。これに対し、原告は本件登録考案の前提部(構成部分(1)ないし(3))は被告が公知の技術であることを認め、補正などを通して意識的に本件登録考案の保護範囲から除外した構成であるため、前提部を除外した構成部分(4)だけで本件登録考案の新規性を判断しなければならないと主張し、上記審決の取消を求める訴訟を提起した。
判決内容
考案の請求範囲を前提部と特徴部に分けて記載する方式、いわゆるジェプスンタイプにおいて、前提部の意味は、イ.考案の技術分野を限定する場合、ロ.考案の技術が適用される対象物品を限定する場合、ハ.公知の技術と考えて権利の保護範囲から除外する場合など色々な形態があり得る。そのうち、出願人が公知の技術部分を前提部と、新しく創案した技術部分を特徴部に分けて請求範囲を記載した場合、出願人が出願過程において先行技術との関係で新規性及び進歩性欠如の拒絶理由を克服するために、構成要素のうち、一部を前提部に戻す方法により前提部に対しては権利の保護範囲として主張しないという意思を明らかにした時には、特徴部には該当せずに前提部にだけ該当する均等な構成要素を含んだ技術の実施に対しては、自身の権利を主張しないという意思としてみることができるはずである(2002年6月14日言渡2000フ2712判決など参照)。しかし上記のような法理は出願又は登録された考案に対する権利の保護範囲に関する問題であるだけで、出願された考案が先行技術に比べて新規性又は進歩性があるかを判断することにおいて、どの構成要素が出願前に公知されたのかは事実関係の問題であって考案の請求範囲の記載形式により時期的事実関係が確定されるのではなく、権利の保護範囲から除外するという意思があるとして必ずしもこれを公知の技術として認めるという趣旨とみることもできない。さらに公知された構成要素が含まれているとしても、考案の新規性又は進歩性を判断することにおいては、公知の構成要素を含んだ有機的一体物としての考案全体の技術思想が比較対象になる先行技術との関係において新規性ないし進歩性が認められるかどうかを把握しなければならないものであるため、公知の構成要素を除外した残りの構成要素だけをもって先行技術と対比することはできない。
本件登録考案の請求範囲の記載が前提部と特徴部に分けて記載されており、構成部分(1)ないし(3)が含まれた前提部の末に「公知の衛生機用調節台において」と記載されているが、上記の記載部分は、本件登録考案の対象が「衛生機用調節台」に関すること(対象物品ないし技術分野を特定した)という点と、このような「衛生機用調節台」そのものは公知のものであるという点を意味するものと解釈される余地も十分にあり、前提部に記載されたあらゆる構成要素が公知のものである点を認める趣旨とはみることができず、上記の通り被告が請求範囲の前提部にある構成要素を「公知」と記載したとしても、審判又は訴訟段階でそういう事実を認めない限り(被告はこれを争っている)、そういう「構成要素の公知」という事実関係が確定されるのでもないため、本件登録考案の新規性如何を判断することにおいて前提部の構成要素を除いて特徴部だけで判断しなければならないという原告の上記の主張は理由がない(ただし、本件登録考案は比較対象考案2と実質的に同一であってその新規性を認めることができないため、本件審決は取り消されるべきと判示した)。
専門家からのアドバイス
特許請求項の記載と関連して前提部と特徴部を「~において」の前後に分けて記載するいわゆるジェプスンタイプの請求項は実務でその有用性が広く認められている。発明の技術分野又は適用対象物品を限定する場合に使われることはもちろん、特に判例で言及された通り、出願人が権利範囲が非常に包括的であるとの趣旨の意見提出通知書を特許庁から受けた場合など、ジェプスン形式の請求項に補正することによって発明の特徴と出願人が保護を受けようとする範囲を明確にする場合によく使われている。しかし、このようなジェプスンタイプの請求項においても発明の同一性を把握するためには、特徴部に記載された発明の構成と前提部に記載された発明の構成を全体として判断しなければならないということは「All Element Rule」に照らして当然であると言える。従って、本件で法院が前提部と特徴部で構成された請求項の前提部に記載された発明を公知のものとは断定できないと判断し、「新規性の判断時、前提部に記載された発明の構成を除外したまま特徴部に記載された発明の構成だけを先行技術と比べなければならない」という原告の主張を排斥したことは至極妥当であると判断される。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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