知財判例データベース 特許権や実用新案権の放棄が発明の競合出願による瑕疵の治癒事由になり得ないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
キム・○ビン他1人(原告、被上告人)v. 株式会社ア△ケイファソン(被告、上告人)
事件番号
2005フ3017
言い渡し日
2007年01月12日
事件の経過
確定

概要

155

同じ日に同じ発明を対象として各々特許出願と実用新案登録出願がなされた場合、これは登録無効事由に該当し、たとえ出願が登録された後に特許権や実用新案権の一方を放棄した事実があったとしても競合出願時、出願人の協議がなされるか、二つの出願のうちの一つが無効又は取り下げになった場合に限ってのみ例外的に登録を受けることができると規定した旧特許法(2001年2月3日法律第6411号で改正される以前のもの)第36条の趣旨と法的安全性保障及び実質的な遡及効の可能性などを考慮するとき、これにより登録無効事由が克服されたとは言えない。

事実関係

被告の特許に対する利害関係人である原告は、被告が特許出願をした同じ日に同じ内容を実用新案出願したため、競合出願に該当すると主張し被告の特許に対する登録無効審判を請求した。これに対して原審は原告の主張を受け入れ該当特許の登録を無効とする判決をしたが、被告は特許出願と実用新案出願の対象が各々方法の発明と物の発明として同一でないだけではなく、登録された実用新案権は本件登録無効審判提起前に放棄したため、これにより競合出願に対する瑕疵は治癒されたと主張して上告した。

判決内容

旧特許法第36条は、同じ発明に対して同じ日に二つ以上の特許又は実用新案出願がある場合、これは登録無効事由に該当し、ただし出願人の協議があったり競合する出願が無効又は取り下げになったときに限り例外的に特許を受けることができると規定している。

上記の条項によると、同じ日に行われた被告の特許出願と実用新案出願は、その発明と考案の範疇が各々方法の発明と物の発明で異なりはするが、これは単に表現様式の差であるだけでその技術的思想の実体において両者は同一であると判断されるため、競合出願として登録無効事由に該当する言える。これに対して被告は実用新案権の放棄により競合出願の瑕疵が治癒されたことを主張したが、これは明文の根拠がないだけではなく、登録された権利の放棄を、登録を受けることができる例外事由として認める場合、権利者が放棄対象と時期を任意に選択することにより引き起こされる権利関係の不確定性が法的安全性を害するおそれがある点、特許権や実用新案権の放棄はその出願の放棄とは異なり遡及効がないにもかかわらず、結果的にその放棄に遡及効を認めることになって不当であり、さらに特許権などの放棄は原簿への登録だけで済むことから対外的な公示方法においては充分でない点などを総合してみると、出願が競合された状態で登録された特許権や実用新案権のうち、いずれか一つに対して事後権利者がその権利を放棄したとしても競合出願による瑕疵が治癒されると認める余地はないと言える。

したがって、このような趣旨で被告の特許登録を無効にした原審判決は正しく、被告が上告理由として主張する旧特許法第36条に関する法理誤解などの違法があるとは言えないため、この上告を棄却する。

専門家からのアドバイス

同じ発明に関して同じ日に2件以上の出願がある場合、1発明1特許の原則によりいずれか1件の特許出願だけが特許を受けることができる。このため特許法では出願人の協議や競合する出願の無効、取下げ、又は放棄という方式を通して競合出願の解消を許容しているところ(旧特許法では出願の放棄が含まれていなかった)、このような手続を予め取らなかった状態で登録となった場合は登録無効事由に該当する。上記判決の事案でのように登録後に一方の権利を放棄してもこれは競合出願の瑕疵を治癒できる事由に該当しないため、注意を要する。

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