知財判例データベース 訴訟取下げ合意の暗黙的解除を認めた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
株式会社○○(原告)v. 株式会社○○(被告)
事件番号
2005フ1202
言い渡し日
2007年05月11日
事件の経過
確定

概要

168

訴訟係属中に、当事者間で訴えを取り下げる合意がなされたとしても、訴訟取下書や訴訟取下合意書の提出もなく、その後の審理過程における訴訟取下げの合意事実についての当事者の主張もないまま、相当な期間が経過した場合、その訴訟取下げの合意は暗黙的に解除されたと認められる。

事実関係

原告は、被告の使用標章が原告の登録商標の権利範囲に属さないという権利範囲確認審判に対する認容審決に対し本件審決取消訴訟を提起したが、敗訴したため大法院に上告した。一方、原告と被告は2004年6月1日に本件訴えを取り下げることに合意したものの、原告・被告とも訴訟取下書・訴訟取下合意書を直ぐには大法院に提出していなかった。その状態で大法院は2004年12月9日に原審判決を破棄し事件を特許法院に差戻すという原告勝訴の判決を下したところ、原告は、差戻し後の特許法院における2005年3月11日に開かれた第2次弁論期日でも訴えを取下げず、被告もまた弁論終結日まで訴訟取下げの合意事実を主張しなかった。そして、原告請求認容の特許法院判決が出されて初めて、被告は2004年6月1日付の訴訟取下げ合意の存在を理由として、原告の本件訴訟は法律上利益がなく不適法であると主張し上告をした。

判決内容

審決取消訴訟を提起した後で、当事者間で訴えを取り下げる合意がなされたとすれば、特別な事情がない限り訴訟を維持し続ける法律上の利益は消滅し当該訴えは却下されるべきものであるが、訴訟取下げの契約も当事者間の合意により解除され得るのはもちろんであり、契約の合意解除も明示的になされた場合だけでなく暗黙的になされ得るものであって、契約の成立後に当事者双方の契約実現の意思の欠如や放棄により双方共に履行の提供や催告に至ることなく長期間これが放置されたのであれば、その契約は当事者双方の契約を実現させないとの意思が一致したとして暗黙的に合意が解除されたと解釈するのが相当である。従って、原告と被告間の訴訟取下げの合意約定後の様々な状況に照らしてみるとき、原告と被告は上記の合意約定が成立した後、その実現を放棄しようとする意思によりこれを放置したと言えるため、上記の合意約定は特別な事情がない限り暗黙的に合意解除されたと見るのが相当であり、被告の上告理由は受け入れることができない。

専門家からのアドバイス

上記の判決での争点は、知的財産権訴訟にだけ関連した事項ではないが、知的財産権訴訟でも戦略的に当事者間の合意により訴えを取り下げることが頻繁にあるため、知的財産権の実務者もこのような争点に留意する必要がある。

係属中にある訴訟を取り下げる合意が訴訟当事者間で行なわれた場合、両当事者は訴訟取下げ契約の存在を抗弁として主張することができ、これに対して法院は権利保護の利益がないという理由で訴えを却下するというのが大法院の一貫した態度である。これに基づけば、被告が上告の理由として訴訟取下げの合意事実を主張したことについては何も問題とすることなく却下すればよいようにも考えられる。しかし、大法院は本事案で当事者双方が破棄差戻し審の弁論が終結する時までも訴訟取下げの合意事実を明らかにしなかった点に照らして訴訟取下げ契約は既に暗黙的に合意解除されたと認めており、実際の訴訟で訴訟上合意、特に訴訟取下げ合意をしようとしたり、既に行った場合には双方の当事者としては、訴訟取下げの時期及び訴訟取下げ合意の抗弁提出時期に関しても細心の注意を払うべきである。

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