知財判例データベース 訂正審判による確定審決により削除された一部の請求項に対する無効審決取消は法律上の利益がないとされた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
株式会社極東ケイティー他1人(原告)v.○○(被告)
事件番号
2005ホ10213
言い渡し日
2007年07月12日
事件の経過
上告

概要

172

登録無効審判の審決後に特許請求範囲が訂正されたとしても、審決取消訴訟で特許法院が訂正された特許請求範囲を審決の基礎として特許発明に無効事由が存在するかどうかを判断することができ、その訂正が一部特許請求項の削除に該当する場合、無効審決のうち削除された特許請求項に対する部分は存在しなかった特許発明を対象に判断したのであるから違法ではあるものの、訂正審決が確定され、その特許請求項が存在しなくなった以上、その無効審決の取消を求める法律上の利益もない。

事実関係

原告らは、特許権者である被告を相手取って、登録特許は比較対象発明に照らして進歩性がないとの理由をあげて登録無効審判を請求したが、特許審判院は原告の審判請求を棄却する審決を下した(以下「本件審決」とする)。原告は特許法院にその審決の取消を求める訴訟を提起したが、一方、被告は原告の上記訴訟提起後、特許法院に訂正審判を請求し、その訂正を認容する審決が確定されて特許請求範囲が一部削除された。これにに対し原告は、本件特許請求範囲は本件審決後に確定した訂正審決により訂正されたのだから、本件審決では訂正された特許請求範囲に対し審理したところがなく、特許審判院で訂正された特許請求範囲に対し再度審理するようにすることが妥当であるため、本件審決は取り消されるべきであると主張した。

判決内容

旧特許法(2001年2月3日法律第6411号で改正される前のもの、以下同様)第136条第1項、第9項によれば、「特許権者は、特許請求範囲を減縮する場合、誤記を訂正する場合、不明瞭な記載を明確にする場合に限って特許発明の明細書又は図面に対して訂正審判を請求することができ、その訂正を認める審決が確定された時にはその訂正後の明細書又は図面により特許出願、出願公開、特許査定(特許決定)又は審決及び特許権が設定登録されたものとみなす」と規定している。従って、審決後に特許発明の明細書のうち特許請求範囲に対し訂正審判を請求して訂正を認める審決が確定された場合に、特許請求範囲の訂正により審決が審判の基礎としていた特許請求範囲が審決時には存在しなかったことと同じであり、その結果、審決は審判の対象を間違った請求範囲により誤って定めたことになる。

しかし、旧特許法第136条第9項は「審決」もまた訂正後の明細書又は図面によって審決されたものと規定しているため、訂正後の特許請求範囲により審決されたものとしてみなければならない点、そして同条第2項により特許請求範囲の訂正は特許請求範囲を実質的に拡張したり変更できないものであって訂正後の特許発明が権利の同一性をそのまま維持しながらその特許権の内容である権利範囲だけを減縮しなければならないのであるから実体法上の権利範囲にいかなる変動ももたらすとみられない点、登録無効審判請求事件に対する審決取消訴訟においては審決取消訴訟の審理範囲に制限を置かずに審判手続きで主張しなかった新しい無効事由に対しても主張・立証でき、これに対し審理・判断できる点(大法院2002年6月25日言渡2000フ1290判決)、無効審判請求人は、特許請求範囲を実質的に拡張したり変更した場合、又は特許出願時に特許を受けられない場合など訂正要件に違反した訂正審決が確定された場合にも訂正無効審判を請求することができ(旧特許法第137条、第136条第2項ないし第4項)、特許法院で訂正された特許発明に基づいてその無効如何を判断したとしても無効審判請求人に特に不利であると見られない点、大法院で登録無効審判事件継続中に訂正審決が確定された場合、原審決を破棄し審決を取消すことなく特許法院に差戻しをして特許法院に判断させるようにしている点(大法院2001年10月12日言渡99フ598判決など参照)に照らしてみるとき、登録無効審判の審決後に特許請求範囲が訂正されたとしても審決取消訴訟で特許法院が訂正された特許請求範囲に基づいて特許発明に無効事由が存在するかどうかを判断できると言える。従って、本件審決後に確定された訂正審決により特許請求範囲が訂正された本件訴訟においても、本件特許発明の無効事由が存在するかどうかを判断することができるため、原告の上記の主張は理由がない。

また、本件審決後に確定された訂正審決により本件発明の一部特許請求範囲が削除されたが、この場合、旧特許法第136条第9項により訂正後の特許請求範囲に対して特許出願され特許権が設定登録されたものとしてみなければならないため、削除された特許請求項の発明に対する特許権は最初からなかったものとみなければならない。従って、本件審決のうち、削除された特許請求項の発明に対する部分は存在しなかった特許発明を対象に判断し違法であるものの、訂正審決が確定され存在しなくなった以上、本件審決の取消を求める法律上の利益もなくなったとみるのが妥当であるため、この部分に対する本件訴えは不適法である。

専門家からのアドバイス

訂正審決が確定されると、旧特許法第136条第9項の規定により、その訂正後の明細書又は図面により特許出願、出願公開、特許決定又は審決及び特許権が設定登録されたものとみなされるが、これは特許出願に関する手続きの反復を避けるためのものとして理解されている。しかし、そのような効果のためにしばしば他の手続きとの関係が問題になるのであるが、先ず無効審判と訂正審判が同時に継続中である場合、どちらの審判を先に判断するのが望ましいかについて従来の大法院(2002年8月23日言渡2001フ713)は、訂正審判を先に審判するのが望ましいが、必ずしもそうでなくともよいと判示し、相互間に優先順位がないことを明らかにしたところがある。その結果、無効審判に対する審決が先に下され、その後の訂正審決が確定された場合、果して無効審決に対する取消訴訟で判断しなければならない特許発明は訂正審決前のものであるか、それとも訂正審決後のものであるかが問題になるのであるが、本事案はまさしくこの問題に対して一応の結論を提示している。

本判決は上告されているため大法院の判断を待つべきではあるが、無効審決のうち訂正審決により削除された特許請求項に対する部分については訴えの利益がないことを理由に却下した点は、無益な訴訟行為の反復を防止するという側面から訴訟経済上至極妥当であるものと思われる。従って、無効審判と関連した手続きを進めている特許権者としては、本判決による訂正審判の効果を考慮し、訂正による請求項の削除による「得」と「失」を計ってみることも一考であろう。

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