知財判例データベース 均等論を適用し特許権侵害の有無を判断する際に、禁反言の原則が適用されると判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 被告人(上告人)
- 事件番号
- 2005ド4210
- 言い渡し日
- 2007年02月23日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
163
特許権侵害の有無を判断するための均等論は禁反言の原則により制限を受けるものであるところ、特許明細書だけでなく出願から特許されるまでに特許庁審査官が提示した見解、特許出願人が提出した補正書や意見書などに示された特許出願人の意図に照らして、特許出願人ないし特許権者が特許の出願・登録過程で侵害と主張される製品を特許発明の保護範囲から意識的に除外したと見られる場合にはその製品が特許権を侵害したとは言えない。
事実関係
本件特許発明「アルバム台紙の連続製造装置」(特許番号第24509号)は最初に出願された当時、その出願書に添付された明細書の特許請求の範囲には原紙の一面に接着剤を塗布した後に乾燥室を通過させる回数と、原紙の他の一面に接着剤を塗布した後に乾燥室を通過させる回数に対して何らの限定がなかった。しかし、その後特許庁の審査官から「一つの乾燥室を使用することによる作用効果の説明が不十分である」などの拒絶理由通知を受けるや、本件特許発明の出願人はその拒絶理由を克服するために審査官の見解に承服するという趣旨の意見書と補正書を提出し、その特許請求の範囲を「原紙の一面に接着剤を塗布した後に乾燥室を2回通過させ、また原紙の他の一面に接着剤を塗布した後に乾燥室を2回通過させる構成」に限定すると共に、発明の詳細な説明欄に「片方面に先ず接着剤を塗布し乾燥室を2回通過させながら完全乾燥した後、ローラーにより原紙の面を転導し別途の工程によって接着剤を塗布し同じ乾燥室を2回通過させて原紙の両面に形成された接着層が完全に乾燥することにより、従来のように原紙を折り曲げることによって生じる非能率性と不正確性からもたらされる作業の面倒さと非能率性から抜け出すことができ、広い乾燥室を具備する必要がなく経済的である」という記載を追加し、特許登録を受けた。その後、本件特許の専用実施権者は被告人のアルバム台紙生産機械が本件特許発明の保護範囲に属するとして自身の専用実施権を侵害したと主張し、原審はこれを受け入れて被告人の有罪を認めた。しかし、被告人は自身のアルバム台紙生産機械は原紙の一面に粘着剤を塗布した後に乾燥室を1回通過させ、また原紙の他の一面に粘着剤を塗布した後に乾燥室を1回通過させる方法で原紙の上・下面の粘着層を乾燥する構成であるところ、これは本件特許発明の出願人が意識的に除外した部分であるため、被告人は本件特許の専用実施権を侵害していないと主張し上告した。
判決内容
特許発明と対比の対象になる製品(以下「対象製品」とする)が特許発明と均等関係にあるかどうかを判断することにおいて、特許出願人ないし特許権者が特許の出願・登録過程などで対象製品を特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外したと見られる場合には、対象製品が特許発明の保護範囲に属してその権利が侵害されたと主張することは禁反言の原則に背反するため、許容されない。そして対象製品が特許発明の出願・登録の過程などで特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたかどうかは明細書だけでなく出願から特許されるまでに特許庁審査官が提示した見解、特許出願人が提出した補正書や意見書などに示された特許出願人の意図などを参酌し判断しなければならない。
ところが、本件特許発明の出願人は乾燥室の作用効果に関する拒絶理由を克服し特許を受けるために出願当時は「接着剤が塗布された原紙の上面及び下面が乾燥室を各1回通過する構成」を含んでいた本件特許発明の特許請求の範囲を「接着剤が塗布された原紙の上面及び下面が乾燥室を各2回通過する構成」に限定しそれによる作用効果として「接着剤の完全乾燥及び乾燥室空間の縮小による経済性」などを発明の詳細な説明に追加し補正したため、被告人のアルバム台紙生産機械のように「接着剤ないし粘着剤が塗布された原紙の上面及び下面が乾燥室を各1回通過する構成」を採用している装置を本件特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外したと見るのが相当である。従って被告人のアルバム台紙生産機械が本件特許発明の保護範囲に属しその権利が侵害されていると主張することは禁反言の原則に背反するため、許容されないから原審判決を破棄し本件を原審法院に差し戻すことにする。
専門家からのアドバイス
特許権侵害の有無を判断するにおいて、特許権者の権利を実質的に保護するために特許請求の範囲に記載された文言による解釈の範囲を越えてその文言と均等と見られる発明も保護範囲に属するという均等論を適用する場合がある。この時、均等の範囲をどこまでとするかという問題が発生するが、均等論が適用される特許権の保護範囲を定めるにおいて上記の判例で言及されたような禁反言の原則が適用されることもある。
本件の場合、特許出願人は特許登録を受けるために乾燥室通過回数の限定がなかった従来の特許請求の範囲を各2回に限定し、発明の詳細な説明にその限定と関連した効果の優秀性に関して記載したところ、これは特許出願人は本件特許発明から「接着剤が塗布された原紙の上面及び下面が乾燥室を各1回通過する構成」を意識的に除外したと見るのに充分であると思われる。また、特許出願人の意図に照らして本件特許発明が乾燥室の通過回数を2回に限定していることは特許発明の本質的な部分として原則的に均等論の適用対象でないものとみる余地もある。結局、本判決のような結果になることを防止するためには、特許出願人は審査官の拒絶理由を受けた場合には、特許請求の範囲の減縮という安易な対応に終始せず、自身の発明の本質的な構成が何か、減縮補正するとどのような結果を招くのか等について熟慮した後、慎重に対応することが何より重要であると言える。
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