知財判例データベース 発明の進歩性に関する判断において後知恵による容易想到の主張を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
株式会社ソオテレコム(原告、上告人)v. 株式会社LGテレコム(被告、被上告人)
事件番号
2006フ138
言い渡し日
2007年08月24日
事件の経過
破棄差戻し

概要

179

発明の進歩性が否定されるかどうかを判断するためには、通常の技術者である当業者を基準にしてその発明の出願当時の先行公知発明からその発明を容易に想到できるかを判断しなければならず、進歩性が否定されるかどうかの判断対象になった発明の明細書に開示されている技術を後知恵として知っていることを前提に当業者がその発明を容易に想到できると判断してはならない。

事実関係

被告は原告の登録特許「移動通信網を利用した非常呼び出し処理装置とその方法」は進歩性がないとして登録無効審判を提起し、それに対応して原告は一部請求項に対する訂正請求をしたが、審判院は、本件特許請求範囲第3項は、構成要素4の「非常連絡先からの非常発信により盗聴モードを実行し、受信部の受話音声信号の受信を禁止して送信部を通じた送話音声の送出だけを許容する制御手段」にその技術的特徴があるが、これは、比較対象発明1の実施例1には「加入者がPHS端末機の非常ボタンを押さえて周囲の状況音を録音する」、実施例2には「加入者が不在等の理由で端末機を操作できない場合に、警備センターからPHS端末機に無音着信し周囲の状況音を録音する」と記載されており、実施例1は受話音声信号を禁止させる機能を当然の前提としており、実施例2の「無音着信」は警備センターからPHS端末機に着信するとき、呼出し音はもちろん受話音声信号も禁止させるということを当然に意味するため、本件訂正請求された第3項発明の構成要素4は比較対象発明1の実施例2の「警備センターから操作入力される信号が特定PHS端末機への着信指示であることを識別した時には指定されたPHS端末機に無音着信させ、そのPHS端末機の送話機に周囲の状況音を集めて送出し警備センターの録音装置で録音する」という構成と同一・類似の構成であって技術的特異性があるとは見難く、本件訂正請求された第3項の発明は進歩性が否定されるとし、これを理由に一部無効審決を下した。これに対し原告は、無効部分について審決取消訴訟を提起したが、特許法院も進歩性がないという判決を下したため、原告は大法院に上告した。

判決内容

原審判示の比較対象発明1の構成は着信信号音が発生しないように呼び出しを無音にし、端末機所持者が不在等の理由で端末機を操作できない場合、端末機ボタンを押さえるなどの人間の操作なしに接続させることによって、他人が気付かないように通話ができるようにする構成だけを開示しているだけであり、警備センターからPHSに受信される音声を遮断したままPHSから警備センターにだけ音声を送信するという構成まで開示してはいない。よって、本件第3項発明の構成要素4のようないわゆる盗聴モードを遂行する制御手段が開示されているとは見難く、本件特許発明の明細書で開示された内容を知っていることを前提として事後的に判断しない限り、当業者が比較対象発明により本件第3項の発明を容易に発明できなかったはずであるので、原審判決を破棄し原審法院に差し戻す。

専門家からのアドバイス

めぐるましく技術開発がなされる現代社会において、昨日は斬新なものとして受入れられた技術が今日には陳腐でむしろ当然なものとして受け取られる例が少なくなく、このような現状は関連特許が多数出願される技術分野で特に目立っている。従って、出願された特許に対する進歩性の判断においては特許法に規定されている通り通常の技術力を有する当業者の立場で「当該特許の出願前に知られた発明」を基とすべきであって、「当該特許の出願後に知られた発明」を後知恵として有した状態で判断してはならず、進歩性の判断時、常に当該特許出願の前後の技術状況を厳格に区分すべきである。本件で、大法院は、原告が進歩性を否定することができる事情、即ち「比較対象発明1の構成から当業者であれば当然本件発明の構成要素4を思いつくということを裏付ける証拠」を提出して立証しなければならず、そのような証拠がないのであれば、進歩性を否定できないと判示しており、事後の考察(後知恵)の法理を具体的に適用した事例として非常に興味深い。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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