知財判例データベース 無権利者の商標出願により登録された商標であるとしても権利範囲確認審判でその権利範囲を否定できないと判示した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
農業協同組合(原告)v.○○(被告)
事件番号
2007ホ3882
言い渡し日
2007年09月14日
事件の経過
上告

概要

181

商標権に関する権利範囲確認審判制度の性格と商標法上無権利者の出願による商標登録を無効とする規定がない点、そして通常使用権に関する商標法の規定などを考慮してみるとき、仮に本件登録商標が無権利者の商標出願により登録された商標であるとしても権利範囲確認審判によりその権利範囲を否定できないだけでなく、また被告が本件登録商標に対して通常使用権などの使用権限を有するかどうかは本件登録商標権の権利範囲を確認することと何らの関連がない。

事実関係

登録商標権者である原告は被告を相手取って被告が使用している標章(以下「確認対象標章」とする)が自身の登録商標と極めて類似し、商品も同一であるため、本件登録商標の権利範囲に属すると主張して積極的権利範囲確認審判を請求したが、特許審判院は確認対象標章と本件登録商標が類似していないとして棄却審決を下した。これに対し原告はその審決の取消を求めたところ、被告は審決取消訴訟になって原告の本件登録商標は被告が創案したものとして原告が勝手に本件登録商標で商標登録をしたため、自身には本件登録商標の使用権限があることはもちろん原告が被告に本件登録商標の使用を許諾したものと主張した。

判決内容

まず、被告が本件登録商標の使用権限ないし使用承諾を受けた事実が認められたとすると、確認対象標章が本件登録商標の権利範囲に属するかどうかを判断する本件の結論に影響を及ぼし得るかを検討してみる。

商標法第75条に規定されている権利範囲確認審判は、登録商標の権利範囲を確認するために商標権の効力が及ぼす範囲を確認対象になる商標との関係から具体的に確定しようとする制度であるだけであって、確認対象になる商標が商標権を侵害したかを判断することにより商標権者などに商標権侵害差止請求権や損害賠償請求権などの権利が認められるかを確定する手続きではない。また、商標法には特許権、実用新案権、デザイン権のような他の産業財産権と異なり商標登録を受けることができる権利の承継人でない者又は商標登録を受けることができる権利を冒認した者が商標出願をして商標登録を受けた場合にその商標権を無効とする規定を設けていない。そして商標法第57条第1項は「商標権者はその商標権に関して他人に通常使用権を設定することができる」、第2項は「第1項に規定による通常使用権の設定を受けた通常使用権者はその設定行為で決めた範囲内で指定商標に関し登録商標を使用することができる権利を持つ」と規定しているところ、このような通常使用権に関する商標法の上記の規定は、商標権者の許諾による通常使用権は商標権者が期間、地域、使用内容などに関して設定行為で決めた範囲内に限定されるという趣旨を示したものであり、その以上の他の事項を定めていない。

上記のような商標権に関する権利範囲確認審判制度の性格と商標法上無権利者の出願による商標登録を無効とする規定がない点、そして通常使用権に関する商標法の規定などを考慮してみるとき、仮に本件登録商標が無権利者の商標出願により登録された商標であるとしても権利範囲確認審判でその権利範囲を否定できないだけでなく、また被告が本件登録商標に対して通常使用権などの使用権限を有するかどうかは本件登録商標権の権利範囲を確認するのに何らの関連がなく(大法院1974年8月30日言渡73フ8判決参照)、これは具体的な商標使用行為に対する商標権侵害訴訟で被告が抗弁事項として主張したりその侵害訴訟と別途の確認訴訟で主張したりしなければならない性質のものである。

専門家からのアドバイス

一般的に積極的権利範囲確認審判の相手側の当事者は「権利範囲に属する」という審決が下されると、自身が現在使用している標章は今後は全く使用できなくなると考えやすい。しかし、本件判決で詳細に判示した通り、権利範囲確認審判は登録商標権の効力が及ぼす範囲を確認対象標章との関係において具体的に確定しようとする制度であるだけで、商標権者に商標権侵害差止請求権などが認められるかを確定する手続きではないため、法的措置の選択や防御権の行使のとき、この点を正確に理解し適切な意志決定をする必要がある。一方、商標法は商標の特性上、特許法などと異なり「法が定めるところにより商標を受けることができる権利を持たない場合」を拒絶理由又は無効事由と規定しておらず、無権利者の商標出願による登録商標の権利範囲を否定することはできないものであるところ、これまで商標登録をしないまま自身の標章を使用することに何らの問題がなかったとしても、将来発生するかもしれない不要な争いを避けて事業を安定的に営むためには、専門家との相談を通して自身の使用標章に対する権利確保の方法を事前に考慮しておくことが必要である。

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