知財判例データベース 請負契約の履行時に行われた特許侵害に関して請負人の責任を認め、損害賠償額の算定において、特許法第128条第5項の適用方法を判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告(被上告人兼付帯上告人)vs. 被告(上告人兼付帯被上告人)
- 事件番号
- 2003ダ15006
- 言い渡し日
- 2006年04月27日
- 事件の経過
- 確定(破棄自判)
概要
123
請負契約の履行において必須の工程により他人の特許を侵害した場合、発注人に当該特許侵害の責任が認められ、その損害賠償額の算定時、特許侵害により損害が発生したことは認められるが、特許侵害の規模が分からなくなった一部の期間においては、自由に合理的な方法を採択して弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づき相当な損害額を算定することができる。
事実関係
被告は自身が直接CD制作を企画したり、レコード企画社など顧客から依頼を受けてCDを制作・販売する必要がある場合、CDに録音された歌・演奏など音源が収められたマスターテープ等をレコード制作会社等に渡してCD制作に必要なスタンパーを制作するように依頼し、彼らから原告の特許発明であるデータコーディング方法を実施する段階を経て作られたスタンパーの供給を受けてCDを制作した。原審は被告の本件特許侵害に対する責任を認め、損害賠償額を算定し、これに対して被告が上告して更に損害の規模を立証し難い期間内の損害賠償額の算定に関連して原告が付帯抗告した。
判決内容
原告の特許発明はCDを制作するために必ず実施しなければならない必須工程に関するものであって、CD制作のためのスタンパーを制作するに当っては、原告の特許発明を実施せざるを得ないという点を考慮するとき、訴外会社等にスタンパー制作を依頼した被告が原告の特許発明を実施したものと見るべきであり、仮にそうでないとしても、教唆者としての責任を負わなければならないという趣旨の原審の判断は正しい。従って、被告が本件特許発明の存在を知らなかった、又は自身が実施させた技術が当該特許発明の権利範囲に属さないと信じた点等が正当化される余地がない限り、被告の過失による本件特許侵害の責任が認められ、仮にそうでないとしても、被告は訴外会社などレコード制作会社等のスタンパー制作行為を教唆した者として、彼らと共に共同不法行為者としての責任を負うと見るのが妥当である。
これに対して本件特許侵害に対する損害額を算定するのにおいて、原告が本件特許発明をはじめとしてCD製造に必要な特許発明を対象として長期間にわたって締結してきた実施契約上の実施料を類推適用し、侵害数量に当該実施料及び侵害期間内のドルに対する韓国ウォンの月別最低基準為替レートを乗じた値をその損害賠償額とし、「訴訟促進等に関する特例法」上の法定利率により遅延損害金を策定するのが相当である。
また、特許侵害の損害が発生したことは認められるが、その損害額を立証するために必要な事実を立証することが難しくなった場合には、特許法第128条第5項を適用して相当な損害額を決定することができ、この場合にはその期間中の侵害者の資本、設備等を考慮して平均的な製造数量や販売数量を計ってこれを基にすることができ、特許侵害が行われた期間の一部に対してのみ損害額を立証することが難い場合、自由に合理的な方法を採択して弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づき相当な損害額を算定することができると見るべきなので、本件被告のCD製造・販売量に関する記録が廃棄され、その被害規模を立証することが難しくなった期間に対し、為替レートの変動推移等これまでの弁論に示された事情と証拠を総合して損害額を算定した原審は妥当であり、これに対する原告の付帯上告は理由がない。
専門家からのアドバイス
第三者に請負で製品を生産させたが、その第三者が他人の知的財産権を侵害した場合、依頼した者の介入の程度によって差はあり得るものの、依頼者の意思とは関係なく民事・刑事上の責任を負うことになる場合があり得る。上記の判決は、問題になった特許発明が必ず実施せざるを得ない必須工程に関するものであるという点等を考慮するとき、依頼した被告が原告の特許発明が侵害されるだろうという事情を知る、又は知ることができたと判断したものと見られる。特許法等は、侵害者の過失を推定しており、事後的に自身に侵害に対する故意又は過失がないことを立証することは容易ではないので、第三者に他人の知的財産権を侵害する可能性がある仕事を依頼する場合には、契約書に依頼人を免責させるようにする条項を設ける等の備えが必要であろう。
一方、上記の判決は、特許侵害が行われた期間の一部に対しては損害額が立証されたが、他の一部期間に対してはそうではない場合、後者の期間に特許法第128条第5項を適用するに当たり、必ずしも損害額が立証された期間に対して採択された損害額の算定方法やそれと類似する方法でのみ損害額を算定せねばならないわけではないという点を明確にしており、この点にも留意したい。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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