知財判例データベース 登録意匠物品の設置工事などに伴う労務利益は意匠権侵害による損害に含まれないとした事例
基本情報
- 区分
- 意匠
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告株式会社(原告、被上告人兼上告人)v. 被告株式会社(被告、上告人兼被上告人)
- 事件番号
- 2005ダ36830
- 言い渡し日
- 2006年10月13日
- 事件の経過
- 確定
概要
141
意匠権者がその対象物品である天井吸音板を製造・販売する過程で購買者から通例的にその設置工事まで受注を受けてきた場合でもその設置工事代金まで意匠権侵害による損害額に含むのではなく、また、たとえ意匠権者がその侵害行為以外の事由で物を販売できなかった事情があったとしても侵害者がその具体的な数量を立証できない限り、これによる損害賠償額の減額は認められない。
事実関係
原告は本件登録意匠を使用しその対象物品である天井吸音板を製造・販売してきた意匠権者であって、被告が意匠1、2、3を使用し製造・販売した製品が本件登録意匠を侵害するという理由で被告を相手取って損害賠償請求訴訟を提起した。これを判断した原審は被告が使用した意匠1に対して本件意匠権の侵害を認め、意匠権者の物品の単位数量当り販売利益を基準に損害額を算定した。これに対して原告は、一般的に天井吸音板の販売時には購買者からその設置工事まで共に受注してきた事実を挙げ、その設置工事による労務利益も損害額に反映されなければならないことを理由に控訴したが、これは棄却された。
続く上告審で原告は先の損害額算定に対する主張を繰り返すと共に、付帯上告を通し被告の意匠2と3も本件登録意匠を侵害したことを再度主張し、一方、被告は原審が意匠1と原告の登録意匠が類似していると判断した部分は原告の本件登録意匠が出願される前に公知となった部分であり、仮に意匠権侵害が認められても市場で意匠権者の製品と競争する製品があり、侵害製品には被告の実用新案権が実施されている点などを考慮し、その損害賠償額が減額されなければならないことを主張した。
判決内容
旧意匠法第64条第1項本文は、意匠権者が自分の意匠権を侵害した者に対してその侵害による損害賠償を請求するとき、権利を侵害した者が侵害物を譲渡した場合にはその物の譲渡数量にその侵害行為がなかったとすれば意匠権者が販売できた物の単位数量当りの利益額をかけ合わせた金額を意匠権者の損害額とすることができると規定しているが、ここで言う単位数量当りの利益額とは侵害がなかったとすれば意匠権者が販売できたものと見なせる意匠権者製品の単位当り販売価額から、その増加分の製品の販売のために追加で支払うことになると見られる製品単位当りコストを控除した金額を言うものである。
従って、本件意匠権者である原告が被告の意匠権侵害行為がなかったとすれば天井吸音板をさらに販売でき、それにより天井吸音板の設置工事までさらに受注できたと予想されるとしても、天井吸音板の設置工事代金までも天井吸音板の販売価額であるとは見られないため、その増加するであろう労務利益まで単位数量当り利益額に含めないのが妥当である。
次に、旧意匠法第64条第1項ただし書に基づき、意匠権者が侵害行為以外の事由で物を販売できなかった事情があってそのような事由により販売できなかった数量を考慮し同条本文の損害賠償額を減額することができるが、一般的に侵害者の市場開発努力、販売網、侵害者の商標、広告、宣伝、侵害製品の優秀性などにより意匠権の侵害と関係のない販売数量がある場合は意匠権者が侵害行為以外の事由で物を販売することができなかった事情に該当すると見ることができる。従って、被告が本件登録意匠を侵害した当時、本件登録意匠と同一な用途の製品が市場に供給されていたり、侵害製品に被告の実用新案権が実施されていたというなどの事情もそのような事由として認められると言える。
しかし、実質的な損害賠償額の減額を主張するためには侵害者が上記のような事由により意匠権者が販売できなかった数量による金額を立証しなければならないのであるが、本事案では被告が競争企業の製品が本件登録意匠製品である天井吸音板に匹敵するだけのものであったとか、その市場占有率の水準と被告の実用新案権が侵害製品の販売増加に寄与した程度はどうなのかなどについて何らの立証をすることができない状況であるため、旧意匠法第64条第1項ただし書により損害賠償額を減額する根拠がないと言える。
専門家からのアドバイス
知的財産権の侵害が認められる場合にも具体的な損害額の算定は容易なことではない。必然的に権利者はより多くの損害が発生したと主張する反面、侵害者は色々な事情を挙げてより少ない損害が発生したと主張するようになる。上記の判決は旧意匠法で規定した損害額算定の基準をより明確にしたものであって、「物の単位数量当りの利益額」を売上高から必要コストを控除する方式で計算しなければならないという点を明らかにすると同時に、物の販売と共に通常発生する労務利益はそれに含まれないと明示することにより物自体に対する利益額に限定されることを明確にした。
また、損害賠償額の減額事由である「権利者が侵害行為以外の事由で物を販売できなかった事情」に多様な要素が含まれ得ることを認めながらも、侵害者が「権利者が侵害行為以外の事由で販売できなかった物の数量と金額」まで主張・立証することが要求されるとして、減額事由の認定のためには侵害者の充分な主張・立証が必要であることを明らかにした。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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