知財判例データベース 商標法第53条の著作権者との関係により商標使用が制限される場合、著作権者の同意がなくても商標権者が第三者の商標無断使用に対する禁止を請求できると判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
イ・ゼ○(再抗告人)V. ファン・ウン他3人(被申請人)
事件番号
2006マ232
言い渡し日
2006年09月11日
事件の経過
再抗告棄却

概要

148

商標法第53条にて、登録商標がその登録出願日以前に発生した著作権と抵触する場合、その登録商標の使用時に著作権者の同意がなければならないと規定しているのは、著作権者に対する関係において商標権者の登録商標使用が制限されることを意味するため、著作権者と関係のない第三者が登録商標を無断で使用する場合については、商標権者が著作権者の同意なしにその使用禁止を請求することができる。

事実関係

本件商標の商標権者である再抗告人は、被申請人が本件商標を無断で譲渡したり指定商品以外の商品に商標を使用するなど、再抗告人との契約に違反したことを理由に被申請人を相手に上記の契約の解約を通知した後、該当商標に対して商標使用禁止仮処分申請をした。これを判断した第一審は再抗告人の主張のような被申請人の契約違反行為があったことを疎明する資料が十分でなく、これを根拠にした再抗告人の契約解約の意志表示はその効力を認めることができず、従って契約の解約を前提とした本件仮処分申請はその理由がないと判断して棄却した。再抗告人は抗告したが、抗告審裁判部はこれをまた棄却し、第一審の決定理由に敷衍して、再抗告人の商標が1992年9月19日頃死亡したアメリカ人のデザイナーケネスロバートハワード(Kenneth Robert Howard)が再抗告人の商標出願前に創作した「フライングアイボール(flying eye ball)」に亡人の芸名である「Von Dutch」を付加したものに過ぎず、上記の亡人の著作物と実質的に同一であるにもかかわらず、再抗告人がこれを商標として使用することに対し正当な著作権者からの同意を得たところがないため、商標法第53条に基づき本件商標を使用する権限はなく、その侵害に対する排除を求めることもできず、従って本件仮処分申請のような再抗告人の商標侵害に対する排除請求は、その被保全権利の存在が認められないと判示した。これに対して商標権者は再抗告した。

判決内容

商標法第53条にて、登録商標がその登録出願前に発生した著作権と抵触する場合に著作権者の同意なしではその登録商標を使用することができないと規定しているのは、著作権者に対する関係において登録商標の使用を制限するものであり、著作権者と関係のない第三者が登録された商標を無断で使用する場合にその禁止を求めることができないという意味ではないと言える。従って、抗告審判決説示の理由とは異なり、本件商標が著作権者の著作物と実質的に同一のものであり、商標の使用に対する著作権者の同意がなかったとしても、商標権者である再抗告人としては著作権者と関係のない本件仮処分の被申請人に対し商標権侵害を主張することができると言える(但し、本件仮処分申請の前提になる再抗告人の契約解約が適法に行われなかったという理由で再抗告人の抗告は棄却された)。

専門家からのアドバイス

商標法は、商標権者に登録商標を指定商品に独占的に使用する権利と他人による登録商標と同一又は類似の商標の使用を禁止させることができる権利を付与している。ところが、商標権も他の権利と同じように公益上の理由ないし商標権の限界などにより制限される場合があるところ、登録商標の使用時、商標登録出願前に出願された他人の特許権・実用新案権・デザイン権又は商標登録出願前に発生した他人の著作権と抵触する場合には、抵触する指定商品への商標使用はこれらの先行権利者らの同意を得なければならないこと(商標法第53条)も上記のような商標権制限に該当する。但し、権利の制限は法的根拠なしにむやみに行うことはできず、商標法は著作権などの先行権利者らに対する関係において商標の使用権が制限されるとだけ規定しているため、その範囲を越えて著作権などの先行権利者以外の第三者に対する商標権に基づいた使用禁止請求権までが制限されるとは見ることができないというのは至極妥当な判断であるが、この大法院判決はこの点を明確にしたという点でその意義がある。

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