知財判例データベース 侵害被疑生産物が方法特許出願前に公知又は公然実施された場合は、特許権侵害を主張する者が侵害被疑者の生産方法を証明しなければならないとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ダボン産業株式会社(申立人、被上告人)v. パク○○(被申立人、上告人)
- 事件番号
- 2003ダ37792
- 言い渡し日
- 2005年10月27日
- 事件の経過
- ソウル高等法院に差戻し
概要
109
物を生産する方法の発明について特許となった場合に、その物と同一の物が特許出願前に国内で公知となったり公然と実施されたり、または特許出願前に国内外で頒布された刊行物に掲載された場合、特許法第129条による生産方法の推定を受けるためにはその出願前に公開されなかった新規な物でなければならない。
事実関係
申立人は発熱性保温パックのための不織布を生産する方法について特許登録(特許番号第35526号、以下“本件特許発明”とする)を受けていた。ところが、被申立人が生産・販売している不織布(以下“本件不織布”とする)と本件特許発明の方法により生産した不織布は共に、通気孔の数と大きさを調節することにより発熱性保温パックの発熱温度と持続時間の調節ができるようになっており、通気孔の形が同じ円形で、通気孔の配列状態が類似していたため、申立人は被申立人が本件特許を侵害したという理由でその侵害行為の差止・予防を求める仮処分を申請したところその申請が法院で受け入れられた。これに被申立人は仮処分異議を提起したが、原審は本件特許発明により生産した不織布と被申立人が生産・販売する本件不織布が同一の物であるため、後者は特許法第129条により本件特許発明の方法によって生産されたものと推定されるとして被申立人の異議申立を棄却し、その控訴審のソウル高等法院も仮処分申立が理由があるという趣旨の判断をするや、これに被申請人が上告した。
判決内容
特許法第129条によれば、物を生産する方法の発明について特許になった場合にその物と同一の物はその特許になった方法により生産されたものと推定するものの、ただしその物が特許出願前に国内で公知となったり公然と実施された物であったり、または特許出願前に国内外で頒布された刊行物に掲載された場合にはその限りではないと規定しており、その同一の物が上記の規定によって生産方法の推定を受けるためにはその生産方法に関する特許の出願前に公開されていない新規な物でなければならないものである。ところが、本件特許発明の詳細な説明には従来の技術として一定の大きさの通気孔を形成した非通気性フィルムに通気性織布または不織布を接着させて作った発熱性保温パック用の通気性を有する織布または不織布を作る方法が詳しく記載されており、本件特許発明の目的は上記のような従来技術の問題点を解消するために、非通気性樹脂フィルムを片方面に熱融着し、コーティングされた織布または不織布にニードル穴を連続的に形成すると共にニードル穴の数を自由に選択し形成できる発熱性保温パックのニードル装置及び方法を提供することをその目的にしていると記載している点に照らして見れば、本件不織布のように非通気性樹脂フィルムが片方面に熱融着されコーティングされたコーティング層を持って通気穴が連続的に形成されたことを主な技術思想とする織布または不織布は既に本件特許出願前に公知となったか公然と実施されたことが明らかであるため、本件特許発明には特許法第129条の推定規定を適用することができないと言える。従って、本件特許発明の侵害を主張する申立人としては被申立人が本件特許発明であるニードル装置またはニードル方法を使用し本件不織布などを生産したという点を立証しなければならないが、債権者(申請人)が提出したあらゆる資料によってもこれを認めるには不十分であり、その他にこの点を認めるだけの証拠がない(むしろ原審が合理的な理由なしに排斥した証拠を集めてみれば、債務者(被申請人)は1994年頃から日本国のマタイ株式会社から本件特許発明と異なる方法すなわち、ピンが打込まれたローラの回転により通気孔を穿孔する方法で製造した織布または不織布を輸入し使用している事実がうかがい知れる)。とすれば、原審判決には特許法第129条の生産方法に関する法理を誤解し採証法則を違反して事実を誤認した違法がある。
専門家からのアドバイス
物を生産する方法の発明について特許を受けた権利者の立場では、特許法第129条により侵害者が生産・販売する物が権利者が生産・販売する物と同一の物であるという事実のみを立証すれば侵害者自らがその特許方法により該当物を生産したという事実を立証しなくてもよいことになるため、立証負担を相当軽減することができる。しかし、特許法第129条ただし書では、上記から分かるように立証負担軽減に関する例外を設けているため、権利者自身が生産・販売する物と同一の物が流通されているとしても侵害差止訴訟提起に先立ち上記の例外に該当するかどうかを今一度綿密に検討しなければならない。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195