知財判例データベース 前後の著作物の間に依拠関係が証明されず、実質的類似性も認められないという理由で著作権侵害を否定した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
ソウル中央地方法院第11民事部
当事者
キム・ナムミ(原告)v. 1.ドリームワークスエルエルシー、2.CJエンターテインメント株式会社(被告)
事件番号
2003ガ合87723
言い渡し日
2005年06月22日
事件の経過
確定

概要

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著作権の侵害如何を判断するために、二つの著作物の間に実質的な類似性があるかどうかを判断するにあたっても創作的表現形式に該当するものだけを以って対比すべきであり、小説などにおいて抽象的な人物の類型又はある主題を扱うことにおいて典型的に隨伴される事件や背景などはアイディアの領域に属するものであるため著作権法による保護を受けることができない。

事実関係

シナリオ作家である原告は1999年10月頃「記号を読め」という題目のシナリオ(「以下、本件シナリオ」とする)を創作し、英語に翻訳した後、ひもで縛って誰でも開封できる封筒に入れ、被告ドリームワークス(「以下、ドリームワークス」とする)とその設立者3人に郵送したが、このシナリオの一部は包装の下の部分が鋭いナイフのようなもので切断され、一部は郵送した当時の状態そのままで原告に返送された。一方、ドリームワークスは2001年3月頃日本の中田秀夫監督が1998年1月に製作した日本映画リングをシナリオ専門作家に脚色させて制作した「ザ・リング」という映画(以下、「本件映画」とする)を製作してアメリカで上映し、日本、カナダにも輸出する一方、韓国では被告CJエンターテインメントに10年間の上映権を付与して2003年1月10日から上映した。原告は本件映画を製作したドリームワークスとその設立者らが、自分が送付したシナリオを見たことが明白であり、両シナリオはモチーフ、構成、plot point、パターン及び構図において類似するため、たとえ文章対文章に対応される類似性はないとしても全体的に包括的な類似性が認められると主張して、著作権侵害行為の差止及び損害賠償などを求める本件訴えを提起した。

判決内容

著作権の保護対象は学問と芸術について人の精神的努力により得られた思想又は感情を言葉、文字、音などにより具体的に外部に表現した創作的な表現形式であり、表現されている内容、即ちアイディアや理論のうち、思想及び感情それ自体はたとえそれに独創性、新規性があるとしても著作権の保護対象にならないものであるため、著作権の侵害如何を判断するために二つの著作物の間に実質的な類似性があるかどうかを判断する場合においても創作的表現形式に該当するものだけを以って対比すべきであり、小説などにおいて抽象的な人物の類型又はある主題を扱うことにおいて典型的に隨伴される事件や背景などはアイディアの領域に属するものとして著作権法による保護を受けることができない。

本件においては本件映画を製作するに当たってドリームワークスが原告のシナリオに基づいているという立証が足りず、原告が類似していると主張する事件解決のモチーフ、設定の構図や問題解決の構造、構成点やシナリオの基本骨格などは殺人ミステリー作品の事件の発生、展開、解決において典型的に隨伴されるものであるため、そのようなモチーフ、構成、基本骨格、構図自体は著作権の保護対象である創作的な表現形式として見ることは難しく、両著作物のうち、これを除外した残りの部分を比べてみても実質的類似性があると見ることが難しいため、被告らが原告の著作権を侵害したとは言い難い。

専門家からのアドバイス

実質的類似性をどのような方法で認めるかに関しては一義的な基準を設定するのが非常に難しいものであって、国家ごと、裁判所ごとにその判断基準に関する理論が相違し非常に多様である。従って、著作権侵害者を相手取って訴えを提起しようとする場合、実質的類似性を判断するための何らかの基準に関する多数の学説を綿密に検討してどのような主張をメインにするのかを判断する必要がある。ただし、複雑な理論に従わなくても、侵害者が自身の著作物に接する相当な機会を有したという点や、権利者の作品に基づかなければ侵害者の作品のうち、特定部分は作り得なかった点などを裏付ける具体的資料を確保した場合は、かなり有利な立場に立つことができ、例えば、侵害者の作品に権利者の作品に存在した誤謬や矛盾と同一の誤謬や矛盾があったときなどは、依拠の点が立証されたと見る可能性が高いため、両作品に共通の誤謬や矛盾があるかどうかを検討することも一考に価する。

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