知財判例データベース 営業秘密保護及び転職禁止約定をした勤労者の転職を制限した事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
株式会社ネオエムテル(申請人)v. ジョン・○○(被申請人)
事件番号
2005カ合2274
言い渡し日
2005年09月09日
事件の経過
未確認

概要

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不正競争防止法上の営業秘密とは、公然と知られておらず独立された経済的価値を有するものとして相当な努力により秘密に維持、管理された生産方法・販売方法、その他営業活動に有用な技術上または経営上の情報を示すと言えるところ、会社との約定により営業秘密維持義務及び転職禁止義務を負う者は上記のような営業秘密の保護のために一定期間、上記の営業秘密と関連した業務に従事してはならない。

事実関係

申請人は1999年11月頃ソフトウェア開発及び供給業、通信用コンテンツ付加サービス業などを目的として設立された株式会社として、「モバイルベクトルグラフィックソリューション」である「VIS」の開発、販売を主力事業としており、被申請人は2000年8月23日申請人の会社に入社し技術企画、移動通信事業者に対する営業業務などを担当していたところ、2004年1月頃からは国内マーケティング本部技術営業チームのチーム長を担当して国内移動通信事業者らに対する営業活動を総括する一方、2002年11月20日から2005年3月29日までは申請人会社の登記された理事(取締役)としても在職したが、2005年3月29日に退職した。被申請人は申請人の会社に入社した当時の2000年8月23日と、2005年度年俸契約を締結した2005年2月4日との2回にわたり「在職中または退職後も申請人の事前書面同意なしには申請人の営業秘密を勤務目的以外の用途に使用せず、第三者にこれを提供したり公開せず、退職後2年間申請人の競合社に就職せず、申請人の営業秘密を利用し創業もしない’という内容が記載された営業秘密保護誓約書を作成してこれを申請人の会社に提出した。一方、被申請人は申請人の会社から退社する前の2005年3月18日に申請人の競合企業と雇用契約を締結し、退社翌日である2005年4月1日からその企業で勤めていた。これに対し申請人は被申請人が転職することにより営業秘密が侵害されるおそれがあるという理由で本件仮処分申請を提起した。

判決内容

申請人が営業秘密として特定した一部の事項は、申請人会社の内部情報として外部に公然と知られていないものであって、その独立された経済的価値もあるものと考えられ、申請人の会社が役職員に営業秘密保護誓約書を作成・提出させるなどの方法で該当情報を秘密として維持、管理してきた事情も伺えるため、不正競争防止法上の営業秘密に該当すると言える。また、被申請人は申請人の会社に提出した営業秘密保護誓約書により申請人会社の営業秘密維持義務及び競合会社への転職禁止義務を負うと言えるところ、被申請人はその職務遂行の過程で申請人の会社の開発技術及びプログラムに関する情報、営業及び経営に関する主要情報に該当する営業秘密を知り得たものと判断され、よって被申請人は申請人の会社で約4年7ヶ月間勤務しつつ登記上の理事(取締役)兼国内マーケティング本部技術営業チームのチーム長という重責を担っていた点、被申請人が転職した会社は申請人の会社と競合関係にあるだけではなく特に営業秘密保護誓約書に具体的に挙げられた転職禁止対象企業に含まれる点などを考慮してみるとき、被申請人による本件営業秘密の侵害のおそれは相当に大きい。ただし、本件営業秘密が比較的変化の速度が速いIT技術及びその営業に関連した情報であり、主に被申請人の記憶の中にのみ残っているものと見られる点などの事情を参酌して営業秘密保護誓約書上に規定された2年ではなく1年6ヶ月間のみ営業秘密侵害差止及び転職差止を命じるのが相当である。

専門家からのアドバイス

上記の判決から確認できる通り、不正競争防止法上の営業秘密として保護を受けるためには一定の要件を充たさなければならないところ、実際において営業秘密が職員の転職などにより既に流出される可能性が発生した後に事後的な法的措置を行なおうとするときには該当要件の立証が容易ではない場合が多く、そのような要件を充たすとしても営業秘密の保護期間などにおいて一定の制限を受ける可能性が高い。従って、まずは会社の営業秘密を事前に保護することができるように体系的な努力を傾けることが重要であり、次に事後的な法的措置にも備えて勤労者と営業秘密約定を締結するなど必要な手段を普段から講じておく必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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