知財判例データベース 出版された著作物の複製と出版権侵害

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
イム某氏(被告人)VS 検事(上告人)
事件番号
2001ト3115著作権法違反(刑事)
言い渡し日
2003年02月28日
事件の経過
破棄、差戻し

概要

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被告人は、被害者が発行した本の内容のうち一部を同一に引用した本を著者を異にして発刊した。これについて検事は被告人を出版権侵害の嫌疑で起訴し、大法院は、他人が出版した本の内容のうち一部だけを複製して本を出版する行為は出版権の侵害には該当しないとした原審を破棄し、ソウル地方法院に本件を差し戻した。

事実関係

被害者は著作者から出版権の設定を受けて編入語彙SPEED完成等の三巻の冊子を発行した者である。被告人は同編入語彙SPEED完成等の三巻の冊子から引用された内容を含めて「98編入英語スピード完成」という冊子を複製して配布した。原審では、出版とは、著作物を「原作のまま」印刷術により文書又は図画により複製・配布することをいうので、被告人が被害者発行の本を原作のままでなく、その内容のうち一部を、それも著者を異にして複製、配布したのは出版権の侵害に該当しないとの理由により、本件告訴事実に対して無罪を宣告した第1審をそのまま維持していた。

判決内容

裁判所は、一般的に出版とは、著作物を印刷その他これと類似する方法により文書又は図画として発行する、すなわち複製・配布する行為をいうもので、著作権法第54条第2項が「出版権の設定を受けた者は、その設定行為で定めるところに従い、その出版権の目的である著作物を原作のまま出版する権利を有する」と規定しているが、同規定のうち「原作のまま」とは、原作を改作し、又は翻訳する等の方法により変更せずに出版することを意味するだけで、原作の全部を出版することのみを意味するものではなく、別途に原作の全部を複製・配布することだけを出版とみる理由はないので、侵害者が出版された著作物を全部複製しなかったとしても、そのうち相当な量を複製した場合には、出版権者の出版権を侵害するものであるというべきで、また、著作物を複製するに当たって著者の表示を異ににしたからといって出版権の侵害にならないと見る理由はないとした。また、原審は、被告人が出版した著作物が被害者の出版した著作物のうち相当な量を複製したものであるかについては詳細に検討しないまま、著作物の一部のみを、それも著者を異にして複製・配布する場合には出版権の侵害にならないという理由で、公訴事実に対して無罪を言渡た第一審をそのまま維持したが、ここには出版権の侵害に関する法理を誤解し、判決の結果に影響を及ぼす違法があり、これを主張する上告理由の主張には理由があると判示した。

専門家からのアドバイス

出版物の一部をそのまま複製して配布した場合でも出版権の侵害に該当するという大法院の判断は正当なものであると見られる。ただ、原作を改作し、又は翻訳して出版する場合も、原著作者の権利のみならず、出版権者の権利を損ない得る場合もないとは断定できず、「改作又は翻訳する等の方法により変更を加えない場合」にのみ出版権の侵害に該当するという判示部分は疑問の余地がある。

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