知財判例データベース 一般トップレベルドメイン名の国際裁判管轄権に関して判示した事例

基本情報

区分
ドメイン
判断主体
ソウル地方法院
当事者
金ジョングァン(申請人)VS 漢江システム株式会社(被申請人)、補助参
事件番号
2002カ合1404 ドメイン名登録者情
言い渡し日
2002年09月17日
事件の経過

概要

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アメリカ合衆国連邦地方裁判所が、被申請人を登録機関として申請人名義で登録されたドメイン名at-t.com(以下「本件ドメイン名」)を補助参加人AT&Tcorp.に移転せよと命じたのに対し、申請人はソウル地方法院に本件ドメイン名の登録機関である被申請人を相手取って本件ドメイン名の登録者情報の変更を禁止する仮処分を申請し、裁判所は申請人の請求を認容した。

事実関係

申請人は訴外第三者から本件ドメインネームのat-t.comの移転を受け、被申請人を登録機関として本件ドメイン名を登録した後、同ドメイン名により接続されるウェブサイトでインターネットショッピングモールを開設して運営していた。補助参加人は統一ドメイン名紛争解決政策に従って本件ドメイン名の登録者である申請人を相手取って世界知的財産権機構(WIPO)仲裁調停センターに本件ドメイン名の移転を申請したが、申請人が本件ドメイン名に関して利害関係を有していないという事実及び本件ドメイン名が悪意で登録されて使用されたという事実を立証できず、2001年10月1日に申請が棄却された。これに対して補助参加人は、2001年11月9日に本件ドメイン名を被告とし反サイバースクワッティング消費者保護法により本件ドメイン名の移転を求める対物訴訟をアメリカ合衆国バージニア連邦地方裁判所に提起し、同裁判所は2002年3月6日に申請人の答弁がない状態で本件ドメイン名が反サイバースクワッティング消費者保護法に違反して登録されたと判示し、本件ドメイン名を補助参加人に移転することを命じた。これに対して申請人は、米国のインターネットアドレス管理機構(ICANN)から認定を受けて一般トップレベルドメインの登録業務を担当する韓国内の登録機関(レジストラ)である被申請人を相手取って本件ドメイン名を補助参加人に移転してはならない旨を求める仮処分申請を行った。一方、申請人は、本件ドメイン名登録時に登録機関である被申請人が登録約款で規定している統一ドメイン名紛争解決政策及びその手続規程の適用に同意していた。

判決内容

申請人と被申請人間の本件ドメイン名の登録及び維持管理に関する法律関係は民法上の委任関係又はそれに類する関係に該当するので、ドメイン名の登録機関は受任人又はそれと類似する地位で善良な管理者の注意により本件ドメイン名の維持管理事務を処理することによって、ドメイン名登録者である申請人の利益を保護すべき義務を負担する。ところで、統一ドメイン名紛争解決政策によれば、登録者とドメイン名の登録による権利侵害を主張する異議申立人との間で紛争が発生した場合、登録機関である被申請人はICANNが承認した紛争解決機関の決定又は適法な管轄権を有する裁判所の命令に従って当該ドメイン名の登録を取り消し、又は移転、変更することができると規定されているので、被申請人としては当該ドメイン名を異議申立人に移転せよとの裁判所の命令がある場合、その裁判所が適法な管轄権を有するか否かを善良な管理者の注意を以て判断し、その命令に応じるかどうかを決定すべきであり、特にその紛争に関してどの国の裁判機関が裁判管轄権を有するかといういわゆる国際裁判管轄の問題がある場合、その判断に更に一層慎重を期すべきである。従って、登録機関としては、登録者の住所地の裁判所や登録機関の所在地の裁判所以外の外国裁判所でドメイン名の移転命令があった場合、その外国裁判所の国際裁判管轄権とその外国判決に対する登録者の住所地又は登録機関の所在地国での承認及び執行の可能性等を綿密に検討しなければならず、更に本件に関しては同紛争解決政策に従ってICANNが承認した紛争調停機関の行政パネルが既に参加人の本件ドメイン名に対する移転申請を棄却する決定をした点に照らし、被申請人がそのような点に対する十分な検討なくしてその移転命令に容易に応じることは登録者に対するドメイン名の維持管理義務に違反するものと評価することができる。また、ICANNの統一ドメイン名紛争解決政策で登録原簿管理機関(レジストリ)ではない登録機関(レジストラ)の所在地国の裁判所に裁判管轄を認めて登録原簿管理機関を管轄する裁判所の裁判管轄権を排除している点、登録原簿管理機関は紛争当事者と実質的利害関係がない点、また現実的に業務を遂行する主体は登録原簿管理機関でなく登録機関であるので、統一ドメイン名紛争解決政策において管轄裁判所のドメイン名移転命令に従うよう規定しているとしても、登録機関が登録原簿管理機関の所在地国の裁判所の命令に従わない場合にはその命令の趣旨による該当ドメイン名の登録抹消等の措置のために終局的に外国判決の承認及び執行と共に登録機関にその命令に従うようにさせる追加的な手続が必要になるので、登録原簿管理機関の所在地国の裁判所に裁判管轄を認めるとしても裁判の実効性が確保されることも難しい点等から推してみると、本件ドメイン名の登録と関連した紛争について登録原簿管理機関が所在するアメリカ合衆国バージニア州連邦地方裁判所に国際裁判管轄が認められると断定するのは困難である。また、参加人はアメリカ合衆国の裁判所が特別裁判的に照らして国際裁判管轄権が認められると主張するが、参加人の所在地国にそのような実質的関連性があるとは見難く、一方、本件ドメイン名の登録地は大韓民国であることが明らかで、登録機関でない登録原簿管理機関に対しては当事者間の公平や裁判の適正性という観点からや裁判の実効性という観点からも裁判管轄を認め難い。本件ドメイン名の登録使用と関連した訴訟に関してアメリカ合衆国バージニア州連邦地方裁判所に国際裁判管轄が認められると断定するのは困難であるので、被申請人が同裁判所の命令や参加人の要請によって本件ドメイン名を移転することは申請人に対する関係において登録機関としての義務に違反するものであると見る余地があり、一方、本件ドメイン名が参加人の名義に一旦移転されるならば、その登録機関の変更可能性等に照らして申請人の権利回復が事実上不可能になるおそれがあるというべきであるので、国内裁判所が本件ドメイン名の権利関係に対する終局的な判断を下す時まで暫定的に本件ドメイン名の移転を禁止する必要があると言うべきである。

専門家からのアドバイス

大韓民国の登録機関(レジストラ)に大韓民国国民の名義で登録されているドメイン名の移転等を求めるために外国裁判所に訴訟を提起して勝訴した場合でも、大韓民国の裁判所から執行判決を受けないときには大韓民国でこれを執行することができないというのが先例であるので、登録機関(レジストラ)の所在地ではない登録原簿管理機関(レジストリ)の所在地の裁判所にドメイン名の移転等を求める訴えを提起することだけでは、ドメインの移転を受けるという目的を達成し難いものと見られる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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