知財判例データベース 不正競争防止法上の営業主体混同の範囲について判示した事例
基本情報
- 区分
- 商標,ドメイン
- 判断主体
- ソウル高等法院
- 当事者
- イーストマンコダックカンパニー外1名(原 VS ソンファシステム技術株式会社(被告、控訴
- 事件番号
- 2001ナ72120 商標権侵害差止等
- 言い渡し日
- 2002年05月28日
- 事件の経過
- 確定
概要
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「Kodak」商標の商標権者である原告は、被告が原告との販売代理店契約終了後も「kodak.co.kr」ドメインネームを登録して、そのドメインネームの下のウェブサイトで原告の製品を紹介し、原告と類似するサービスを提供したのに対し、原告は、このような被告の行為が商標権・サービス標権侵害行為及び不正競争防止法上の営業主体混同行為に該当するとし、「Kodak」関連標章の使用禁止及び「kodak.co.kr」ドメインネーム登録抹消を求める訴えを提起し、ソウル高等法院は原告の請求を認容した原審判決を維持した。
事実関係
原告のイーストマンコダックカンパニーは、写真関連製品を生産、販売する米国会社であり、同じく原告の韓国コダック株式会社は原告イーストマンコダックカンパニーの子会社として同社から写真関連製品を国内に独占輸入、販売している。また、原告のイーストマンコダックは、1970年12月14日に写真機械器具及びその付属品等を指定商品及びサービス業として各種「KODAK」関連商標を登録し、また、「Kodak」商標は特許庁の外国商標資料集及び国内英韓辞典に掲載されている。更に、原告らは1998年12月7日に「kodakkorea.co.kr」ドメインネームを登録し、原告らの商品及びその他情報を提供するウェブサイトとして運営している。一方、被告は、1996年2月1日に原告の韓国コダックと販売代理店契約を締結し、原告の韓国コダックから写真関連製品の供給を受けて販売していたところ、物品代金支払いを延滞し、原告の韓国コダックは被告の債務不履行を原因として同契約を解約する通知をし、遅くとも1999年1月27日に同契約が解約された。被告は、1997年7月24日に「kodak.co.kr」ドメインネームを登録して同ドメインネームを住所とするウェブサイトを開設し、1999年7月5日に本件商標を掲示して原告の商品を紹介したが、2000年4月20日に被告会社を案内し、「kodak」変形商標を掲示して原告会社の写真関連機器を紹介した。
判決内容
裁判所は、原告の登録商標である「kodak」と同一・類似の「kodak.co.kr」をドメインネームとして使用し、原告コダックが登録した商標・サービス標の指定商品及び指定サービス業と同一・類似する商品及びサービス業を提供するなど「kodak」商標及び変形標章を表示し、「kodak.co.kr」ドメインネームを住所とするウェブサイトを運営する行為は、原告コダックの商標権及びサービス標権に対する侵害に該当すると判断した。また、不正競争防止法上の商品主体、営業主体の混同には、同一性に関する狭義の混同の他に両者間に取引上、経済上又は組織上、密接な関係があるものと誤認させる広義の混同も含まれるだけでなく、このような混同の危険は識別力の強い商品・営業標識の場合に、より一層大きいと言えるところ、原告らも「kodakkorea.co.kr」ドメインネームで接続されるウェブサイトを運営しているので、被告が「kodak」商標を要部とする「kodak.co.kr」ドメインネームを使用する場合、原告らのウェブサイトに接続しようとする一般人としては、被告の本件ウェブサイトに接続するようになる可能性が大きいという点、被告が本件ウェブサイトにおいて紹介・販売した商品及びサービスが原告らの商品及びサービスと同一・類似するという点、本件商標は一般人に広く知られている著名商標として強い識別力を有する点等を総合してみれば、一般人としては本件ウェブサイトにおいて行われた広報営業の主体本件ウェブサイトにおいて提供されていた商品・サービスの出所とそれに対する販売営業の主体がすべて原告らであり、少なくとも原告らと一定の関係にあるのではないかという認識を有するようになり、商品主体及び営業主体に対して誤認、混同するおそれが十分にあるので被告が「kodak.co.kr」のドメインネームを使用しながら、本件商標及び変形標章を表示し、1999年7月5日頃及び2000年4月20日頃のような内容で本件ウェブサイトを運営する行為は不正競争防止法所定の不正競争行為に該当すると判断した。
専門家からのアドバイス
国内に広く知られた他人の商品、営業標識をドメインネームとして登録し、これを利用して周知標識の保有者と類似する営業をする場合、不正競争行為に該当するという先例がいくつかあるので、著名標識を保有する企業としては、これを侵害するおそれのあるドメインネームを検索し、これを保護するための適切な措置を取ることを考慮してみる必要がある。特に要件と期間、費用面において最近設立された韓国インターネット情報センター傘下のドメインネーム紛争調停委員会の紛争調停手続を利用してみることも積極的に考慮すべきである。
(参考)ドメイン名紛争調停委員会による調停手続について
書誌事項
出所:ドメイン名紛争調停委員会ウェブサイト(http://www.ddrc.or.kr)
発表年月日:2002年
担当機関:韓国インターネット情報センターのドメイン名紛争調停委員会
概要
情報通信部がインターネット住所資源の効率的な活用のために韓国インターネット情報センターの傘下機関として設立したドメイン名紛争調停委員会(ウェブサイト:http://www.ddrc.or.kr)は、2002年1月4日にスタートして以来、ドメイン名紛争調停規定及び同規則によるドメイン名紛争調停サービスを提供している。委員会は、2002年3月28日ziebart.co.kr,cartier.co.kr、nescafe.co.krのドメインネームに対して始めて決定を下し、6月26日現在、ドメインネーム紛争調停制度を通じて終結された事件は計11件である。11件の事件のうち3件(webnara.co.kr,brocade.co.kr及びtagheuer.co.krドメインネーム)は、当事者間に移転合意がなされて事件が終結し、残りの事件の場合、申請人の請求を棄却したeureka.co.krドメインネームの場合を除いて7件すべて紛争ドメインネームを商標権者に移転することを命じる決定をすることにより商標権者を保護している。以下では各決定の内容を簡略に要約して詳察してみることにする。
解説
- Ziebart.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0001
ドメインネーム:ziebart.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:最初に紛争調停申請がなされた「ziebart.co.kr」事件は、「ZIEBART」という文字商標に対する商標権者である米国ジバート社と国内総販売契約を締結して10年間余り営業をしてきた紛争調停申請人とフランチャイズ契約を締結して営業した被申請人が同ドメインネームを先登録しながら発生した紛争に関するものであるが、被申請人は同ドメインネームを登録した後、これを車両関連サービス提供業者であるターフコートが運営する「tuffkote.co.kr」ウェブサイトにフォワードする方式で運営していた。調停委員は、決定文において被申請人が申請人側の商標と同じドメインネームを使用していることは申請人側が自己の商標をドメインネームとして登録することを妨害しようとする主な目的があるものであり、国内法律又は条約が保護する申請人の権利又は正当な利益を侵害したものだと判断してドメインネームの移転を命じた。 - Cartier.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0002
ドメインネーム:cartier.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:紛争調停申請当時、アダルトサイトにフォーワーディングされていた」cartier.co.kr」ドメインネームに対して調停委員は、国内外的に需要者らに広く知られている周知著名な商標である「cartier」標章を要部とする「cartier.co.kr」ドメインネームをアダルトサイトにフォーワーディングしたことは、申請人商標に化体された名声を損傷したと判示し、同ドメインネームの移転を命じた。 - Nescafe.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0003
ドメインネーム:Nescafe.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:「nescafe.co.kr」ドメインネームは、別途にウェブサイトを開設せず、ポータルインターネットウェブサイトの検索ページにフォーワーディングされているが、調停委員は国内外の需要者間に広く認識された標章と同一又は類似のドメインネームをそれに関する正当な権利又は利益のない者がドメインネームとして登録して維持することは、ドメインネーム登録の主な目的が申請人側の自己の標識をドメインネームとして登録することを妨害するためのものだと判断し、上記ドメインネームを申請人に移転せよとの決定を下した。 - Logitech.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0004
ドメインネーム:logitech.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:紛争調停申請当時、成人アダルトサイトにフォーワーディングされていた「Logitech.co.kr」ドメインネームに対して調停部は、国内外的に周知著名な「Logitech」標章を要部とする「Logitech.co.kr」ドメインネームをアダルトサイトにフォーワーディングすることで申請人商標に化体されている識別力と名声が損傷されたことを認め、被申請人が上記ドメインネームを登録して維持する主な目的が、申請人が申請人の標識をドメインネームとして登録することを妨害するためのものだと判断し、上記ドメインネームを申請人に移転せよとの決定を下した。 - Eureka.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0005
ドメインネーム:eureka.co.kr
調停結果:終結
決定要旨:各種映像関連サービス業を指定サービス業とした「eureka」サービス標のサービス標権者である申請人が被申請人に対して「eureka.co.kr」ドメインネームの移転を請求した本件において、3名の調停部は、申請人は自己の相互ないし営業の周知、著名性に主張の比重をおいているものと判断され、申請人が提出した言論記事によると申請人の営業が映像物制作及び関連分野では国内において相当な程度に認識されているものと認められるが、ドメインネームの登録は商標登録と異なり分野の区分なしに誰にでも自由に開放されているので、営業が制限された特定分野において広く認識されているという事実だけでは、少なくとも現行制度の下においてはドメインネームの登録自体を阻止できる方法は原則的にないと言えると判断し、申請人の移転申請を棄却した。 - Intesabci.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0007
ドメインネーム:intesabci.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:イタリアの「intesa」銀行とイタリア商業銀行が合併して"intesa"と"bci"を結合した「intesabci」を商号及び商標として使用するという事実が報道され、「intesabci」を要部として登録された「intesabci.co.kr」ドメインネームに対して調停部は、国内日刊紙の記事又は広告を通じて国内に広く認識された申請人の標識を要部とする「intesabci.co.kr」ドメインネームを登録して使用する行為はインターネット利用者に混同を生じさせると判断し、ドメインネームの登録時点が申請人の合併ニュース及び広告が国内に公知となった直後だという点を上げ、被申請人がドメインネームを登録した主な目的が、申請人が自己の商号及び商標をドメインネームとして登録することを妨害するためのものであると判断し、上記ドメインネームを申請人に移転せよとの決定を下した。 - Michelin.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0010
ドメインネーム:michelin.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:「michelin.co.kr」ドメインネームに対して調停部は、国内外的に周知著名な「michelin」標章を要部とする「Michelin.co.kr」ドメインネームを使用する行為はインターネット利用者らをして混同を生じさせ、また被申請人が上記ドメインネームに開設したウェブサイトが貧弱なホームページの構成及び情報提供機能の欠如などにより申請人の商標及び商号に化体された識別力と名声を損傷していると判断した。また、調停部は、申請人がウェブサイト構築を被申請人に依頼するようになる可能性に備えてドメインネームをあらかじめ確保しておいていたという被申請人の陳述に照らし、被申請人がドメインネームを登録した主な目的が、申請人が自己の標識をドメインネームとして登録することを妨害するためのものだと判断し、申請人に上記ドメインネームを移転せよとの決定を下した。 - Samsungeverland.co.krドメインネーム
事件番号:2002-0011
ドメインネーム:samsungeverland.co.kr
調停結果:移転
決定要旨:相当期間アダルトサイトにフォーワーディングされていたが、現在はアンチエバーランドサイトにフォーワーディングされている「samsungeverland.co.kr」ドメインネームに対し、調停部は国内にて広く知られたサムスンエバーランド(samsungeverland)を要部とする「samsungeverland.co.kr」ドメインネームを相当期間アダルトサイトにフォーワーディングしていたが、現在アンチエバーランドサイトにフォーワーディングしている被申請人の行為が申請人の商号などに化体された識別力又は名声を損傷しているものと判断した。また、アンチ活動が合法的だという被申請人の主張に対して、調停部は本件ドメインネームがアダルトサイトにフォーワーディングされた点、被申請人の元来の登録目的は不動産仲介サービスを提供することにあると疎明した点などの事実を挙げて、被申請人の使用目的が正当なアンチ活動にあるとは見難いと判断し、さらに他人の周知著名な商号又はサービス標と同じドメインネームを使用して行われるアンチ活動の許容如何に対して疑問を示しながら、申請人に上記ドメインネームの移転を命じる決定を下した。
専門家からのアドバイス
ドメインネームの先登録の原則によって登録されることにより、社会的、法律的に問題となってきたドメインネームの無断登録行為(cybersquatting)を解決すべくインターネット資源を効率的に管理するために設立されたドメインネーム紛争調停委員会は、迅速・低廉で専門性を備えた紛争調停サービスを提供している。このようなドメインネーム紛争調停制度は、既存の訴訟手続と比較して要件と期間、費用の面で経済的であり、今後ドメインネームの紛争解決手段として考慮に値する。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
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