知財判例データベース 食べ物の製造方法に関する特許の進歩性ないし新規性に関する事例

基本情報

区分
特許
判断主体
ソウル高等法院第5民事部
当事者
朴チュンホ(申請人、被控訴人)VS 栄養製菓株式会社(被申請人、控訴人)
事件番号
2001ナ63547仮処分異議
言い渡し日
2002年07月23日
事件の経過
確定

概要

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「外皮が塗布された餅」及びその製造方法に関する発明の特許権者である申請人は、申請人が生産した製品を販売していた被申請人が取引を中断し、申請人の製品と類似する「携帯用の餅」製品を製造して販売したのに対し、被申請人を相手取って同特許の侵害差止請求権を被保全権利として被申請人の製品の製造、販売の差止を求める仮処分申請をし、裁判所はこれを認容した。これに対して被申請人は、申請人の特許が無効であり、有効であるとしても被申請人の製造方法は申請人の特許の権利範囲に属しないと主張して控訴したが、裁判所は原審判決の結論を維持した。

事実関係

申請人は、1997年3月29日に時間経過による餅の老化と微生物による餅の変敗を防止し、長期間保管できる「外皮が塗布された餅」及びその製造方法を提供するために餅の主穀類として米粉及びとうもろこしの澱粉を混合した混合材を利用し、餡として保存性が優秀なクリーム類を利用すると共に餅の表面に加工チョコレートを塗布することを技術的構成とする特許を出願し、1999年5月17日に登録番号第213959号で登録された。申請人の「外皮が塗布された餅」の製造方法はうるち米粉やもち米粉等を主穀類として混合して蒸す生地製造段階、クリーム類を製造して餡として利用する餡製造段階、及び餅を加工チョコレートで塗布する外皮塗布段階からなる。一方、被申請人は1999年8月20日頃から2000年10月4日まで申請人が生産した「チョコ餅パイ」の販売代理店をしたが、その後取引関係を断絶して携帯用の餅であるフュージョンチョコパイ「オッチョン」を製造、販売した。被申請人の「携帯用の餅」の製造方法は、もち米粉、うるち米粉などを主穀類として混合して蒸す生地製造段階、添加物製造段階、同添加物を所定の大きさに切断する混合濃縮段階、餡挿入段階、餅の外皮に準チョコレートを塗布する段階からなる。

判決内容

特許法は、特許が一定の事由に該当する場合に、別途に準備した特許の無効審判手続を経て無効にできるよう規定しているので、特許は一旦登録された以上このような審判によって特許を無効とするという審決が確定しない限り有効なものであり、裁判所はそのような無効とし得る事由があっても、他の訴訟手続でその前提として特許が当然無効であると判断することはできず、ただ、登録された特許発明の一部または全部が特許出願当時に公知公用のものである場合には、特許無効の審決の有無に関係なくその権利範囲を認めることができないと言うべきであるが、これは登録された特許発明の一部または全部が出願当時に公知公用の技術に照らして新たなものではなく、いわゆる新規性がない場合を意味するものであって、新規性はないがその分野で通常の知識を有する者が先行技術によって容易に発明できるものであって、いわゆる進歩性のない場合にまで裁判所が他の手続で当然に権利範囲を否定することができるとすることは出来ない。また、特許権の権利範囲ないし実質的な保護範囲は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項によって定められることが原則であり、但し、特許明細書の記載のうち特許請求の範囲の記載だけで特許の技術構成が分からないか、分かるとしてもその技術的範囲を確定できない場合に特許請求の範囲に発明の詳細な説明や図面など明細書の他の記載部分を補充することはできるが、その場合にも明細書の他の記載によって特許範囲の拡張解釈は許されないことは勿論、請求範囲の記載だけで技術的範囲が明白な場合に明細書の他の記載によって請求範囲の記載を制限して解釈することはできない。本件で被申請人は申請人の「外皮が塗布された餅」の権利範囲がその請求範囲の項に記載された「クリーム、ピーナッツクリーム」に限定されるので、準チョコレートであるアーモンドチョコレートを餡として使用する被申請人の「携帯用の餅」の製造方法は申請人特許の権利範囲に属しないと主張するが、アーモンドチョコレートは準チョコレートだけでなく植物性クリームの要件もまた備えているので、申請人特許の請求項に記載された「クリーム」の範疇に属していると言える。また、申請人は申請人の特許で餅の生物学的な変敗を防止するために殺菌剤の代わりに水分が少なく保存性が優秀なクリーム類を餡として代替したものものであるところ、被申請人が餡として使用したアーモンドチョコレートは、クリーム類と異なる食品類型であるとしても微生物による変敗を防止するために使用したものであるので、申請人特許の権利範囲に属すると言うべきである。更に、被申請人は申請人の「外皮が塗布された餅」と被申請人の「携帯用の餅」は餅の材料の構成要素、その配合比率及び餅の製造工程、餡に利用される物質等が異なるので、被申請人の「携帯用の餅」の製造方法は申請人特許の権利範囲に属しないと主張するが、申請人の特許の製造方法や被申請人の製造方法は共に穀物を混合した混合材を主穀類として利用する餡であって、クリームやアーモンドチョコレートを利用すると共に餅の表面にチョコレートを塗布した餅を製造することによって時間経過に伴う餅の老化や微生物による餅の変敗を防止して餅の保存性と流通性を高めるためのもので技術的な目的が同一であると言える。技術的構成においても被申請人の製造方法と申請人の製造方法は生地製造段階でいくつかの差異があるが、生地製造段階、餡製造段階、外皮塗布段階など申請人特許の最も重要な3つの方式の有機的結合にそのまま従ったと言うべきで、作用効果の面でも時間経過に伴う餅の老化と微生物による餅の変敗を防止して餅の流通性を高めようとした点で共に同一で、被申請人の製造方法は申請人特許の権利範囲内の技術と言うべきである。

専門家からのアドバイス

特許侵害差止請求等をする前には事前に特許が登録無効となる可能性に関して検討する必要があり、特に特許侵害差止を求める「仮処分申請事件」では権原となる特許発明の進歩性がなく、無効とされる蓋然性が高い場合、「保全の必要性」がないという理由で仮処分申請が棄却される可能性があるだけでなく、仮処分が執行される場合、後に特許無効等が確定すれば不当仮処分による損害賠償責任を負担する可能性もあるので注意を要する。

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