知財判例データベース トップレベルのドメイン名と国際裁判管轄権
基本情報
- 区分
- ドメイン
- 判断主体
- ソウル高等法院
- 当事者
- キム・ヨンファン(原告、控訴人)VS ヒューレットパッカードカンパニー(被告、
- 事件番号
- 2002ナ4896 損害賠償(知)
- 言い渡し日
- 2002年09月25日
- 事件の経過
- 上告
概要
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原告は米国のドメイン名登録機関であるるNetwork Solutions Inc.(以下「NSI」)にドメイン名のhpweb.com(以下「本件ドメイン名」)を登録した上、原告が運営する電子メールアドレスの提供サービスに関連して使用してきたところ、米国の国家仲裁委員会(以下「NAF」)が本件ドメイン名を移転せよとの調停決定を下したのに対し、その調停決定の執行を留保するためにソウル地方法院にドメイン名の移転禁止等を求める訴えを提起した。しかし、NSIは、ソウル地方法院が調停決定の執行を留保させるために訴えを提起することのできる管轄裁判所でないことを根拠に、NAFの調停決定に従って本件ドメイン名の移転を完了した。ソウル地方法院は、調停決定の根拠となったUDRP等が原告と本件ドメイン名の登録機関の間の契約に編入されたと認め、従って、原告が同契約により本件ドメイン名を被告に譲渡する義務があるという理由で原告の請求を棄却したが、その控訴審であるソウル高等法院は、本件訴えが大韓民国の裁判所の管轄権に属しないという理由により第1審判決を取り消し、本件訴えを却下した。
事実関係
原告は1999年11月23日に本件ドメイン名のhpweb.comを米国のドメイン名登録機関のNSIに登録し、登録時にICANNの統一ドメイン名紛争解決政策(UDRP)及び同政策利用規程に同意した。その後、原告は本件ドメイン名を原告が運営するdigitalcouple.comのウェブサイトにリンクしておき、原告名義で登録しておいた450余りのドメイン名と共にdigitalcouple.comで提供する電子メールのアドレスサービスに関連して使用してきた。一方、全世界的に周知、著名な「HP」標章の保有者である被告会社は、2000年8月3日にNAFに同ドメイン名の移転を求める調停を申請し、UDRPに従って管轄裁判所として本件ドメイン名の登録機関であるNSIの所在地である米国バージニア州ハーンドン市を選択した。NAFは2000年9月8日に本件ドメイン名を移転するという決定をしたが、原告はその調停決定の執行を留保させるために2000年9月18日にソウル地方法院に訴えを提起した。しかし、被告が強制調停を申請した当時、被告が従うべき管轄裁判所としてNSIの主たる事務所の所在地の裁判所である米国バージニア州ハーンドン市の管轄裁判所を選択したのでソウル地方法院は調停決定の執行を留保し得る裁判所ではなかったため、本件ドメイン名の登録機関であるNSIはNAFの調停決定に従って2000年9月29日に本件ドメイン名を被告に移転登録した。
判決内容
UDRPの規定によれば、ドメイン名の登録者及び申請人は、(i)UDRPによる強制調停手続でドメイン名を抹消又は移転せよとの決定があった後、その執行を保留させる目的で訴えを提起することができ、(ii)強制調停手続が開始する前や終結した後に強制手続とは別途に争いを解決するために適法な管轄権を有する裁判所に訴えを提起することができるところ、(i)の場合には、申請人の申請書で従うものと陳述した裁判所だけが管轄権を有すると言うべきであるが、(ii)の場合には、どの国のどの裁判所が管轄権を有するかは国際裁判管轄に関する一般原則により定められると言うべきで、本件は強制調停手続が終結した後に強制調停手続とは別途に提起された訴えであって(ii)に該当する。ドメイン名と関連した紛争で大韓民国の裁判所の裁判管轄権に関して検討してみると、外国的要素のある法律関係に関する訴訟の国際裁判管轄に関して条約や一般的に承認された国際法上の原則が未だ確立しておらず、国際私法第2条が国際裁判管轄に関して規定してはいるが、同法施行当時に既に裁判所に係属中である本件には国際裁判管轄に関する国際私法第2条が適用されないので、外国的要素のある事件に関する裁判所の国際裁判管轄権の有無は、結局、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという基本理念により条理によって決定するのが相当である。従って、民事訴訟法の土地管轄に関する規定による裁判籍が大韓民国にある場合には、大韓民国の裁判所の国際裁判管轄権を肯定することが条理に反するという特別な事情がある場合を除き、外国的要素のある訴訟に関しても韓国に裁判管轄があると見るのが相当である。(i)本件ドメイン名の移転は、本件ドメイン名の登録当時の登録約款により適用を受けるものと同意したUDRPによるNAFの移転決定の執行によったものであってNAFの決定内容及び強制調停手続が不法になされたとは見難く、また、不法行為があったとしても加害行為地及び結果発生地が共に米国であると見るのが相当で、(ii)本件ドメイン名の移転はUDRPによるNAFの移転決定の執行によってなされたものであるので不当利得に該当せず、また、不当利得に該当するとしても返還義務の履行地は本件ドメイン名の登録機関所在地の米国であると見るのが相当であり、(iii)本件ドメイン名に関する権利は原告が登録機関間の契約によって発生した債権又はこれに類する権利と言うべきであるが、債務者である登録機関の住所地が米国であるので原告の本件ドメイン名に関する権利の所在地は米国であると見るのが相当で、また、(iv)民事訴訟法上の管轄規定によると、原告又は本件は当該ドメイン名の登録機関所在地国の裁判所に国際裁判管轄を認めることが国際裁判管轄配分の理念に符合すると言うべきである。
専門家からのアドバイス
会社が保有する標章と同一・類似のドメイン名を登録しておいた者を相手取ってUDRPによる紛争調停を申請する場合、登録機関の所在地または登録者の住所を管轄する裁判所のうち一つを選択することができるところ、両管轄裁判所が属する国家が同一でない場合、各該当国家の法律や裁判所の態度等に関する情報を収集し、どの裁判所を選択した場合に調停決定の執行が容易であるかを事前に綿密に検討する必要がある。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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