インドネシアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の実質GDP成長率は5.0%、政府目標を下回るも堅調に推移。
  • 10年間続いたジョコ政権からプラボウォ新政権へ政権が移行。
  • ASEANで初めてBRICSに加盟。OECDやCPTPPなどへの参加も目指す。
  • 鉄鋼、金属製品の輸出が好調、輸入の拡大で貿易黒字は縮小。
  • 対内直接投資は過去最高を更新も、日本の国別投資額は6位に後退。

公開日:2025年8月20日

マクロ経済 
2024年の経済成長率は5.0%、政府目標を下回るも堅調に推移

2024年の実質GDP成長率は5.0%となり、3年連続で5%超を維持したものの政府目標(5.2%)には及ばず、ほぼ前年並みだった。四半期別では、第1四半期(1~3月)と第2四半期(4~6月)はそれぞれ5.1%、第3四半期(7~9月)と第4四半期(10~12月)はそれぞれ5.0%と、年間を通じて安定的に推移した。需要項目別では、GDPの5割超を占める家計最終消費が前年比4.9%増と堅調だった。政府最終消費は、2024年2月の大統領選挙の関連支出や社会保障給付の拡充、新首都関連の支出を主要因とし6.6%増だった。国内総固定資本形成(投資)も製造業の設備更新などを背景に4.6%増と堅調だった。伸び率が最も高かったのは民間非営利団体最終消費支出で12.5%増だった。2月の大統領選挙の準備に関わる活動が寄与したものとみられる。主要資源である石炭などの国際価格は総じて前年より下落傾向にあったが、サービス収入(観光)の回復や鉄鋼・アルミニウム製品など金属製品の輸出増が寄与し、財・サービスの輸出が前年の1.3%増から6.5%増へと大きく伸長した。一方、輸入は国内需要の回復に伴う原材料・消費財が8.0%増と輸出の伸びを上回ったことで、外需のGDP成長への寄与はマイナスとなった。産業別では主要17業種全てがプラス成長となり、なかでもその他サービス(9.8%増)、運輸・倉庫(8.7%増)、宿泊施設・飲食(8.6%増)の伸びが顕著だった。実質GDPの20.3%を占める製造業は4.4%増だった。地域別ではジャワ島がGDPの57.0%を占め、4.9%成長した。

消費者物価指数(CPI)の上昇率は2024年初から2~3%台で推移していたが、3月は断食月(ラマダン)と断食明け大祭(レバラン)に伴う消費増加に加え、エルニーニョ現象の影響によるコメの生産・供給量減少を主因として、一時的に3.1%まで上昇した。その後、収穫期の供給増による食料価格下落などもあり、12月には1.6%とインドネシア中央統計庁(BPS)が調査を開始した1958年以降最も低い水準となった。価格変動の大きい食品やエネルギーを除いたコアインフレ率は1年を通して2%前後で推移した。物価の安定を背景に、インドネシア中央銀行(以下中銀)は2024年後半から金融緩和へと舵を切った。中銀は、年初に6.0%であった政策金利を、為替安定を目的として4月に6.3%へ引き上げた。その後、インフレが沈静化したため、9月には3年ぶりに利下げを行い再び6.0%に戻し、年末までこの水準を維持した。

表1 インドネシアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 5.3 5.1 5.0 5.1 5.1 5.0 5.0
階層レベル2の項目家計最終消費支出 4.9 4.8 4.9 4.9 4.9 4.9 5.0
階層レベル2の項目民間非営利団体最終消費支出 5.7 10.0 12.5 24.3 10.0 11.5 6.1
階層レベル2の項目政府最終消費支出 △ 4.4 3.0 6.6 19.9 1.4 4.6 4.2
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 3.9 3.8 4.6 3.8 4.4 5.2 5.0
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 16.2 1.3 6.5 1.4 8.2 8.8 7.6
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 15.0 △ 1.6 8.0 1.9 7.8 11.9 10.4

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕 インドネシア中央統計庁(BPS)

投資環境、外資誘致政策 
プラボウォ新政権誕生、前政権の政策を継承・発展へ

2024年は政権交代が行われ、インドネシアにとって大きな転換期となった。10年間政権を率いたジョコ・ウィドド大統領が10月に任期満了を迎え、プラボウォ・スビアント氏が第8代大統領に就任した。ジョコ前政権はニッケルをはじめとする鉱物資源の高付加価値化政策を推進し、経済基盤の強化や輸出構造の高度化に一定の成果を上げた。バフリル・ラハダリア投資・下流化相は2024年8月、「ニッケル鉱石の輸出禁止と国内精錬への誘導によって、ニッケル関連輸出額は2017年の33億ドルから2023年には335億ドルへと約10倍に急増した。下流化政策によりインドネシアは世界有数のステンレス鋼生産国となった」と述べた。また、新首都「ヌサンタラ」の建設プロジェクトを積極的に推進し、国内外からの投資誘致やインフラ整備に注力した。

プラボウォ新政権はジョコ前政権の主要政策を基本的に継承しつつも、新たに独自の政策を打ち出している。就任演説では、2045年までに先進国入りを目指す国家目標「黄金のインドネシア2045」の実現を改めて表明し、特に貧困問題の解決や食料・エネルギー自給率の向上を優先課題として掲げた。ジョコ前政権から引き継いだ未加工資源の輸出制限による国内産業の下流化政策や新首都開発は引き続き推進する方針だ。前政権の政策の踏襲に加えて、プラボウォ政権は国民生活を重視する政策を特徴としており、給食無償化事業の実施、公務員給与や最低賃金の引き上げを導入するとしている。加えて、経済面では年率8%という野心的な経済成長目標を設定した。この達成に向けて政府支出や債務拡大も辞さない構えであり、GDP比3%以内という財政規律の範囲内で積極財政政策を展開する姿勢を示している。ただし、近年のインドネシアの実質GDP成長率は5%前後で推移しており、世界銀行やIMFなどの国際機関は中期的な成長率を5%台と予測するなど、8%成長を達成する具体的な道筋は未だ見えていない。

投資環境整備の面では、法人税や関税の減免措置に関する新たな制度導入や改定がなされた。特に大規模投資を促進する目的で、パイオニア産業を対象とする法人税減免措置(タックスホリデー)の申請期限が当初の2024年10月から2025年末まで延長された。例えば投資額1,000億ルピア(約9億円、1ルピア=0.009円)を超えるプロジェクトでは法人税を50%減免、5,000億ルピア(約45億円)を超える大規模投資の場合は最大100%の減免措置が適用される。対象となる分野は上流金属、石油精製、航空宇宙、機械部品など計18業種である。

また2024年2月、電気自動車(BEV)の国内販売促進を目的とした包括的な優遇策も発表された。具体的には、一定の条件を満たすBEVを対象に付加価値税率を通常の11%から1%に引き下げるほか、奢侈(しゃし)品販売税(通常15%)の免除、さらに一部条件を満たした企業を対象に輸入関税の免除という3つの措置を同時に導入した。輸入税免除措置の対象企業は、インドネシア国内でBEV生産設備を建設する企業、生産設備に投資する企業、新製品投入のため生産能力増強を検討する企業、とされている。これら企業は、遅くとも2026年1月1日までに商業生産の準備を完了させ、2027年までに生産を開始するなどの要件を満たすことが求められる。満たせなかった場合は罰金が科せられるとの定めがあるが、各自動車メーカーは、将来的な国内生産の約束により、輸入BEVであっても税制優遇の恩恵を享受できる仕組みとなっている。これらの措置は、まず国内のBEV市場そのものを活性化させて需要を喚起し、中長期的な国内生産投資を誘引する狙いがある。また、優遇措置の適用には段階的な国産化率の達成などが条件となる場合もあり、国内自動車産業の競争力強化と新興産業の成長支援を両立させることを目指している。

さらに地域経済の活性化と産業競争力の強化を目的に、新たな経済特区(SEZ)の設置も進んでいる。2024年10月には西ジャワ州タンゲラン県に教育・医療・デジタル特区、リアウ諸島州バタム市に医療・観光特区の2つが新たに指定され、外資を含む民間企業の誘致活動が本格化している。これらの特区に進出する企業には、法人税の一定期間免除や輸入関税・付加価値税の免除といった優遇措置が適用される。タンゲラン特区ではオーストラリアのモナシュ大学などが進出を決定しており、国際的な教育・医療・デジタル産業の集積拠点として期待されている。バタム市の国際医療観光特区では、インドのアポロ病院グループと提携した高度医療施設の建設が進められている。海外の医師や医療技術を導入することで国内医療水準の向上と医療ツーリズム振興を図る計画となる。

こうした取り組みの結果、国内外資本合わせた2024年の投資実行額は1,714兆ルピア(約15兆4,278億円)に達し、当初目標の1,650兆ルピアを上回った。2025年の目標金額はさらに高い1,905兆ルピアに設定されており、インフラ整備を中心に外資誘致をさらに強化する計画である。特に交通インフラや再生可能エネルギー分野などの重点官民連携(PPP)プロジェクトが示されている。政府は今後も投資環境のさらなる改善と外資企業の積極的な誘致に努めるとしており、関連規制の継続的見直しや官民連携促進に向けた一層の体制整備を図っている。

貿易 
金属製品の輸出が好調、輸入の拡大で貿易黒字は縮小

2024年の貿易額(通関ベース)は、輸出が前年比2.3%増の2,647億600万ドル、輸入が5.3%増の2,336億5,900万ドルとなり、ともに前年を上回った。輸出では鉄鋼製品やアルミニウム製品などの金属製品が好調だった一方、鉱物性燃料は国際価格の下落、パーム油は国内需要の増加などを背景に減少に転じた。輸入は国内需要の回復を背景に、原材料・中間財や資本財を中心として広範な品目で増加し、貿易黒字は前年比16.0%減の310億4,700万ドルに縮小した。貿易収支の黒字は2020年以降5年連続で維持された。

輸出を品目別にみると、最大品目の鉱物性燃料は輸出総額の21.0%を占めたが、石炭価格の落ち着きや中国・インド向け需要の減速などで前年比6.7%減だった。動植物性油脂(構成比10.1%)も同様に国際市況の影響を受けた。鉄鋼(9.8%)は3.3%減少した一方、鉄鋼製品は政府の下流化政策により生産能力が拡大し、前年比倍増と大幅に拡大した。同様に、アルミニウム製品はボーキサイト原料の国内精錬シフトが進み70.0%増、銅製品は大規模精錬所の稼働などから51.1%増となるなど、金属製品が大きく輸出額を伸ばした。また、農業部門ではコーヒーや香辛料が世界的な需給逼迫を背景に好調で、農産品輸出額は前年比29.8%増加した。輸出先を国・地域別にみると、最大相手国である中国(構成比23.6%)が首位を維持したものの金額は3.8%減少した。一方、米国は電子機器・部品や履物などの輸出が拡大し13.2%増(9.9%)、インド(7.7%)はほぼ横ばいだった。一方、日本向けの輸出は前年と比べわずかに減少した。

輸入を品目別にみると、最大品目の鉱物性燃料(構成比17.4%)が前年比1.4%の伸びを示したほか、一般機器・原子炉・ボイラー(14.3%)が4.2%増となった。光学・測定・精密・医療用機器(設備投資向け資本財)は16.6%増、無機化学品(生産用原材料・中間財)は22.9%増と、いずれも生産活動を支える輸入が伸長した。また、国内投資需要と安全資産志向の高まりで、金地金・宝飾品の輸入も70.9%増と大幅に伸びた。農産品では天候不順による国内減産の影響から、チョコレート製造向けのカカオ豆の輸入が48.8%増と拡大した。用途別では消費財が前年比5.4%増、資本財が5.3%増、原材料・中間財が5.3%増といずれも等しく増加傾向を示した。最終消費から設備投資・生産まで幅広い分野で輸入需要が底上げされたといえる。輸入相手国別では、中国からの輸入が昨年に引き続き最大(構成比31.1%)で、前年比15.7%増となった。中国は機械類・電気機器の輸入総額の過半を占めている。一方、日本やEUからの輸入額は前年を下回った。

表2-1 インドネシアの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 59,495 55,520 21.0 △ 6.7
階層レベル2の項目石炭 34,592 30,481 11.5 △ 11.9
階層レベル2の項目石油・ガス 8,777 8,908 3.4 1.5
動植物性油脂 28,453 26,822 10.1 △ 5.7
階層レベル2の項目パームオイル(化学的加工除く) 22,685 20,013 7.6 △ 11.8
鉄鋼 26,705 25,810 9.8 △ 3.3
階層レベル2の項目フェロアロイ 15,300 14,073 5.3 △ 8.0
階層レベル2の項目ステンレス鋼のフラットロール製品 5,539 5,789 2.2 4.5
電気機器 14,347 15,054 5.7 4.9
階層レベル2の項目電話機、携帯電話 2,542 1,982 0.7 △ 22.0
輸送機器(鉄道除く) 11,153 11,011 4.2 △ 1.3
階層レベル2の項目乗用車(公共交通機関除く) 6,067 6,000 2.3 △ 1.1
階層レベル2の項目輸送用機器の部分品 2,038 2,118 0.8 3.9
天然又は養殖の真珠 7,506 8,879 3.4 18.3
階層レベル2の項目身辺用細貨類及びその部分品 5,529 5,294 2.0 △ 4.2
階層レベル2の項目貴金属のくず 859 2,086 0.8 142.7
鉱石、スラグおよび灰 8,721 8,227 3.1 △ 5.7
階層レベル2の項目銅鉱 8,326 7,969 3.0 △ 4.3
ニッケル及びその製品 6,816 7,996 3.0 17.3
履物 6,439 7,084 2.7 10.0
一般機器・原子炉・ボイラー 6,460 6,942 2.6 7.5
階層レベル2の項目印刷機・プリンター 1,354 1,529 0.6 12.9
合計(その他含む) 258,857 264,706 100.0 2.3

〔出所〕Global Trade Atras (原データはインドネシア中央統計庁(BPS))

表2-2 インドネシアの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 40,120 40,662 17.4 1.4
階層レベル2の項目石油・歴青油(原油除く) 20,280 21,556 9.2 6.3
階層レベル2の項目石油・歴青油(原油に限る) 11,142 10,353 4.4 △ 7.1
一般機器・原子炉・ボイラー 32,155 33,514 14.3 4.2
階層レベル2の項目自動データ処理機械 2,741 3,712 1.6 35.4
階層レベル2の項目ブルドーザー、アングルドーザー、地ならし機、スクレーパーなど 2,096 1,975 0.8 △ 5.8
電気機器・部品 25,782 27,046 11.6 4.9
階層レベル2の項目電話機、携帯電話 6,398 6,657 2.8 4.0
階層レベル2の項目集積回路 3,937 4,056 1.7 3.0
鉄鋼 11,381 10,664 4.6 △ 6.3
階層レベル2の項目鉄・非合金鋼の半製品 2,156 1,892 0.8 △ 12.3
プラスチックおよびその製品 9,402 10,593 4.5 12.7
輸送機器(鉄道除く) 10,200 9,659 4.1 △ 5.3
階層レベル2の項目トラクターなど部分品および附属品 3,661 3,171 1.4 △ 13.4
階層レベル2の項目乗用自動車 2,087 2,591 1.1 24.2
有機化学品 6,422 7,110 3.0 10.7
穀物 5,953 6,817 2.9 14.5
階層レベル2の項目小麦およびメスリン 3,758 3,635 1.6 △ 3.3
階層レベル2の項目 1,789 2,710 1.2 51.5
真珠・貴石・貴金属類 2,796 4,779 2.0 70.9
階層レベル2の項目 2,601 4,583 2.0 76.2
光学・測定・精密・医療用機器 3,793 4,421 1.9 16.6
合計(その他含む) 221,886 233,659 100.0 5.3

〔出所〕Global Trade Atras (原データはインドネシア中央統計庁(BPS))

表3-1 インドネシアの主要国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア・大洋州 182,242 182,997 69.1 0.4
階層レベル2の項目ASEAN 52,795 53,817 20.3 1.9
階層レベル3の項目シンガポール 12,607 12,198 4.6 △ 3.2
階層レベル3の項目マレーシア 12,460 12,025 4.5 △ 3.5
階層レベル3の項目フィリピン 11,040 10,741 4.1 △ 2.7
階層レベル3の項目タイ 7,285 7,704 2.9 5.8
階層レベル3の項目ベトナム 7,536 9,473 3.6 25.7
階層レベル2の項目中国 64,939 62,439 23.6 △ 3.8
階層レベル2の項目日本 20,790 20,706 7.8 △ 0.4
階層レベル2の項目インド 20,291 20,336 7.7 0.2
階層レベル2の項目韓国 10,302 10,755 4.1 4.4
階層レベル2の項目台湾 6,704 6,683 2.5 △ 0.3
階層レベル2の項目オーストラリア 3,178 4,959 1.9 56.0
階層レベル2の項目香港 2,651 2,621 1.0 △ 1.1
USMCA 26,713 29,992 11.3 12.3
階層レベル2の項目米国 23,251 26,313 9.9 13.2
欧州 20,998 20,790 7.9 △ 1.0
階層レベル2の項目EU27 16,655 17,321 6.5 4.0
階層レベル2の項目英国 1,522 1,786 0.7 17.3
湾岸協力会議(GCC)諸国 6,086 7,038 2.7 15.6
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 2,649 3,061 1.2 15.5
合計(その他含む) 258,857 264,706   100.00 2.3

〔注〕アジア・大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕 Global Trade Atras(原データはインドネシア中央統計庁(BPS))

表3-2 インドネシアの主要国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア・大洋州 160,405 173,018 74.0 7.9
階層レベル2の項目ASEAN 46,871 51,603 22.1 10.1
階層レベル3の項目シンガポール 18,410 21,526 9.2 16.9
階層レベル3の項目マレーシア 10,761 10,919 4.7 1.5
階層レベル3の項目タイ 10,253 9,708 4.2 △ 5.3
階層レベル3の項目ベトナム 5,300 6,454 2.8 21.8
階層レベル2の項目中国 62,881 72,729 31.1 15.7
階層レベル2の項目日本 16,517 14,965 6.4 △ 9.4
階層レベル2の項目韓国 10,526 9,339 4.0 △ 11.3
階層レベル2の項目オーストラリア 9,300 10,439 4.5 12.2
階層レベル2の項目インド 6,701 5,664 2.4 △ 15.5
階層レベル2の項目台湾 3,948 3,937 1.7 △ 0.3
階層レベル2の項目香港 2,527 3,105 1.3 22.9
欧州 16,324 14,955 6.4 △ 8.4
階層レベル2の項目EU27 14,121 12,834 5.5 △ 9.1
階層レベル2の項目英国 1,169 973 0.4 △ 16.7
USMCA 13,793 14,428 6.2 4.6
階層レベル2の項目米国 11,277 11,968 5.1 6.1
階層レベル2の項目サウジアラビア 4,067 4,047 1.7 △ 0.5
アフリカ 9,861 9,390 4.0 △ 4.8
階層レベル2の項目ナイジェリア 3,941 3,012 1.3 △ 23.6
合計(その他含む) 221,886 233,659 100.0 5.3

〔注〕アジア・大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕 Global Trade Atras(原データはインドネシア中央統計庁(BPS))

商業大臣規則の改定を巡って、港湾手続きが停滞する事態が発生

2023年12月11日に公布され、2024年3月10日に施行された商業大臣規則2023年第36号が輸入手続きに大きな混乱を引き起こした。同規則は国内産業保護を目的に輸入管理を厳格化するもので、特に電子機器、化粧品、繊維製品など多岐にわたる品目に対し技術見解書(PERTEK)取得を義務付けた。同規則導入により、関係各省庁にPERTEK取得の申請が大幅に増加したことで、各省庁での手続きに遅れが生じた。また、制度導入前に具体的な運用手順が明示されなかったことや、周知が十分でなかったことも混乱を助長した。こうしたPERTEKの発行遅延により、タンジュン・プリオク港やタンジュン・ペラク港で2万6,415個のコンテナが滞留し、原材料や補助材料の輸入遅延が広範な産業に深刻な影響を与えた。

事態を収拾するため、政府は同規則を、商業大臣規則2024年第3号(3月7日公布)、第7号(4月29日公布)、第8号(5月17日公布)と3度にわたり改正した。商業大臣規則2024年第8号では、電子機器や既製服、化粧品など特定品目のPERTEK要件を免除し、船積み前検査報告書(LS)の提出をもって通関可能とするなど、通関手続きを簡素化した。この規制緩和により、港湾の混雑は解消に向かい、6月初旬までにコンテナ貨物の滞留が解消された。一方、繊維業界からは、既製服をはじめとする繊維製品のPERTEK免除により低価格の輸入品が急増し、国内製品との競争が激化するとして批判が高まった。特に繊維産業は労働集約型であり、中小企業の割合も高いことから、輸入品の増加が業界全体の競争力を低下させ、雇用維持に深刻な影響を及ぼすとの懸念が広がった。また、規制の頻繁な変更は企業活動における予見性を低下させたとの批判もあり、特に中長期的な投資計画への悪影響が懸念される事態となった。

通商政策 
ASEANで初めてBRICSに加盟

2024年10月20日に誕生したプラボウォ政権は、2025年の経済成長目標を達成するための政策として「国際的な経済協力の強化」を掲げている。なかでも、BRICSや経済協力開発機構(OECD)への加盟、カナダとの経済連携協定(CEPA)の妥結などを主要な取り組みとして挙げている。

ジョコ政権ではBRICSへの加盟に慎重な立場を取っていたが、プラボウォ大統領は新政権誕生直後にBRICS加盟の意向を表明し、その約3カ月後にあたる2025年1月に加盟を実現した。タイ(2024年6月)やマレーシア(2024年7月)も加盟を申請するなか、インドネシアがASEANで初めての加盟国となった。インドネシア政府はBRICS加盟により、「経済的強靭(きょうじん)性、技術協力、持続可能な開発の促進、気候変動、食料安全保障、公衆衛生といった世界的課題に対応し、BRICSが主導するアジェンダに積極的に貢献する」としている。

OECD加盟をめぐっては、OECD通常理事会が2024年2月に加盟協議を決定し、同年5月に閣僚理事会で「OECD加盟ロードマップ」が採択された。インドネシア政府は「3年以内の加盟」を目標に手続きを進めるとしているが、加盟協議が開始されてから250日以内に作成するとしていた初期覚書は約半年遅れで、2025年6月3日に提出された。OECD加盟プロセスにより国内改革が進むことで、インドネシアのビジネス環境改善に繋がるとも期待されており、今後の動向に注目が集まる。

カナダとの包括的経済連携協定に合意、CPTPP加入を申請

インドネシア政府は2024年、新たにペルーとのCEPA、湾岸協力会議(GCC)との自由貿易協定(FTA)の交渉を開始した。ペルーとのCEPAは2023年8月に両国間で交渉開始に合意し、2024年5月に第1回交渉会合を開催した。交渉開始時点ではプラボウォ大統領がAPEC首脳会議でペルーを訪問する2024年11月までの交渉妥結を目標としていたが、2025年7月時点で合意に至っていない。また、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、オマーン、カタールが参加するGCCとのFTAについては2024年7月に交渉を開始した。締結されれば、UAEとのCEPA、イランとの特恵貿易協定(PTA)に続く、3件目の中東諸国との協定になる。先のペルーとのCEPAについて、インドネシアからの輸出額(約516億円、2023年)のうち約4割にあたる200億円が完成車の輸出であり、GCCとのFTAについてもインドネシアからの輸出額(約8,550億円、2023年)のうち約25%にあたる2,088億円を完成車の輸出が占める。いずれの市場に対しても全ての完成車を日系メーカーが輸出していることから、内需が牽引するインドネシアが今後、輸出拠点としての地位を高めることが期待される。

2024年8月には日インドネシア経済連携協定(IJEPA)の改正議定書が両国間で署名された。今回の改正交渉では特に物品貿易、サービス貿易、自然人の移動、知的財産、政府調達が対象となったほか、新たに電子商取引に関する章が設けられた。改正議定書は既に両国の国会で承認がなされた。今後、インドネシア側における大統領令への署名などの手続きを経て、発効に至る。

大型協定への新規加入に関する動きとして、インドネシア政府は2024年9月、日本をはじめとする12カ国で構成される環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)への加盟を申請した。アイルランガ・ハルタルト経済担当調整相は、CPTPPへの加入はOECD加盟プロセスを国内改革促進の観点から補完するものとしたほか、市場の開放も目的とすると強調した。また、初めて新規加盟国となった英国の加盟プロセス期間を引き合いに「2年半以内の加入を実現する」と表明した。

新たな協定の交渉が開始されるなか、カナダとのCEPAは通算10回の交渉会合を経たのち、2024年12月に交渉妥結に至った。物品貿易や原産地規則など従来の章立てに加えて、カナダとのCEPAでは重要鉱物と衛生植物検疫措置(SPS)の優先課題に関する2国間対話の章が設けられた。2025年2月に署名を完了しており、2026年中の発効を目指している。

EUとのCEPA交渉の行方に注目

欧州連合(EU)とのCEPA交渉は既に計19回の交渉会合が実施されている。ジョコ前大統領は在職期間中にEUとの交渉をまとめるよう関係閣僚に指示したが、妥結には至らなかった。交渉長期化の背景には、バイオ燃料の輸送用燃料への使用規制を巡る双方の係争があった。インドネシア政府は、パーム油を原料としたバイオ燃料の輸送用燃料への使用を2030年までに禁止すべきとのEUの輸入規則について、EU域内で生産される油糧作物由来のバイオ燃料には同様の制限が課されていないことが内外差別的な措置にあたると指摘した。その上で、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)に基づく内国民待遇および最恵国待遇に違反するとしてWTOに提訴していた。2025年1月、WTO小委員会(パネル)はインドネシアの訴えを認め、EUの措置がWTOのルールに整合的でないとの判断を示した。プラボウォ政権に移行してからは、EUとの交渉会合は開催されていないものの、政府高官によるハイレベルの対話は継続されており、インドネシア政府は2025年9月までに条文を確定させ、2027年第1四半期の発効を目指している。

米国は2025年4月、世界各国・地域を対象に相互関税を発表し、インドネシアに対する税率を32%と設定した。政府は4月17日から米国通商代表部(USTR)との交渉を開始し、今後の交渉の行方が注目される。同時に、EUやGCCなど新たな市場との経済連携強化による輸出先の多角化にも期待が集まる。

表4 インドネシアのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効年月 インドネシアの貿易に占める構成比(2024年)
往復 輸出 輸入
発効済み アラブ首長国連邦・インドネシア包括的経済連携協定 2023年9月 1.0 1.2 0.8
韓国・インドネシア包括的経済連携協定 2023年1月 4.0 4.1 4.0
EFTA・インドネシア包括的経済連携協定 2021年11月 0.5 0.6 0.5
オーストラリア・インドネシア包括的経済連携協定 2020年7月 3.1 1.9 4.5
チリ・インドネシア包括的経済連携協定 2019年8月 0.1 0.1 0.1
日本・インドネシア経済連携協定 2008年7月 7.2 7.8 6.4
ASEAN物品貿易協定(ATIGA)
(旧:ASEAN自由貿易地域(AFTA)形成のための共通効果特恵関税(CEPT)協定)
1993年1月 21.2 20.3 22.2
署名 日本・インドネシア経済連携協定(改正議定書) 7.2 7.8 6.4
カナダ・インドネシア包括的経済連携協定 0.7 0.5 0.9
交渉中 EU・インドネシア包括的経済連携協定 6.0 6.5 5.4
ペルー・インドネシア包括的経済連携協定 0.1 0.1 0.1
インド・インドネシア包括的経済協力協定 5.2 7.7 2.4
メルコスール・インドネシア包括的経済連携協定 1.8 0.8 3.0
ユーラシア経済連合(EAEU)・インドネシア自由貿易協定 0.8 0.6 1.1
インドネシア・トルコ包括的経済連携協定 0.5 0.7 0.2
インドネシア・湾岸協力会議(GCC)自由貿易協定 3.1 2.7 3.7
加入申請 環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP) 27.3 25.1 29.8

〔注〕構成比については、輸出はインドネシア原産品(再輸出を除く)の輸出額を使用。
〔出所〕グローバル・トレード・アトラス、世界のFTAデータベース、各種報道等

対内直接投資 
対内直接投資は過去最高を更新

インドネシア投資・下流化省/投資調整庁(BKPM)によると、2024年の対内直接投資額(実行ベース)は前年比19.4%増の600億1,400万ドルで、過去最高を更新した。

国・地域別ではシンガポールが200億7,500万ドル(前年比30.7%増)と最大であった。特に、STテレメディア・グローバル・データセンターズ(STT GDC)やデジタル・エッジ(Digital Edge)が主導するデータセンターへの大型投資が目立った。香港からの投資は82億1,600万ドル(26.3%増)に達し、基礎金属・金属製品等への投資が全体の53%を占めた。中部スラウェシ州や北マルク州を中心とするニッケル精錬プロジェクトに引き続き投資が行われた。加えて、FWDライフインシュアランス(FWD Life Insurance)がバリやカリマンタンなど5州で総額約4,300万ドルの支店開設を進めるなど、保険業による投資事例も見られた。中国は81億,700万ドル(9.0%増)となり、香港同様、基礎金属・金属製品等への投資が全体の50%を占めた。具体的には、BYDによる西ジャワ州スバンでの10億ドル規模の電気自動車組立工場への投資、レプト・バッテロ・エナジー(Rept Battero Energy)による北マルク州ウェダベイでのバッテリー材料工場への投資などが含まれる。マレーシアからの投資は42億4,400万ドル(4.5%増)で、食品分野や不動産開発分野などで新規投資が行われた。その他、インドネシア政府の政策に寄り添う投資事例も見られた。マレーシアの乳製品メーカー、ファームフレッシュ・インダストリーズ(Farm Fresh Industries)は、新政権の掲げる児童栄養改善と食料安全保障の一環として、インドネシア農村協同組合連合と連携し学校給食プログラム向け食品生産・供給事業に参画し、合弁会社を設立した。米国は36億9,700万ドル(12.6%増)で、フリーポート(Freeport)の銅製錬所拡張事業やマイクロソフト(Microsoft)によるAIクラウド基盤整備事業などの投資案件があった。一方、日本は34億6,400万ドル(25.3%減)と、前年から投資額が縮小した。NTTが2024年6月、2026年初頭の商業運用開始をめざしてジャカルタで新たなデータセンターの建設を開始した事例もあるが、投資額全体の約4割を占める自動車・輸送機器が28.6%減だったことなどが影響した。

表5 インドネシアの国・地域別対内直接投資 [実行ベース](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 件数 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 41,799 107,287 48,868 81.4 16.9
階層レベル2の項目日本 4,639 12,823 3,464 5.8 △ 25.3
階層レベル2の項目中国 7,438 21,464 8,107 13.5 9.0
階層レベル2の項目香港 6,505 8,896 8,216 13.7 26.3
階層レベル2の項目韓国 2,544 11,210 2,988 5.0 17.5
階層レベル2の項目ASEAN 19,650 40,395 24,810 41.3 26.3
階層レベル3の項目シンガポール 15,355 32,285 20,075 33.5 30.7
階層レベル3の項目マレーシア 4,060 6,554 4,244 7.1 4.5
階層レベル3の項目タイ 186 1,068 390 0.6 109.7
階層レベル2の項目インド 275 3,412 173 0.3 △ 37.1
階層レベル2の項目オーストラリア 545 6,772 739 1.2 35.6
欧州 3,029 30,950 4,959 8.3 63.7
階層レベル2の項目EU27 2,328 25,000 3,555 5.9 52.7
階層レベル2の項目英国 387 3,941 745 1.2 92.5
中東 114 4,182 96 0.2 △ 15.8
階層レベル2の項目湾岸諸国会議(GCC) 78 987 45 0.1 △ 42.3
北米 3,641 5,934 4,190 7.0 15.1
階層レベル2の項目米国 3,283 4,831 3,697 6.2 12.6
アフリカ 541 1,894 279 0.5 △ 48.4
中南米 1,019 3,393 1,334 2.2 30.9
階層レベル2の項目ブラジル 7 359 10 0.0 42.9
合計(その他含む) 50,268 166,650 60,014 100.0 19.4

〔注〕アジア・大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕インドネシア投資・下流化省/投資調整庁(BKPM)

業種別では、第一次産業が73億1,900万ドル(前年比7.9%増)、第二次産業が351億3,100万ドル(22.5%増)、第三次産業が175億6,400万ドル(18.7%増)であった。特に第二次産業の投資が増加し、全体の58.5%を占めた。業種別では基礎金属・金属製品分野が最大で、135億5,700万ドルに達し、米・フリーポート(Freeport)の銅製錬所拡張事業や、中国・香港企業によるモロワリやウェダベイなどのニッケル精錬関連の投資が続いた。次いで運輸・通信・倉庫が46億5,400万ドルだった。シンガポール系を中心とするデータセンター投資が寄与したものと考えられる。

表6 インドネシアの業種別対内直接投資 [実行ベース](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2023年 2024年
金額 件数 金額 構成比 伸び率
第一次産業 6,782.4 5,960 7,319 12.2 7.9
階層レベル2の項目農業・牧畜業 1,945.6 2,529 1,827 3.0 △ 6.1
階層レベル2の項目林業 96.0 325 85 0.1 △ 11.0
階層レベル2の項目水産業 25.7 753 218 0.4 747.0
階層レベル2の項目鉱業 4,715.0 2,353 5,188 8.6 10.0
第二次産業 28,689.7 28,526 35,131 58.5 22.5
階層レベル2の項目食品 2,262.6 5,260 3,463 5.8 53.0
階層レベル2の項目繊維 457.5 2,567 948 1.6 107.2
階層レベル2の項目皮革製品・製靴 782.5 1,231 904 1.5 15.5
階層レベル2の項目木材加工 157.8 1,213 144 0.2 △ 9.0
階層レベル2の項目紙・製紙 3,430.8 1,324 4,777 8.0 39.2
階層レベル2の項目化学・医薬品 4,805.2 3,380 4,126 6.9 △ 14.1
階層レベル2の項目ゴム・プラスティック 575.8 1,956 927 1.5 61.0
階層レベル2の項目非金属鉱物 523.4 797 1,142 1.9 118.2
階層レベル2の項目基礎金属 ・金属製品・非機械及び器具 11,787.2 2,695 13,557 22.6 15.0
階層レベル2の項目機械・電機・医療・光学機器・時計等 1,478.4 3,201 2,089 3.5 41.3
階層レベル2の項目自動車・輸送機器 2,046.2 2,101 2,503 4.2 22.3
階層レベル2の項目その他 382.5 2,801 552 0.9 44.4
第三次産業 14,795.4 131,804 17,564 29.3 18.7
階層レベル2の項目電気・ガス・水道 2,742.1 1,696 2,469 4.1 △ 10.0
階層レベル2の項目建設 281.8 4,147 767 1.3 172.3
階層レベル2の項目商業・修理業 943.8 53,169 2,007 3.3 112.7
階層レベル2の項目ホテル・レストラン 811.1 16,699 944 1.6 16.4
階層レベル2の項目運輸・通信・倉庫業 5,615.5 6,810 4,654 7.8 △ 17.1
階層レベル2の項目不動産・工業団地・オフィス関連 2,574.5 17,818 3,089 5.1 20.0
階層レベル2の項目その他 1,826.5 31,465 3,632 6.1 98.9
合計 50,267.5 166,650 60,014 100.0 19.4

〔注〕産業分類は国際標準産業規格(ISIC)改訂第3版に基づくもの。金融、石油・ガスを除く。
「農業」はプランテーションなどを含む。
2018年第4四半期以降、業種は再編され24セクターから23セクターになった。
〔出所〕インドネシア投資・下流化省/投資調整庁(BKPM)

新首都ヌサンタラ、政権交代で問われる持続可能性

2024年のインドネシア新首都ヌサンタラ(IKN)への投資実績は58兆4,000億ルピア(約525億6,000万円)となり、新首都庁(OIKN)が掲げた年間目標100兆ルピア(約900億円)の約6割にとどまった。国内企業が全体の9割以上を占め、アグン・スダユ・グループ(Agung Sedayu Group)を中心とする不動産系コンソーシアムなどが投資を主導した。一方、外資系企業による投資は一部にとどまったが、2024年後半には中国のホテル・飲食大手の徳朧集団(デロニクス・グループ)、オーストラリアの教育機関オーストラリアン・インディペンデント・スクール(AIS)、ロシアの不動産開発マグナム・エステート(Magnum Estate)などによる案件が具体化し、投資国・分野の多様化への兆候が現れ始めた。

ジョコ大統領は任期終盤までヌサンタラ整備を精力的に推進し、計画推進への政府の強い決意を示すため、2024年7月には現地での執務を開始、8月には独立記念式典や初閣議をヌサンタラで開催するなど象徴的な取り組みを重ねた。また、法人税の最長30年免除、輸入関税の全面免除、土地使用権を最長190年認めるなど異例の投資優遇措置を制定し、主要インフラ(空港、高速道路、官庁街区)の整備進捗率は2024年末時点で87.9%に達した。

10月に就任したプラボウォ新大統領もヌサンタラ計画の継続を表明した。他方で、無償給食の全国展開など新たな社会政策も同時に推進しており、財源配分のバランスが今後の焦点となる。政権移行期にはOIKN幹部の辞任がガバナンスへの一時的な不安を生じさせたものの、新政権は2025年以降、官民連携(PPP)方式による60兆9,000億ルピア(約548億1,000万円)の追加投資誘致を目標として掲げている。

ただし、土地収用手続きの複雑さ、法制度の安定性、新政権下での政策優先順位の変化など構造的課題が投資家の慎重姿勢につながっている。スマートシティやグリーンシティ構想、再生可能エネルギーや先端産業クラスターなど具体的プロジェクトが動き出せば、国内資本と外国直接投資(FDI)の相乗効果が期待できる。ジョコ政権が示したヌサンタラ構想の道筋をプラボウォ政権が具体的成果として実現できるか今後の動向を注視する必要がある。

対日関係 
対内直接投資額で日本は6位に後退

2024年の日本の対インドネシア輸出は前年比10.0%減の129億8,000万ドルだった。主要品目の一般機器・原子炉・ボイラーは二桁の落ち込みとなり、なかでも建設・採掘向け機械の減少が大きく、ブルドーザー等の重機輸出は37.0%減となった。一方で、乗用車は半導体不足の解消を背景に23.6%増加、ゴム製空気タイヤも堅調だったが、輸出全体の減少を補うには至らなかった。日本のインドネシアからの輸入も前年比5.1%減の231億7,100万ドルとなった。輸入全体の28.2%を占める鉱物性燃料は、国際石炭市況の下落によって22.6%減少した。一方、銅精鉱などの鉱石・スラグ・灰が22.0%増加し、貴金属類は2.1倍となった。電気機器や木製品は前年並みで推移した一方、ニッケル製品は市況悪化に伴い減少した。

表7-1 日本の対インドネシア主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
一般機器・原子炉・ボイラー 3,264 2,841 21.9 △ 13.0
階層レベル2の項目エンジン部品 394 330 2.5 △ 16.4
階層レベル2の項目ブルドーザー、アングルドーザーなど 464 293 2.3 △ 37.0
輸送用機器(鉄道除く) 2,800 2,355 18.1 △ 15.9
階層レベル2の項目自動車の部分品 1,504 1,198 9.2 △ 20.3
階層レベル2の項目乗用自動車 597 738 5.7 23.6
鉄鋼 2,099 1,810 13.9 △ 13.8
階層レベル2の項目鉄又は非合金鉄のフラットロール製品(熱間圧延) 528 495 3.8 △ 6.2
階層レベル2の項目その他の合金鋼のフラットロール製品(ステンレススチール除く) 593 481 3.7 △ 18.9
電気機器 1,260 1,142 8.8 △ 9.3
階層レベル2の項目電気回路の開閉用、保護用又は接続用の機器 181 173 1.3 △ 4.4
ゴム製品 602 624 4.8 3.7
階層レベル2の項目ゴム製の空気タイヤ 334 348 2.7 4.4
プラスチック 511 480 3.7 △ 6.0
銅およびその製品 361 460 3.5 27.6
階層レベル2の項目精製銅又は銅合金の塊 312 405 3.1 30.0
鉄鋼製品 450 386 3.0 △ 14.3
階層レベル2の項目ねじ、ボルト、ナットなど 166 150 1.2 △ 9.8
光学・測定・精密・医療用機器 400 361 2.8 △ 9.7
階層レベル2の項目自動調整機器 185 155 1.2 △ 16.0
無機化学品および貴金属など 375 297 2.3 △ 20.8
階層レベル2の項目貴金属の無機又は有機の化合物 218 106 0.8 △ 51.2
合計(その他含む) 14,422 12,980 100.0 △ 10.0

〔出所〕Global Trade Atras (原データは 財務省「貿易統計(通関ベース)」)から作成

表7-2 日本の対インドネシア主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 8,448 6,536 28.2 △ 22.6
階層レベル2の項目石炭 6,012 4,339 18.7 △ 27.8
階層レベル2の項目石油・ガス 2,236 2,069 8.9 △ 7.5
鉱石、スラグおよび灰 1,917 2,338 10.1 22.0
階層レベル2の項目銅鉱 1,907 2,322 10.0 21.8
貴金属・真珠 990 2,070 8.9 109.2
階層レベル2の項目貴金属くず 767 1,861 8.0 142.8
電気機器 1,818 1,801 7.8 △ 1.0
階層レベル2の項目電気絶縁をした線、ケーブル、その他の電気導体 934 907 3.9 △ 2.9
ニッケルおよび同製品 1,355 1,064 4.6 △ 21.5
階層レベル2の項目ニッケルのマットなど 1,352 1,041 4.5 △ 23.0
木製品等(家具除く) 825 824 3.6 △ 0.1
階層レベル2の項目合板、ベニヤドパネルなど 439 439 1.9 △ 0.2
ゴム製品 773 820 3.5 6.1
階層レベル2の項目天然ゴム、バラタ、グタペルカなど 594 668 2.9 12.5
一般機器・原子炉・ボイラー 726 644 2.8 △ 11.3
階層レベル2の項目印刷機・プリンター 192 185 0.8 △ 3.5
プラスチック 524 541 2.3 3.3
たばこ及び製造たばこ代用品 403 531 2.3 31.8
輸送用機器(鉄道除く) 720 450 1.9 △ 37.5
階層レベル2の項目輸送用機器の部分品 312 322 1.4 3.4
階層レベル2の項目貨物自動車 322 80 0.3 △ 75.3
合計(その他含む) 24,417 23,171 100.0 △ 5.1

〔出所〕Global Trade Atras (原データは 財務省「貿易統計(通関ベース)」)から作成

インドネシア投資・下流化省/投資調整庁(BKPM)によると、2024年の外国直接投資総額は過去最高を更新する一方で、日本からの直接投資額(実行ベース)は前年比25.3%減の34億6,400万ドルとなり、国別順位も前年の4位から6位に後退した。日本からの投資を業種別にみると、自動車・輸送機器が28.6%減の12億5,314万ドルで、投資額全体の36.2%を占めた。運輸・倉庫・通信が34.5%増の4億129万ドル、機械・電子・光学製品が12.4%増の2億7,950万ドルだった。地域別では、西ジャワ州が20億603万ドルで全体の57.9%を占め、以下、ジャカルタ特別州(7億3,610万ドル)、東ジャワ州(2億3,021万ドル)と続いた。日本の投資実績の大半がジャワ島内に集中している。

日本からインドネシアへの直接投資額は近年伸び悩みを見せているものの、市場規模の拡大や中間層・富裕層の増加、さらにEVや再生可能エネルギーなど新分野の需要拡大をチャンスと捉え、積極的に進出や事業拡大を図る日系企業も少なくない。2024年も、製造業・非製造業を問わず多様な分野で日本企業による新規進出や増資の動きが目立った。

製造業では、河合楽器製作所が西ジャワ州カラワン県に電子ピアノの新工場を建設し、アンデルセングループも同州ボゴール県チビノンで冷凍パン生地の第2工場を稼働させるなど、生産能力増強の動きが活発化した。また、岩谷産業は同州カラワン県で冷媒充填工場の設備を増強し、冷媒の回収・再生事業にも着手した。さらに、住友林業は中部ジャワ州で木質ペレット燃料の製造に新規参入し、再生可能エネルギー分野への取り組みを強化した。

非製造業分野でも日本企業の積極的な展開が見られた。EV充電インフラ事業を手掛けるテラチャージ(Terra Charge)はジャカルタに現地法人を設立し、充電サービスの提供を開始した。金融分野では三菱UFJフィナンシャル・グループがインドネシアのインシュアテック企業に出資し、デジタル保険サービスの普及促進に取り組んでいる。住友商事は鉱山向けポンプレンタル会社を買収し、鉱山・建機レンタル事業を拡大した。物流分野ではアルプス物流が西ジャワ州に現地法人を設立、CREは東ジャワ州シドアルジョ県で三温度帯対応の大型物流倉庫を取得した。また、小売業ではニトリがジャカルタに初進出し、店舗数を4店舗まで拡大している。これらの動きから、インドネシアの市場成長や消費ニーズの多様化を背景に、日本企業が同国への戦略的投資を積極的に推進している様子がうかがえる。

日系企業の多くが成長性に期待も、不透明な政策運営をリスク視

ジェトロの「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、2024年の営業利益で黒字を見込むインドネシア進出日系企業は全体の72.1%で、前年の71.4%から0.7ポイント上昇し、ASEANの中で最も高い結果となった。黒字企業の割合は、製造業で72.6%、非製造業で71.5%だった。業種別では、製造業のうち化学・医薬が100 %、食料品が84.6%だったほか、非製造業の運輸も86.4%が黒字と回答した。一方、2023年に好調だった輸送機器や輸送機器部品については新車販売台数の伸び悩みなどを背景に黒字割合が減少した。

同調査におけるインドネシアの投資環境上のメリットをみると、「市場規模/成長性」と答えた企業の割合が80.1%と最も高く、調査対象のASEAN9カ国の日系企業の中で最大であった。2位以下の「人件費の安さ」(37.7%)、「ワーカー等の雇いやすさ」(31.0%)と比べて倍以上の開きが出ており、人口や所得の増加に伴うインドネシア経済の拡大に対する強い期待感が表れた結果と考えられる。他方、投資環境上のリスクをみると、「現地政府の不透明な政策運営」を挙げる企業の割合が66.2%と最も高く、「人件費の高騰」(65.1%)、「税制・税務手続きの煩雑さ」(64.0%)が続いた。人件費の高騰について、在インドネシア日系企業の2024年の平均昇給率(前年比)は4.4%で、ベトナム(5.4%)、フィリピン(5.1%)、カンボジア(4.5%)をやや下回った。2024年の昇給率見通しを業種別でみると、製造業が4.0%、非製造業は4.7%となり、非製造業での伸びが高い結果となった。

また、「現地政府の不透明な政策運営」については、輸入規制品目の追加など、制度が頻繁に変更され、対応に苦慮するといった声も挙げられる。前述のとおり、2024年は輸入手続きを大幅に厳格化した商業大臣規則2023年第36号が3月に全面施行され、電子機器や化粧品などに技術見解書(PERTEK)の取得を義務付けた結果、港湾でのコンテナ滞留が深刻化。5月に改正規則(2024年第8号)が発出され一部品目でPERTEK要件が撤廃されたが、対応コストが顕在化した。

なお、今後1~2年で事業を拡大すると回答した企業の割合は、前年の49.5%から47.3%に減少した。業種別にみると、「拡大する」と回答した企業の割合は、製造業では食料品が78.6%と高く、非製造業では情報通信業が77.8%と高かった。食料品では、加工食品需要の拡大、外食産業の活性化、健康志向の高まりがビジネスチャンスになりうるといった声が寄せられた。

表8-1 インドネシアにおける投資環境上のメリット(上位5項目、複数回答)(単位:%)
投資環境上のメリット(448)
1 市場規模/成長性 80.1
2 人件費の安さ 37.7
3 ワーカー等の雇いやすさ 31.0
4 取引先(納入先)企業の集積 23.4
5 駐在員の生活環境が優れている 18.5

〔注1〕( )内は有効回答数
〔注2〕政策運営とは産業政策、エネルギー政策、外資規制等を指す。
〔出所〕2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

表8-2 インドネシアにおける投資環境上のリスク(上位5項目、複数回答)(単位:%)
投資環境上のリスク(455)
1 現地政府の不透明な政策運営(注2) 66.2
2 人件費の高騰 65.1
3 税制・税務手続きの煩雑さ 64.0
4 法制度の未整備・不透明な運用 55.2
5 行政手続きの煩雑さ(許認可等) 49.0

〔注1〕( )内は有効回答数
〔注2〕政策運営とは産業政策、エネルギー政策、外資規制等を指す。
〔出所〕2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 5.3 5.1 5.0
1人当たりGDP (米ドル) 4,785 4,920 4,960
消費者物価上昇率 (%) 5.5 2.6 1.6
失業率 (%) 5.9 5.3 4.9
貿易収支 (100万米ドル) 62,672 46,269 39,926
経常収支 (100万米ドル) 13,215 △ 2,042 △ 8,856
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 137,233 146,384 155,719
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 396,529 408,524 424,849
為替レート (1米ドルにつき、ルピア、期末平均) 15,731 15,416 16,162


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
1人あたりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:インドネシア中央統計庁(BPS)
貿易収支、経常収支、外貨準備高、対外債務残高、為替レート:インドネシア中央銀行