ビジネス関連法 「中華人民共和国契約法」を適用する若干事項についての解釈(二)

2009年6月15日作成

【法令名称】
「中華人民共和国契約法」を適用する若干事項についての解釈(二)
【発布機関】
最高人民法院
【発布番号】
法釈〔2009〕5号
【発布日】
2009年4月24日
【施行日】
2009年5月13日

主旨と目的

各級法院が契約紛争事案を正確に審理できるよう、「契約法」の規定及び契約の締結、効力、履行、権利義務の消滅、違約責任などの方面に存在するいくつかの司法実務上の問題について、解釈と説明を行う。(頭書)

内容のまとめ

本法令は三十条から構成され、契約の締結、効力、履行、権利義務の消滅、違約責任などの方面に存在するいくつかの問題について、解釈と説明を行っている。主な内容は下記のとおり説明する。

契約の成立
  • 契約が成立したか否かについて紛争が生じた際、法院は当事者の名称又は氏名、目的物及び数量を確定できる場合、通常、契約が成立したと認定するものとする。(第一条)
  • 当事者が書面又は口頭にて契約を締結していないが、双方の民事行為により、双方に契約を締結する意志があると推定できる場合、法院は「契約法」第十条第一項の「その他の形式」で契約を締結したと認定できる。(第二条)
契約締結地
  • 契約に約定する締結地と実際の署名又は押印場所が合致しない場合、法院は約定の締結地を契約締結地と認定するものとし、契約に締結地を約定しておらず、両当事者による署名又は押印が同一の場所で行われなかった場合、法院は最後の署名又は押印の場所を契約締結地と認定する。(第四条)
拇印の捺印
  • 当事者が契約書に拇印を押した場合、法院はそれが署名又は押印と同等の法的効力を有すると認定する。(第五条)
フォーム約款
  • フォーム約款提供側はフォーム約款の中で自らの責任を免除又は軽減する条項について、契約を締結する際に相手方の注意を喚起する文字・記号・字体等の特別な標識を採用し、且つ、相手方の請求に従い、当該フォーム約款について説明を行った場合、「契約法」第三十九条にいう「合理的な方式の採用」に合致することを法院は認定しなければならない。(第六条)
取引習慣
  • 次の状況が法律、行政法規の強行規定に違反しない場合、法院はそれを「取引習慣」と認定することができる。(第七条)
    1. 取引行為の当地又はある分野、ある業種において、通常、採用し尚且つ取引の相手方当事者と契約を締結する際に知得し、又は知得すべきやり方
    2. 両当事者が常に使用する習慣的やり方
締結過失
  • 規定に照らし、許可又は登記を経た後でなければ効力をもたない契約が成立した後は、許可又は登記を申請する等の手続を行う義務のある当事者は、法律の規定又は契約の約定に基づき許可又は登記の申請を行わなかった場合、「契約法」第四十二条第(三)項に定める「その他信義誠実の原則に違背する行為」に該当する。法院は事案の具体的な状況及び相手方の請求に基づき、相手方が自らかかる手続を行うと判決することができ、当該当事者はこれによって発生した費用及び相手方にもたらした実際の損失につき、損害賠償責任を負うものとする。(第八条)
契約の無効
  • 「契約法」第五十二条第(五)項に定める「法律、行政法規の強行規定に違反する」(契約を無効とさせる状況の一つ)における「強行規定」とは、「効力的強行規定」を指す(即ち、法律、行政法規では、これらの禁止性規定に違反したことにより、契約が無効になり、又は契約が成立しないと明確に規定している)。(第十四条)
明らかに合理性に欠ける価格
  • 法院が取引当地の一般的な事業者の判断をもって、尚且つ取引当時の取引地の物価部門の指導価格又は市場取引価格を参考にし、その他のかかる要素とあわせ、総合的に確認を行うものとする。(第十九条)
    1. 譲渡価格が取引時の取引地の指導価格又は市場取引価格の70%に達しない場合、通常、明らかに合理性に欠ける安値であると見なすことができる。
    2. 譲渡価格が当地の指導価格又は市場取引価格よりも30%高い場合、通常、明らかに合理性に欠ける高値であると見なすことができる。
債務弁済順次
  • 債権者と債務者は弁済する債務又は弁済充当順位について約定がある場合を除き、下記の通りとする。(第二十条)
    1. 債務者の給付が同一債権者による複数の同種類債務の全額を弁済するに足りない場合、期限の到来した債務に優先的に充当しなければならない。
    2. 複数の債務期限が一緒に到来した場合、債権者による担保が設定されていない又は担保金額が最小の債務に優先的に充当する。
    3. 担保金額が同じである場合、債務負担が比較的に重い債務に優先的に充当する。
    4. 負担が同じである場合、債務期限の到来した順位に基づき充当を行う。
    5. 期限の到来した順位が同じである場合、比率に基づき充当を行う。
情勢変更
  • 契約の成立後に当事者が契約締結時に予見できず、不可抗力にもよらず商業リスクにも該当しないという客観的事情に重大な変化が生じ、契約の履行を継続させることが当事者にとって明らかに不公平で又は契約の目的を実現できず、当事者が法院に契約の変更又は解除を申し入れた場合、法院は公平の原則に基づき、尚且つ事案の実際の状況を勘案し、変更し又は解除するかどうかを確定する。(第二十六条)
違約金
  • 当事者は法院に違約金の増額を請求した場合、増額後の違約金額は実際の損失額を上回らないものとする。(第二十八条)
  • 当事者は、約定された違約金が高すぎるため適切な減額を主張する場合、法院は実際の損失をもとに、契約の履行状況、当事者の過誤の度合い及び逸失利益等の総合的な要素を勘案し、公平の原則と信義誠実の原則に基づき比較し、裁決を下すものとする。(第二十九条)
  • 当事者の約定した違約金がもたらされた損失より30%超えた場合、通常、「契約法」第一百一十四条第二項に定める「もたらされた損失よりも高すぎる」と認定することができる。(第二十九条)

日系企業への影響

「契約法」は、中国の民事法律体系における基礎的な法律で、広範たる適用範囲と影響力を持つ。実務において、大多数の契約は「契約法」を遵守しなければならない。
本法令は「各級法院が契約紛争事案を正確に審理できるよう」ということを目的にしているが、契約当事者(日系企業を含む)にとって、契約の締結、履行、変更、解除、終了及び契約紛争の解決などの方面において、極めて重要な指導意義を持つ。

本法令に基づき、日系企業が下記の通り行うよう、提案する。

  1. 「自らの行為が契約を締結する意思があると推定され」、さらに「契約がすでに成立した」と誤解されないよう、契約締結前の対応を慎まなければならない。本法令には契約の有効性を推進する傾向があるので、「まだ確認中の契約がすでに成立したと誤解される」ことを回避しなければならない。
  2. 「契約締結地」が契約紛争事案の司法管轄に影響を及ぼす(別途に約定がある場合を除き、通常、「契約締結地」の法院も事案の管轄権を持つ)ことから、できる限り契約にて、自らに有利となる地(例えば、自らが起訴しやすいまたは応訴しやすい地)を「契約締結地」として明確にするよう提案する。
  3. 作成したフォーム約款の中で、自らの責任を免除又は軽減する条項について、相手方の注意を喚起する文字・記号・字体等の特別な標識(例えば、サイズの大きい文字、太字、下線の使用、またはその他の目立つ色のマークの使用)を採用する。
  4. 「(相手方或いは双方が)本契約と関係する必要な政府手続などを行うことに責任を負い、且つ関係する費用を負担する」などのような条項を一般契約の通用条項とする。
  5. 関連会社間において、財産を譲渡する際、取引当時の取引地の物価部門の指導価格又は市場取引価格を参考にし、その他のかかる要素とあわせ、総合的に譲渡価格の確認を行うものとする。通常、正常価格から30%以上外れてはならない。
  6. 契約の成立後に契約締結時に予見できず、不可抗力にもよらず商業リスクにも該当しないという客観的事情に重大な変化が生じ、契約の履行を継続させることが自らにとって明らかに不公平で又は契約の目的を実現できない場合、契約の変更又は解除を主張できる。取引相手方が上記の「情勢変更」の原因により、契約の変更又は解除を主張した場合、その主張が「契約締結時に予見できない」、「不可抗力にもよらない」、「商業リスクにも該当しない重大変化」、「履行を継続させることが当事者にとって明らかに不公平で又は契約の目的を実現できない」などの条件に適合するかどうかについて、重点的に考察を行わなければならない。
  7. 契約に約定している違約金が足りない場合、実際損失金額まで増額するよう主張することができる。違約金が「もたらされた損失よりも高すぎる」かどうかを判断する際、「違約金がもたらされた損失より30%超えた」かどうかを基準とする。

参考資料

※本資料はジェトロが里兆法律事務所に委託して作成しました。ジェトロは同事務所の許諾を得て本ウェブサイトに掲載しています。
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