ビジネス関連法 輸出に係る増値税還付問題の経緯

2003年12月31日作成

2004年1月1日より、輸出に係る増値税の還付率が一部の貨物を除いて再度引下げあるいいは不還付となりました。
そもそも増値税は国内流通税のひとつで、1994年の税制改革によりこれまでの工商統一税が増値税、営業税へと変更されてできたものです。増値税は貨物を輸出する場合、該当課税率に従い全額税還付を受けることができますが、この10年間、当該時勢における経済環境、還付財源、輸出政策、徴税管理問題等の理由により様々な制度変更があり、輸出還付の対象となる企業にとって目の離せない問題となっています。
ここでは、この10年の輸出に係る増値税還付問題の政策変更経緯の大まかな概略を、当時北京で増値税問題に取り組んでいた筆者の記憶も交えながら、ご紹介します。

1994年

  • 輸出に係る仕入増値税を国内企業には還付を決定。ただし、外商投資企業については別途通知するとした(国税発94‐31号)
  • 93年12月までに設立された外商投資企業(老企業)について、93年以前の工商統一税と比較して税負担が増加する場合は94年から97年までの5年間は負担増加部分を還付する(国発94‐10号)
  • 外商投資企業には輸出に係る増値税は還付しない(財税字94‐58号)

※この通知により日系企業を中心にして外資系企業の不満が高まった

1995年

  • 94年以降設立の外商投資企業(新企業)には輸出に係る増値税を「免税・控除・還付」方式で還付する(国税発95‐12号)
  • 老企業には輸出に係る増値税は還付しない(国税発95‐19号)

※この頃より一部の国内企業による増値税発票の不正使用等により還付過大が生じ、還付財源、徴税管理が問題となる

  • 95年7月より還付税率を増値税率17%のものは14%に、13%のものは10%に引き下げる(国発明電95‐3号)
  • 96年1月より還付税率を更に引き下げる。増値税率17%は9%に、13%は6%に(国発95‐29号)
  • 輸出に係る増値税還付等の計算公式を以下のように通知(財税字95‐92号)
    当期控除或いは還付出来ない税額(A)=当期輸出FOB価格×不還付税率
    当期納税額=当期国内貨物売上税額-(当期仕入税額-A)-前期未控除仕入税額
    (輸出売上が50%以上の企業で当期納税額がマイナスの場合は還付)

※この計算公式では輸出FOB価格が控除或いは還付できない税額の計算の基礎となっているため、仕入増値税に対する不還付分のみならず付加価値分についても不還付率分コスト負担となる。

1996年

  • 「財税字95‐92号」の一部修正と内容の明確化の通知。進料加工については付加価値×不還付率がコスト、新企業が係る間接輸出は国内取引扱いとする(国税発96‐123号)「財税字95‐92号」の計算式に進料加工の場合以下の計算式が追加された。
    当期控除或いは還付できない税額(A)=(当期輸出FOB価格-輸入材料見做関税価格)×不還付率

※この頃、中国日本人商工会議所等が(1)不還付税率改善、(2)不還付額計算にFOB価格を適用しない(付加価値分についてもコスト負担となる)、(3)進料加工についてコスト負担をなくす、(4)新企業についても間接輸出を国内取引扱いとしない、との4点について国家税務総局等へ再三要望。

これに対して国家税務総局の言い分は概ね以下のようであったと筆者は記憶している。(1)については還付請求の増値税発票の不正使用等で還付額が徴収額を上回る場合もあり還付財源が逼迫している。(2)、(3)については仕入増値税に基づく不還付額計算では輸出に係る仕入増値税額を確実に把握することは技術上難しく、不正が起こりやすいため、確実に把握できるFOB価格を使用する。(4)老企業は輸出に伴う還付がない、従い、老企業同士の間接輸出は国内取引扱いとしない。新企業が間接輸出に係る場合は最終的に輸出されるまでの徴税管理が難しい、また、新企業が最終的に輸出すれば仕入増値税は還付対象となる。

1997年

※この頃は「国税発96‐123号」に基づいた方法で必ずしも各地の税務局が対応していたわけではなく、企業が税務局と個別に交渉して取扱いを決めていることも多くみられた。非常に混乱していた。

1998年

  • 繊維製品の還付率を9%から11%に引き上げ(財税字98‐164号)
  • 紡績機械の還付率を2000年末まで9%から17%に引き上げ(財税字98‐107号)
  • 鉄鋼、セメント、船舶を9%から11%に、石炭を3%から3%に還付率を引き上げ(財税字98‐102号)
  • 「免税・控除・還付」方式の厳格適用の通知(国税函98‐432号)
  • 7種類の機電製品、5種類の軽工業製品の還付率を9%から11%に引き上げ(財税明電98‐2号)
  • 老企業の輸出免税方式を2000年末まで延長(税税字98‐184号)

※アジア通貨危機の防御策として輸出奨励のため相次いで還付率が引上げされた

1999年

  • 4大機電製品等の一部貨物は還付率を増値税率と同率にする。その他多くの貨物の還付率引き上げ(財税字99‐17号)
  • 衣料品の還付率を17%に、現行13%、11%の還付率の貨物を15%に引き上げ、農産品以外の増値税率13%の貨物は還付率も13%に引き上げ(財税字99‐225号)
  • 99年11月より、老企業の輸出に対しても原則新企業と同様に輸出に係る増値税還付方法を適用(国税発99‐189号)

2000年

  • 広東省の輸出企業を中心に増値税還付の騙取り等の違法行為が横行していることから、還付手続、証憑等の厳格審査を指示(国税函00‐51号)
  • 増値税還付の騙取りに行政処罰の規定を通知(外経貿発展発00‐513号)

2001年

※この頃より増値税還付遅延問題が深刻化

  • 「国税発98‐95号」により輸出規模等により企業分類したA,B,C,Dの分類に基づき、A,B分類企業を優先して増値税還付処理する旨通知(国税発01‐83号)
  • 増値税還付遅延による企業の短期資金不足対処のため、増値税未還付債権担保により、銀行より当該債権の70%以内、1年以内の借入が出来る旨の通知(銀発01‐276号)

2002年

  • 税務当局、企業双方の責任厳格化を求め「免税・控除・還付」方式の申請表等、手続資料の一層の詳細化、審査の厳格化を図る規程(試行)を通知(国税発02‐11号)

2003年

※夏ごろより、現地の新聞紙上(中国税務報、国際商報等)で、(1)増値税不還付額の累積額が膨大になっていること、(2)税還付財源が依然大幅な不足に陥っていることが、頻繁に報道されるようになる。

  • 2003年10月13日、輸出貨物の増値税還付率を2004年1月より調整する旨の通知が公布された。調整内容は還付率を現状維持、引上げ、引下げ、取消しに分類している。(財税03‐222号)

※不正還付問題と輸出増大に伴う還付負担を中央政府のみが負担していることによる中央政府の恒常的な財源不足が今回の還付税率調整の最大原因であることは明らかだが、この調整の批判を最近の人民元引上げ圧力抑制とも絡めて批判緩和に利用しているとも思われる。
還付率引下げが平均3%と言われているが過去の引下げ幅実績と比較すると小幅となっている。また、今回は輸出貨物品目の構造調整も意図していることから、還付率を一律に引き下げるのではなく、現状維持、引下げ、引上げ、不還付の調整を行っている。
政府当局は、平均3%の引下げの替わりに既存の累積還付遅延額を段階的に返済していくとしている。その関連措置として、返済が2004年以降にずれ込んだもので還付債権を担保に借入している場合はその利息を中央政府が負担し、また2004年以降からは新たな還付遅延は発生させないと当局はコメントしている。
還付率の平均3%引下げによる支出減と、今後の還付額増加分を中央と地方の各政府が増値税収入割合(中央75%、地方25%)に応じて負担すること、及び徴税手続管理強化による不正還付防止および確実な税収を図ること等で、既存の累積還付遅延額の返済を段階的に行い、新たな還付遅延は発生させないとしている。
今後の還付状況を注目していきたい。