ビジネス関連法 駐在員事務所課税の新たな動きについて

デロイトトゥシュトーマツ上海事務所
武藤 淳

はじめに

中国国家税務総局は2003年3月12日付けで、「外国企業の常駐代表機構に関連する税収管理問題に関する通知」(国税発[2003]28号、以下“28号通達”)を発布した。同通達は2003年7月1日より施行され、駐在員事務所の課税方式が変更されている。この通達により、本社機構の性質や駐在員事務所の活動状況によって課税方式が決定されることになり、この点で従来の「外国企業の常駐代表機構に対する租税徴収管理強化の関連問題に関する通知」(国税発[1996]165号、以下“165号通達”)における取扱いと異なっている。ここでは、従来の納税制度と新しい納税制度とを比較し、地域ごとにどのような取扱いが行われているかを概観する。

駐在員事務所の納税義務

中国における外国の駐在員事務所(外国企業常駐代表機構)は本部機構のための情報収集・連絡業務等の準備的補助的活動を行うことが認められ、原則として直接的な営業活動は認められていない。したがって本来は課税所得および課税収入が発生せず、課税対象とはならないはずである。しかし、中国の税務当局は駐在員事務所の事実上の活動内容に着目し、税務上の観点から営業活動を行っているとみなし、1985年に「外国企業の常駐代表機構に対する工商統一税、企業所得税課税暫定規定に関する通知」を発布し、一定の条件を満たす駐在員事務所に対し課税を開始した(なお、工商統一税とは現在の増値税および営業税に相当するものである。)ところが、規定上明確となっていない部分もあり、必ずしも統一的徴収が行われていないことから、165号通達を発布し、課税強化を開始した。

課税・非課税の区分

165号通達では駐在員事務所の活動の課税・非課税の範囲区分を定めている。

(課税活動)

  1. 各種貿易に従事する会社、商社、商店等が設立した代表機構が従事する商品代理、貿易業務活動
  2. ビジネス、法律、税務、会計等の各種コンサルティング・サービス企業が設立した代表機構が従事する各種サービス活動
  3. グループまたは投資会社が設立した代表機構がそのグループ内の会社に提供する各種サービス活動
  4. 広告会社が設立した代表機構が従事する請負または代理広告業務
  5. 旅行会社が設立した代表機構が旅行者に提供するサービス活動
  6. 銀行等の金融機構が設立した代表機構が兼営する投資コンサルティングまたはその他のコンサルティング・サービス
  7. 運送企業が設立した代表機構が運送業務の各段階において顧客に提供するサービス
  8. 代表機構が顧客に提供するその他の課税業務活動

(非課税活動)

  1. 代表機構がその本部機構の生産販売する自社製品の業務のためにのみ、中国において市場の調査、ビジネス資料を提供し、連絡およびその他の準備的・補助的活動を行う場合。ただし、駐在員事務所がその本部機構のために行う各種の代理業務・サービス業務のために行う同種または関連業務は含まれない。
  2. 外国政府、非営利機関、各種の民間団体が中国において設立した代表機構が課税活動以外の業務を行う場合。

この課税・非課税の考え方として、代理業務は本部機構のための代理業務を含め課税対象となり、この反対概念としての自営業務は非課税とされている。ここで代理業務とは、他の企業から委託され駐在員事務所が中国国内で連絡・商談・契約の締結の仲介に従事し、コミッション等を入手する行為をいう。
なお、これまでは駐在員事務所の開設後に所轄税務署に非課税申請をした場合、本部機構がメーカーの場合は非課税申請が認められることが多く、本部機構が商社、サービス業の場合は非課税申請が認められることはほとんどなかったのが実情である。

課税方式

駐在員事務所が課税対象となる場合の課税方式には実際所得課税方式、推定利益率課税方式、経費課税方式があり、「常駐代表機構の徴税方法の確定問題に関する通知」(財税外字[1986]55号)においてそれぞれの方式の適用条件を規定している。

  1. 実際所得課税方式
    契約、コミッション率などのすべの資料、証憑等が提供でき、財務収支と原価費用の帳簿計算をおこない、外国費用について所在地の公認会計士の証明が提供できる場合に適用する。
    課税所得=実際収入額−実際経費
    • 企業所得税=課税所得×企業所得税率
    • 営業税=実際収入額×5%
  2. 推定利益率課税方式
    中国国内でのすべての契約資料を提供できるが、契約にコミッション金額の記載がなく正確な証明文書と正確な申告収入額が提供できない、または正確な原価費用の証憑を提供できず、正確な課税所得を計算できない場合に適用する。また、自営商品貿易か代理商品貿易かの区別ができない場合に適用する。
    課税所得=(売契約額×推定コミッション率×国内収入比率)×推定利益率10%
    または、課税所得=(売買差額×国内収入比率)×推定利益率10%
    • 企業所得税=課税所得×企業所得税率
    • 営業税=上記(  )内×5%
  3. 経費課税方式
    関連する契約および協議書などの資料や証憑を提供できず、正確に収入額を申告できない、あるいは正確な証明文書を提供できない場合に適用する。
    課税所得=経費支出額÷(1−推定利益率10%−営業税率5%)×推定利益率10%
    • 企業所得税=課税所得×企業所得税率
    • 営業税=経費支出額÷(1−推定利益率10%−営業税率5%)×営業税率5%

28号通達による変更点

従来は、所轄税務署が規定に照らして課税範囲をさだめ、それとは別に課税方式を選択していた。しかし、28号通達では165号通達の駐在員事務所の課税活動を3つに区分し、それぞれに適用すべき課税方式を規定している。課税方式と課税対象業務との関係は以下のとおりである。

課税方式 従来の適用条件 28号通達による区分(165号通達第1条1項各号の課税業務について課税方式を示している。)
実際所得課税方式 契約、コミッション率などのすべの資料、証憑等が提供でき、財務収支と原価費用の帳簿計算をおこない、外国費用について所在地の公認会計士の証明が提供できる場合に適用する。 (2号)ビジネス、法律、税務、会計等の各種コンサルティング・サービス企業が設立した代表機構が従事する各種サービス活動。《健全な会計帳簿を確立し実際収入に基づき申告納税しなければならない。》
経費課税方式 関連する契約および協議書などの資料や証憑を提供できず、正確に収入額を申告できない、あるいは正確な証明文書を提供できない場合に適用する。 下記各種代理業、貿易業(自営貿易と代理貿易)に従事するサービス業に分類される各種代表機構
  • (1号)各種貿易に従事する会社、商社、商店等が設立した代表機構が従事する商品代理、貿易業務活動
  • (4号)広告会社が設立した代表機構が従事する請負または代理広告業務
  • (5号)旅行会社が設立した代表機構が旅行者に提供するサービス活動
推定利益率課税方式 中国国内でのすべての契約資料を提供できるが、契約にコミッション金額の記載がなく正確な証明文書と正確な申告収入額が提供できない、または正確な原価費用の証憑を提供できず、正確な課税所得を計算できない場合に適用する。また、自営商品貿易か代理商品貿易かの区別ができない場合に適用する。 《実際に取得した業務収入(その本部機構が一括して取得したものも含む)について、四半期ごとに申告納税するか、業務収入がなければ年度終了後1ヶ月以内に当年度の活動報告をする。》
  • (3号)グループまたは投資会社が設立した代表機構がそのグループ内の会社に提供する各種サービス活動
  • (6号)銀行等の金融機構が設立した代表機構が兼営する投資コンサルティングまたはその他のコンサルティング・サービス
  • (7号)運送企業が設立した代表機構が運送業務の各段階において顧客に提供するサービス
  • (8号)代表機構が顧客に提供するその他の課税業務活動

また、165号通達および1997年002号通達に定めた免税活動について、28号通達による取扱いは次のとおりとなると考えられる。

免税の業務活動
国税発1996年165号
国税発1997年002号
国税発2003年28号による具体的な区分
本部機構が製品を生産販売し、自社製品を中国で販売するための中国での市場調査、ビジネス資料の入手、連絡およびその他準備、補助的活動 非課税
外国政府、非営利機構、各民間団体などが中国で設立した代表機構が従事する非営利活動 非課税
代表機構が本部機構の商品取引のために行う市場調査、ビジネス資料の入手およびその他の準備、補助的活動 経費課税方式
代表機構が中国企業の委託を受け、中国商品の輸出貿易業務を代行 経費課税方式
銀行金融機関が設立した代表機構が本部機構の貸出業務のために各種の準備、補助的なサービスを提供するが、別途サービス料を徴収しない。 明確な規定はなし

28号通達の検討課題

28号通達では明らかになっていない点が数多くある。たとえば、ビジネスコンサルティング代表機構の定義や、コンサルティング・サービス企業の会計帳簿の設置や領収書の使用などが明らかでない。また、実務においては、実際所得課税方式における代表機構の繰越損失の取扱い、推定利益課税における利益率の推定方法、2003年度の移行措置といった問題をクリヤしなければならない。これらの諸問題を解決すべく追加の補充通知が発布されると思われるが、以下、現在までに発布された地域ごとの通知を概観する。

上海市の対応

28号通達を受けて、上海市国家税務局及び上海市地方税務局は2003年6月30日付けで、上海市における取扱いを定めた「外国企業の常駐代表機構の納税事項に関する通知」を発布した。当該通知によれば、各駐在員事務所は28号通達の規定に照らして、課税方式を新たに確定する必要があるか否かを自ら確認し、課税方式の変更が必要な場合には、8月15日までに「外国企業の常駐代表機構の業務活動状況表」およびその他の関連資料を税務局に提出しなければならない。
課税方式の変更が必要な場合とは、たとえば従来は経費課税方式を適用してきたが、28号通達に従えば実際所得課税方式或いは推定利益率課税方式を適用することとなるような場合である。駐在員事務所から提出された資料に基づいて、税務局は各駐在員事務所の課税方式を改めて認定することになると思われるが、各課税方式の適用方法等に関してはなお不明確な点もあり、具体的にどのような運用がなされるのかはまだ必ずしも明らかではない。
また、課税対象となる業務活動には従事していないとして、すでに免税の認定を受けている駐在員事務所(上海市の場合、実務的取扱いとして、駐在員事務所が免税の申請をし、認可されると当該事務所に免税番号が与えられる)については、8月15日までの資料提出が必要か否か、今回の通知では必ずしも明確ではないが、上海市の税務局は年末までにより具体的な取扱いに関する通知を出し、すでに免税の認定を受けている駐在員事務所を含むすべての駐在員事務所に対して業務活動状況等の報告を求め、課税か免税かに関する再認定を行う可能性がある。近年、上海市では駐在員事務所の免税認定が厳しくなっているが、今後、駐在員事務所の免税申請及び認可の取扱いがどのようになるのかについても、現時点では明らかではない。
なお、上海で課税及び非課税の業務活動に従事する代表機構は全て、下記の規定に従い納税申告を行わなければならない。

  1. 実際所得に基づいて納税する代表機構と経費支出を収入に換算する方法で納税する代表機構は、四半期終了後15日以内に営業税の申告、企業所得税の予定納税を行い、年度終了後に企業所得税額を確定する。経費支出を収入に換算する方法で納税する代表機構は、同時に営業税額も確定する。2003年7月1日の前後で異なった納税方式を採用する代表機構は、年度終了後において期間別にそれぞれの納税額を確定する。
  2. 28号通達第二条第三項に規定された方式で納税する代表機構は、当年度において実際に業務収入を得た場合、四半期ごとに営業税と企業所得税の申告をし、年度終了後に納税額を確定する。当期に業務収入がない場合は、四半期ごとに「ゼロ」申告をする。
  3. 免税と認定された代表機構及び当年度に業務収入のない、実際所得に基づいて納税を行う代表機構は、年度終了後一ヶ月以内に書面で当年度の具体的な業務活動或いは経営状況を報告し、年度所得税申告表と「外国企業の上海駐在員事務所の業務報告表」を記入し報告する。

北京市での対応

北京市においても28号通達を受けて、次のような補充通達が出されている。北京市国家税務局により2003年6月18日付けで、北京市における取扱いを定めた「当市の外国企業常駐代表機構の企業所得税徴収管理方式に関する事項についての通知」が発布され、また、北京市地方税務局により「当市の外国企業常駐代表機構の営業税徴収管理方式に関する事項についての通知」が発布されている。当該両通知によれば、すべての駐在員事務所は自ら企業所得税および営業税の納税方法を確定し、国家税務局で10月31日までに、地方税務局で8月31日(9月1日まで延長)までに、関連手続を実施しなければならない。なお、納税方式を検討の結果、変更しなくてもよい駐在員事務所を含めて、すべての駐在員事務所が期限までに関連手続きをしなければならない。
従来、所轄税務機関が課税方式を決定していたが、今後は駐在員事務所自らが納税方式を決定することになる。その一方で、税務局の検査を受け納税者が自ら決定した納税方法に誤りがある場合は、税収法律規定に基づき税務機関による納税方式の修正をうけることがある。
北京では、代表機構が中国国内企業の依頼を受けて、中国商品の輸出貿易業務の代理により取得した収入は課税されず28号通達と取扱いが異なっている。また、すでに所轄税務機関により判定された駐在員事務所の課税・免税の区分は継続されず、2003年7月1日より新たな通知に基づき決定することになる。すなわち駐在員事務所が得ていた従来の免税批准は取り消されることになる。ただし、外国政府や国際組織、非営利機関、民間団体の設立した代表機構で既に国家税務総局から免税批准を得ている場合は、その免税批准は引き続き有効である。
なお、2003年7月1日以前の企業所得税および営業税は従来の納税方式で納税し、2003年7月1日以降は新しい通知に従い納税を実施することになっている。この結果、第3四半期に課税が発生した場合、10月15日までに申告しなければならない。さらに、2003年7月1日以前の課税方式が経費課税となっている場合には、この期間についてについては会計監査が必要となると考えられる。