ビジネス関連法 移転価格に伴う事前確認制度(APA)について

2004年11月8日作成

2004年9月に国家税務総局より「関連企業間取引の事前確認実施細則」(国税発04−118号)が公布された。事前確認(APA:AdvancePricingAgreement)制度とは関連企業間取引の価格設定の妥当性について事前に税務当局に確認を受ける制度であり、双方の協議に基づく確認価格で取引を行っていれば、申請年度も含めて最長5年間は移転価格の調査対象とはならない。この事前確認制度を中国内ですでに130社以上の企業が利用していると言われている。これまで具体的な手続を定めた実施細則がなかったが、このたび実施細則としてガイドラインを公布した。

1. 日系企業の現状

日系企業は日本の親会社の一工場との感覚で進出し、独立した企業としての意識が希薄なまま、取引価格面でも日本の親会社の意向どうりの設定で親会社の利益優先の取引価格を設定することも多いのではないかと推察される。また、近隣国ということもあり、日本親会社との取引も他国企業と比べて多く、税務局もこれらの状況により比較的日系企業を移転価格調査の重点対象企業としてきたように思われる。

2. 調査対象になりやすい企業

移転価格調査の対象企業として、関連企業間の取引があり以下のような状況の企業が対象となりやすい。

  1. 海外の関連企業との取引が多い(国内の関連企業との取引が多い場合も調査対象になりうるが重点対象ではない)
  2. 利益水準が同業他社より低い
  3. 長期的に損失を計上している
  4. 5年間の繰越欠損を利用しているとみられる
  5. 2免3減等の優遇後に損失を計上するようになった
  6. 継続的に損失計上またはほとんど利益を出していないのに増資等で経営規模を拡大している
  7. タックスヘブンのある国の関連企業と取引がある

いままで移転価格の調査対象になった企業は6000社を超えるといわれている。そのうち日系企業がどのくらい調査対象になったかは不明だが、国家税務総局で現在集計中とのことであり来年には集計できると言われている。

3. 事前確認の手続プロセス

2004年9月に公布された「関連企業間取引の事前確認実施細則」(国税発2004−118号)による事前確認手続のプロセスは、(1)予備会談、(2)正式申請、(3)審査と評価、(4)確認協議と協議書草案の作成、(5)確認協議書の締結、(6)監督実施、とされている。主要内容は以下のようである。

  1. 予備会談
    • 正式な申請を行う前の実行可能性を検討するための会談であり、事前確認協議書の正式締結前であれば、双方とも何時でも交渉中止は可能であるが、企業名の公表が必要であり、匿名での確認は出来ない。
    • 関連情報の開示
      1. 提案する移転価格の設定方法と前提条件
      2. 関連企業名
      3. 過年度の税務調査の状況
      4. 機能分析
      5. 比較対象等
    • 企業側からの提案及び意見を書面で提出する。
  2. 正式申請
    • 企業は予備会談の合意後3ヶ月以内に正式な申請書を提出する。
    • 主な記載事項としては、「基礎的情報」、「価格ポリシー」、「比較可能資料」であり、以下のような内容となる。
      1. 会社の組織
      2. 事前確認の対象となる関連取引
      3. 直近3年間の財務データ
      4. 関連取引に係る各企業の機能とリスク
      5. 移転価格設定方法とそれを裏付ける機能分析、比較対象価格分析
      6. 価格計算方法の前提条件
      7. マーケットの状況
      8. 確認対象期間に係る経営予測と事業計画
      9. 関連企業に関する情報提供が可能かどうか
  3. 審査と評価
    • 原則5ヶ月以内だが、多国間事前確認は期間限定されない。
    • 多国間の場合は国家税務総局の審査と評価を受ける。
  4. 確認協議と協議書草案の作成
    • 審査評価の内容について企業と協議し、30日以内に事前確認協議書の草案を作成する。
    • 草案の内容としては以下のようである。
      1. 対象となる関連企業、関連取引、期間
      2. 条件の設定と効力時期
      3. 移転価格算定方法、その運用及び計算の基礎に関連する専門用語の定義
      4. 前提条件
      5. 企業の義務、協議の法的効力
      6. 文書資料等情報の秘密保持、相互責任
      7. 協議の修正、争議の解決方法及びその手続
      8. 二重課税の排除、注意事項、関連添付書類
  5. 確認協議書の締結
    • 確認協議書草案の内容に双方合意後、30日以内に正式な事前確認協議書を締結する。
    • 事前確認協議の締結に至らなかった場合は、相互に提供した全ての資料を相手方に返却するとともに、協議の過程で得られた事実以外の情報を以後の調査に用いてはならない。
    • 事前確認協議の更新を希望する場合は、期間満了90日以前までに管轄税務局に更新を申請する(自動更新は出来ない)。
    • その場合は協議書内容及び関連環境に実質的変化がなく、協議条項を遵守していることの説明資料を同時に提出する。
  6. 監督実施
    • 事前確認企業
      1. 事前確認協議の遵守状況に関する年度報告
      2. 決算年度終了後4ヶ月以内に管轄税務局に提出
    • 管轄税務局
      1. 定期的(通常は半年毎)に履行状況を検査
      2. 企業側に隠匿或は協議実施拒否の状況があれば、当該協議は実施一年度の一日目に遡って撤回する
    • 事前確認協議書内容に実質的な影響を与える環境変化が生じた場合。
      1. 企業側は変化が生じた日から15日以内に、管轄税務局に書面で報告
      2. 管轄税務局は変化の状況を確認し、協議条項及び関連条件の修正について企業側と協議し、当該変化が与える影響により合理的な救済方法、叉は事前確認協議の中止等の措置を30日以内に決定する

4. その他留意事項等

  • 事前確認協議の有効期間は正式認可申請年度の翌年度以降2年から4年であるが、主管税務機関の審査、承認を得て申請年度に遡及して適用可能である。従い、最長5年の有効期間となる。
  • 事前確認を申請したからといって以前年度の移転価格問題を解決する手段とはならない。
  • 企業名を明かしての予備会談であり、匿名申請は出来ない。
  • 予備会談申請から確認協議書の締結まで1年近い期間必要となることもある。
  • 事前確認協議制度を利用するにあたっては、会計事務所等の専門家を交えて交渉を行っていくことが望ましいが、それなりの費用が必要となる。
  • 移転価格調査対象とされた場合の資料提供、調査期間等は、当該事前確認制度以上の労力を要するものと予想される。