ビジネス関連法 国家税務総局『特別納税調整実施弁法(試行)』に関する通知
2009年4月10日作成
- 【法令名称】
- 国家税務総局『特別納税調整実施弁方法(試行)』に関する通知
- 【発布機関】
- 国家税務総局
- 【発布番号】
- 国税発(2009)2号
- 【発布日】
- 2009年1月8日
- 【施行日】
- 2008年1月1日
主旨と目的
2008年『中華人民共和国企業所得税法』が実施された。第六章の「特別納税調整」は、譲渡価格、資本減少、一般租税回避防止および外国企業の会社支配などの分野で中国税務機関が特別納税調整を行うための法的基礎を確立しようとするのみならず、中国企業が税務局への事前確認およびコストシェアリング協議を達成するための法的根拠を提供しようとするものである。
従って、『中華人民共和国企業所得税法』及びその実施条例の実施、特別納税調整管理の強化および規制を徹底するため、2009年1月8日、国家税務総局は本『特別納税調整実施弁方法(試行)』(以下、『弁法』と略称する)を制定し、特別納税調整を実施するうえでの具体的規定を設けた
内容のまとめ
『弁法』は、『企業所得税法』および『企業所得税実施条例』の中の租税回避防止に関する規定を解釈するとともに、その内容をより詳細に規定している。以下、その内容を簡単に紹介する。
項目 | 対応条文 | 本弁法内容 |
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関連関係 |
『企業所得税法』 企業とその関連当事者との間の取引関係が独立取引の原則に適合せず、その企業或いは関連当事者の納税すべき収入または所得額を減少させる場合、税務機関は合理的な方法によって調整する権限を有する(第41条)。 |
関連関係(第9条)
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同期資料の管理 |
『企業所得税法』(第43条) 税務機関が関連業務を調査する際、企業とその関連当事者、および同調査と関連のあるその他企業は規定に従って関連資料を提供しなければならない。 『企業所得税法実施条例』(第114条) 企業所得税法第43条にいう関連資料には、以下のようなものを含む。
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同期資料の内容(第14条)
同期資料の提出が免除される場合(第15条)
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移転価格算定方法および選択、使用 |
『企業所得税法』(第41条) 企業とその関連当事者との間の取引業務が独立取引の原則に適合せず、その企業或いは関連当事者の納税すべき収入または所得額を減少させる場合、税務機関は合理的な方法によって調整する権限を有する。 |
譲渡価格算定方法(第21条) 譲渡価格算定方法には独立価格比準法(CUP)、再販価格基準法、原価基準法、取引純営業利益法、利益分割法及び独立取引の原則に適合するその他の方法が含まれる。 合理的な譲渡価格算定方法の適用(第22条) 合理的な譲渡価格算定方法を選定するには、比較可能性分析を行わなければならない。比較可能性分析には主に以下の五つの要素が含まれる。
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税務機関が移転価格調査・調整を行う | 『税収徴収管理法』間連税務検査の規定 |
譲渡価格調査(第28条) 税務機関は徴収管理法及び実施細則の税務調査に関する規定に基づき、調査対象企業を選定し、移転価格調査及び調整を行う権限を有する。調査対象企業は事実に基づいて関連取引の情況を報告し、関連資料を提供しなければならず、拒否または隠蔽してはならない。 企業への重点調査(第29条) 譲渡価格調査は以下のような企業を重点的に選定する。
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事前確認 |
『企業所得税法』(第42条) 企業はその関連当事者との取引の価格原則と計算方法を税務機関に提出でき、税務機関は企業と協議・確認の後、納税額事前確認を行うことができる。 |
事前確認(APA)(第46条) 企業は次年度以降の取引の価格設定原則、計算方法について、税務機関と納税事前確認協議を行うことができる。同事前確認の交渉、締結及び実施には通常、予備会談、正式申請、審査・評価、協議、締結、及び実施監督の6段階がある。事前確認には一国内、二国間及び多国間の3種類が含まれる。 適用企業(第48条) 上記事前確認は通常以下の条件をすべて満たす企業に適用される。
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コストシェアリング契約 |
『企業所得税法』(第41条2項) 企業とその関連当事者が共同して無形資産の開発・譲受を行った場合、または共同して労務の提供したり、またはこれを受けた場合に発生するコストについて、未払い所得税額を計算するときは、独立取引の原則により費用分担を行うべきである。 |
コストシェアリング契約の届出(第69条) 企業はコストシェアリング契約を締結した日から30 日以内に、国家税務総局に届け出なければならない。税務機関はコストシェアリング契約が独立取引原則に適合しているか否かの判断に際しては、国家税務総局に報告し、その審査を受けなければならない。 企業が分担した原価を損金計上してはならない場合(第75条) 企業がその関連当事者と締結したコストシェアリング契約について、以下のいずれかの状況に該当する場合、分担した原価を損金に計上してはならない。
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過少資本の処理 |
『企業所得税法』(第46条) 企業は、その関連当事者から受けた債権性投資と権益性投資の比率が規定基準を超過することにより生じた利息支出を、未払い所得税額の算出時に控除してはならない。 |
課税所得額を計算するときに控除できない利息支出の計算(第85条) 未払い所得税額を計算するときに控除できない利息支出は下記の計算式により計算する。 控除できない利息支出=年度において実際に支払った関連当事者に対する全ての利息×(1−基準比率/関連負債資本比率) そのうち、 基準比率とは『財政部、国家税務総局の企業関連者の利息支出の税引前控除の基準についての税収政策の問題に関する通知』(財税「2008」121 号)に規定されている比率を指す。 関連負債資本比率とは、企業がすべての関連当事者から受けた債権性投資(以下、関連債権投資と称する)が企業の受けた持分性投資(以下、持分投資とする)に占める比率を指し、関連債権投資には関連当事者が各種形式で保証を提供する債権性投資が含まれる。 関連同期資料の提出(第89条) 企業の関連負債資本比率が基準比率を超えた利息支出について、課税所得額の算出時に控除する必要がある場合、同期資料を準備、保存し、且つ税務機関の要求に従って提出することにより、関連債権投資金額、利率、期限、融資条件及び負債資本比率等が独立取引の原則に適合することを証明しなければならない。
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一般的租税回避防止調査 |
『企業所得税法』(第47条) 企業がその他の合理的商業目的を持たない行為によって納税すべき収入或いは所得を減少させたとき、税務機関は合理的方法によりこれを調整する権限を有する。 |
一般的租税回避防止調査の状況(第92条) 税務機関は、以下の租税回避の状況が存在する企業に対して、一般的租税回避防止調査を開始することができる。
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日系企業への影響
- 『弁法』の制定は税務機関が関連税務監督管理を強化したことを意味する。これにより、日系企業の親会社は、中国現地企業を通じて、譲渡価格、コストシェアリング契約、外国企業による会社支配、資本減少、一般租税回避などの措置を実施することによって、その税負担を軽減する可能性が少なくなってきた。しかし、事前確認(APA:Advance Pricing Agreement)制度によって、特別納税調整がもたらす税金及び利息損失を避けることができることとなった
- 譲渡価格調整は関連課税取引を調整するものである。したがって、特別納税調整により直接課税及び利息損失が生じる可能性があるほか、間接的課税(例えば、余分の増値税、営業税課税)による損失が生じる可能性もある
- これまで企業は譲渡価格の同期資料の提出を強制されていなかった。『弁法』によれば、企業は以下のいずれかに該当して初めて同期資料の準備が免除される。そうではない場合、企業は、関連取引発生年度の翌年の5月31 日までに、当該年度の同期資料をすべて準備しなければならなくなった。
- 当該年度に発生した関連取引売買金額が2 億元以下、且つその他関連取引金額が4000万元以下であること(コストシェアリング協議を実施する場合または納税事前確認に関連する取引金額は含まれない)
- 関連取引が同事前確認の実施範囲に含まれること
- 外資持分が50%未満で且つ中国国内の関連当事者のみと取引が発生すること
- 『弁法』は、初期の『国家税務総局関連企業間の業務取引税務管理規程(試行)』(国税発〔1998〕59号)などの規定に比べより詳細になっている。しかし、『弁法』は、手続部分を主として言及し、関連取引の認定が独立取引原則に適合しているか否か等の問題については具体的な指導規定を設けていないため、特別納税調整実施時には税務部門の発言力が相対的に大きくなる可能性が強い。したがって、企業は具体的な決定以前に、関連取引が独立取引原則に適合することをいかに証明するか等の問題を考慮する必要がある。必要な場合には、この点について税務部門との意思疎通と交流を強化すべきである。とりわけ、上記事前確認制度の利用が可能か否かについては、地方税務機関の同事前確認制度に対する態度如何に大きくかかわってくる
- 『弁法』は、手続きの調整によって二重徴税の問題を解決すると規定している。企業は特別納税調整通知を受け取った日から3年内に申請を提出すべきである。同規定により、日系企業はそのグローバルな税負担を合理的に調整することが可能になった。手続き調整を通じて、二重徴税を最大限に避けることが可能になったためで、特別納税調整が企業にもたらす税負担を多少なりとも軽減しているといえる
- 事前確認、コストシェアリング契約および一般的租税回避防止調査は、国家税務総局が最終的な審査と決定を行うものであるため、将来的に、国家税務総局がそれらの問題を処理するより大きい権限を有するようになることが予想される。従って、企業は国家税務総局との意思疎通を重視していくことが必要である
参考資料
- 「特別納税調整実施弁法(試行)」(408KB) (2009年1月8日公布)