ビジネス関連法

従業員有給年次休暇条例

2008年11月25日作成

【法令名称】
従業員有給年次休暇条例
【発布機関】
国務院
【発布番号】
国務院令第514号
【発布日】
2007年12月14日
【施行日】
2008年01月01日

主旨と目的

従業員の休憩・休暇の権利を保護し、従業員の積極性を発揮させる(第1条)。

内容のまとめ

本法令は、有給年次休暇を享受する及び享受しない従業員の範囲、有給年次休暇期間中の待遇、日数、手配、法的責任、紛争の解決などを以下の通り規定している。

有給年次休暇を享受する従業員の範囲
(第2条)
機関、団体、企業、事業単位、民営非企業単位、従業員を雇っている個人工商戸などの単位の従業員が連続して1年以上勤務する場合。
当年度の有給年次休暇を享受しない従業員の範囲
(第4条)
  • 従業員が法律に基づいて冬休み又は夏休みを享受し、且つ休暇日数が年次休暇を上回る場合
  • 従業員が私用休暇を累積20日以上取って、且つ単位が規定に基づいて給料を減額しない場合
  • 累計勤務年数が1年以上10年未満の従業員について、病気休暇を累積2ヶ月以上取った場合
  • 累計勤務年数が10年以上20年未満の従業員について、病気休暇を累積3ヶ月以上取った場合
  • 累計勤務年数が20年以上の従業員について、病気休暇を累積4ヶ月以上取った場合
有給年次休暇期間中の待遇
(第2条)
従業員は年次休暇期間中に通常勤務期間と同額の賃金収入をもらうことができる。
有給年次休暇の日数
(第3条)
  • 従業員の累計勤務年数が1年以上10年未満の場合、年次休暇は5日間である。
  • 10年以上20年未満の場合、年次休暇は10日間である。
  • 20年以上の場合、年次休暇は15日間である。
※備考:法定祝日、休日は有給年次休暇に算入しない。
有給年次休暇の手配
(第5条)
  • 単位が生産、作業の具体的な状況によって、且つ従業員本人の意思を考慮し、従業員の年次休暇を統一して計画・手配する。
  • 年次休暇は一年度内で集中的に手配し、又は回数を分けて手配することもできる。通常、年度を越えるような手配はしない。単位が生産、作業の特性により、年度を越えて手配する必要があれば、次年度に繰り越して手配することもできる。
  • 単位が仕事の要因により従業員の年次休暇を手配できない場合、従業員本人の承諾を経れば、従業員に年次休暇を手配しなくてもよい。従業員が休むべきであるにもかかわらず休まなかった日数について、単位は当該従業員の一日分の賃金収入の300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなければならない。

日系企業への影響

本法令は中国で登録登記している機関、団体、事業単位、民営非企業単位、従業員を雇っている個人工商戸などの雇用者(日系企業を含む)及びその従業員に適用される。本法令に対する理解は、下記の事項に注目すべきである。なお、説明すべき点として、本法令の実施弁法である「企業従業員有給年次休暇実施弁法」(人力資源と社会保障部、2008年9月18日より施行、以下「実施弁法」という。)が、本法令では明らかでない部分について補足しているので、以下においては、「実施弁法」と併せて日系企業への影響について述べる。

  1. 「連続して1年以上勤務する」ことについての解釈
    本法令第2条の規定に基づき、従業員が連続して1年以上勤務する場合、有給年次休暇を享受する。ここにいう「連続して1年以上勤務する」ことは、「本雇用主で連続して1年以上勤務する」ことに限らず、従業員の現在までの「その他の雇用主で連続して1年以上勤務する」ことも含む。但し、1つの雇用主における勤務時間が1年未満で中断し、また、ほかの雇用主に転職した場合、これは継続して「連続勤務」に算入できるか否かは、立法によりさらに明確化されることが期待される。
  2. 帰省休暇、結婚休暇、出産休暇は有給年次休暇と相殺しない
    本法令第4条の規定に基づき、従業員が有給年次休暇を享受しない場合には、従業員が取った冬休み・夏休み、又は私用休暇、病気休暇が規定された状況に適合している場合などが含まれている。これに基づき、従業員が帰省休暇、結婚休暇、出産休暇などの休暇を取った後でも、さらに有給年次休暇を取得することができる。「実施弁法」第6条で、改めて前述の解釈が明確にされている。
  3. 「賃金収入」の位置付けについて
    本法令第5条の規定に基づき、従業員は年次休暇期間中に通常の勤務期間と同額の賃金収入をもらうことができる。従業員が休むべきであるにもかかわらず休まなかった年次休暇の日数については、単位は当該従業員の一日分の賃金収入の300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなければならない。ここにいう「賃金収入」の範囲には、「実施弁法」第11条の規定と合わせると、時間外手当は含まれないが、基本給、賞与、手当等が含まれると考えられる。
  4. 企業は法定の基準を基にして従業員により多くの休暇福利を与えることができる
    本法令では有給年次休暇を享受する従業員の範囲、有給年次休暇の日数、休むべきであるにもかかわらず休まなかった休暇への補償等を規定している。これは法律が規定する企業が実施しなければならない最低基準であり、かかる最低基準を基にして、本法令は企業がより高い基準を実施することを制限、禁止していない。
    実務上では、多くの企業は現在有給年次休暇を法定基準部分と企業福利の部分に分け、法定基準の部分に対しては、厳格に法律規定に基づき実施するが、企業福利の部分に対しては、社内規則制度に基づき実施している(これは企業福利の部分が「休むべきであるにもかかわらず休まなかった」場合、企業は通常の勤務期間と同額の賃金報酬を支給すればよく、300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなくてもよいことを意味しており、これは法律上でも通常問題がない)。
  5. 「累計勤務年数」の確定について
    「累計勤務年数」の概念及び計算方法等については、本法令は明確に規定しておらず、実務上では「本雇用主における勤務年数に限られるのか、それとも本雇用主に入社する前にその他の雇用主における勤務時間も含まれるのか」という議論が生じやすい。これに対して、「実施弁法」第4条で「従業員の同一又は異なる雇用主での勤務期間」は「累計勤務年数」に算入すべきであることが明確に規定されている。
    ただし、「実施弁法」は上述の問題を解決してはいるが、雇用主が従業員のその他の雇用主における勤務年数を確認する方法及び手段を明確にはしていないという点に注意しなければならない。実務取扱い上、従業員が本雇用主に入社する前に、その他の雇用主にて勤務していた時のかかる採用手続が万全に行われていたのであれば、本雇用主も従業員の労働手帳、社会保険料納付記録等を通して従業員のその他の雇用主における勤務年数を確認することができ、それによって従業員の累計勤務年数を確認することができる。但し、従業員がその他の雇用主にて勤務していた時のかかる採用手続が万全に行われていなかったことにより、かかる就業記録が従業員の労働手帳に記載されておらず、かかる社会保険納付記録もないという場合には、本雇用主は従業員のその他の雇用主における勤務年数を正確に確認することはできなくなってしまう。この場合、従業員のその他の雇用主における勤務年数は、どのような方法により計算し、証明(従業員自らが挙証証明するのか、それともその他の雇用主が書面で証明するのか、証明するとしたら、どのように証明するのか、等)したらよいのか明確にされることが期待される。
  6. 「休むべきであるにもかかわらず休まなかった年次休暇」の認定について
    本法令第5条の規定に基づき、従業員が「単位の原因により」、年次休暇を取得しなかった場合、雇用主は300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなければならない(「実施弁法」第10条の規定に基づき、300%の年次休暇の賃金報酬には既に従業員の通常の勤務期間の賃金報酬が含まれている)。但し「実施弁法」第10の規定に基づき、従業員が「自身の原因により」、年次休暇を取得しなかった場合(即ち、雇用主が従業員に年次休暇を手配したにもかかわらず、従業員本人の原因により年次休暇を取得しない旨の書類を提出する場合)、雇用主は300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなくてもよい(その通常の勤務期間の賃金報酬を支払うだけでよい)。
    注意すべき点として、「実施弁法」第10条の規定に基づき、雇用主が従業員に対し一日分の賃金収入の300%の年次休暇の賃金報酬を支給しない前提は、従業員が年次休暇を取得しない旨の「書類を提出する」ことである。但し労働案件の通常の挙証規則に基づくと、従業員の年次休暇を取得しない旨の「書類」を挙証する責任は雇用主にある。雇用主が従業員から年次休暇を取得しない旨の「書類を提出した」という事実を挙証できない場合、雇用主は従業員に一日分の賃金収入の300%の年次休暇の賃金報酬を支給しなければならないリスクがある。