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上海市の労働争議仲裁管轄を調整することについての通知

【法令名称】
上海市の労働争議仲裁管轄を調整することについての通知
【発布機関】
上海市労働社会保障局
【発布番号】
滬労保仲発〔2008〕44号
【発布日】
2008年8月21日
【施行日】
2008年9月1日

主旨と目的

「中華人民共和国労働争議調停仲裁法」(以下「労働争議調停仲裁法」という)の施行を貫徹し、上海市労働争議仲裁の管轄(等級別管轄及び地域別管轄)事項を一層明確にする(序文)。

内容のまとめ

本法令は、上海市労働争議仲裁の管轄(等級別及び地域別)事項を以下の通り規定している。

等級別管轄 上海市労働争議仲裁委員会(第1条)
  • 登録資本金1千万米ドル以上(又は1千万米ドル相当以上)の上海市外商独資企業とその従業員との間で発生した労働争議案件。
  • 上海市企業と同企業における適法な就業資格を取得した外国籍人員、台湾・香港・マカオの人員及び国外に定住する人員との間に発生した労働争議案件。
  • 重大な影響力のある労働争議案件。
区(県)労働仲裁委員会(第2条)
  • 上海市の範囲内での、上海市労働争議仲裁委員会の管轄以外のその他の労働争議案件。
  • 特例:上海市浦東新区労働争議仲裁委員会は、浦東新区内の登録資本金1千万米ドル以上(又は1千万米ドル相当以上)の上海市外商独資企業とその従業員との間に発生した労働争議案件の管轄を同時につかさどる。
地域別管轄(第3条)
  • 労働契約履行地又は雇用主の所在地の労働争議仲裁委員会。
  • 当事者双方が労働契約履行地と雇用主の所在地の労働争議仲裁委員会にそれぞれ別々に仲裁を申立てた場合、労働契約履行地の労働争議仲裁委員会が管轄する。

日系企業への影響

本法令は上海市外商投資企業(日系企業を含む)とその従業員との間に発生した労働争議案件に適用される。かかる企業とその従業員との間に労働争議案件が発生した場合、本法令に定める上述の等級別管轄と地域別管轄の具体的な要求に従い、かかる労働争議仲裁委員会を選択し仲裁を申立てる。

また、本法令及びその日系企業への影響については、以下の事項に注目すべきである。

  1. 本法令は「労働争議調停仲裁法」第21条の労働争議仲裁管轄についての補足である。「労働争議調停仲裁法」第21条第1項では、「労働争議仲裁委員会は本区域内で発生した労働争議の管轄をつかさどる」と定めているが、「本区域内」の労働争議仲裁の等級別管轄について、「労働争議調停仲裁法」では一層明確にされておらず、本法令は上海市範囲内の労働争議仲裁の等級別管轄について明確に規定している。また、本法令第3条の地域別管轄事項の規定は、「労働争議調停仲裁法」第21条第2項の規定に改めて言及しただけであり、新しい内容はない。
  2. 全体的に見た場合、上海では、登録資本金が比較的大きい(1千万米ドル以上)外商独資企業で発生した労働争議案件、外国籍人員との間に発生した労働争議案件、及びその他の重大な影響力のある労働争議案件の仲裁管轄権を等級の高く、業務経験が一層豊富であると思われる上海市労働争議仲裁委員会に取扱わせているということから、上海が前述の労働争議案件を重要視し、慎重な態度を維持していることがわかる。前述の条件に適合する、かかる企業にとっては、ある意味、より専門的で、慎重な処理を行う機会と可能性が得られるということである(備考:実際の効果についていえば、より専門的で、慎重に取扱ってもらえるということが、最終的に企業にとっても有利であるのかどうかはまた別問題である)。
  3. 本法令第1条第1項の規定によると、上海に登録する登録資本金が1千万米ドル以上(又は1千万米ドル相当以上)の外商独資企業とその従業員との間に発生した労働争議案件(備考:上海市浦東新区は特例とし除外する)は、上海市労働争議仲裁委員会が管轄する。ここでの「外商独資企業」に注目していただきたい。本法令第1条第1項の規定によると、上海に登録する登録資本金が1千万米ドル以下の外商独資企業、及び、登録資本金の額に関係なく全ての中外合弁企業、中外合作企業等は、本法令第1条第1項の規定から外されている(備考:これらの企業の労働争議案件は、本法令第1条及び第2条の規定と合わせて、原則として各区(県)の労働争議仲裁委員会が管轄することになっている(本法令第1条第2項、第3項に該当する場合は除く。))。また、注意すべき点としては、実践においては、「外商合弁企業」(たとえば、2社以上の日本国法人が中国上海に投資し設立する現地法人)の企業形態も比較的よく見かけられるのだが、「外商合弁企業」は「外商独資企業」を参照して本法令を適用するのかどうか、本法令では明確にされていない。
  4. 本法令にて上海市労働争議仲裁委員会が管轄すると規定される「重大な影響力のある労働争議案件」については、その範囲が明確にはされていないが、集団的な労働争議案件、重大な社会的影響力がある又は難解複雑な労働争議案件、重大な結末を招く恐れがある又は政治的事由による労働争議案件などが含まれると考えられる。
  5. 労働契約履行地と雇用主の所在地との違い、及び上海に登録した本社とその中国の他地域における分支機構との違い、並びに中国の他地域における労働争議仲裁管轄に関する規定の違いなどを勘案すると、労働争議仲裁管轄という問題はかなり複雑になるときもある。
  6. 上海を除く中国の他地域では、これまでにも労働争議仲裁管轄に関する地方性規定又は慣習的な方法があり、「労働争議調停仲裁法」の実施を一層貫徹するにともない、中国の他地域における労働争議仲裁管轄に関する地方性法規などもさらに整備され、公布されるもようである。