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上海市労働協約条例

【法令名称】
上海市労働協約条例号
【発布機関】
上海市十二期人民代表大会常務委員会
【発布番号】
上海市十二期人民代表大会常務委員会公告第78号
【発布日】
2007年8月16日
【施行日】
2008年1月1日
【法令紹介】
 

主旨と目的

団体交渉及び労働協約を締結し履行する行為を規範化し、労働者の適法な権益を擁護し、調和の取れ安定した労働関係を構築し発展させる。(第1条)

内容のまとめ

本条例は、上海市行政区域内の企業と従業員側が労働関係の特定事項につき団体交渉を行い、労働協約を締結し履行する状況に適用される(第2条)。上海市の企業と従業員側との間の団体交渉、労働協約、業種別及び地域別労働協約、争議の処理及び法的責任等の各方面について規定されている。主な内容として次のものが含まれる。

項目 具体的な内容



団体交渉の対象となる事項
  • 企業が従業員の利益と密接な係わりのある規則制度又は重大な事項を制定し、改正し、又は決定するときは、本企業の従業員側と団体交渉を行った後に確定しなければならない。これらの事項には、労働報酬、就業時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員訓練、労働規律、労働ノルマ、法律法規で定めるその他の内容が含まれる(第12条第1項)。
  • 企業は、従業員の賃金水準、賃金調整制度についても、従業員側と団体交渉を行わなければならない(第12条第2項)。
  • 従業員側は、従業員の利益に係わる事項につき、企業に団体交渉を行うよう求めることができる(第12条第3項)。
交渉の提案に対する回答要求
  • 企業と従業員のうち、いずれか一方から交渉の提案をすることができ、他方は文書の提案を受け取った日から15日以内に文書で回答しなければならず、団体交渉を拒否するときは、正当な理由がなければならない(第13条第1項)。
  • 次の三通りの状況においては拒否、又は遅延してはならない(第13条第2項)。
    -人員を20人以上削減する必要があり、又は削減は20人に満たないが企業の従業員総数の10%以上を占めるとき。
    -労使紛争が群集的操業停止、陳情行動を招いたとき。
    -生産の過程で、重大な事故を招く隠れた危険性、又は職業上の危険性或いは有害性が存在することを発見したとき。
労働協約の可決及び発効
  • 労働協約の締結を目的とする団体交渉につき、双方の代表が合意したときは、労働協約の草案を作成し、交渉の双方の首席代表が署名した後、草案の正式な文書とし従業員代表大会又は従業員全体に提出し討論させなければならない(第20条第1項)。
  • 労働協約の草案は、従業員代表全員の半数以上または従業員全体の半数以上の同意を得た上で可決されるものとする(第20条第2項)。
  • 労働協約の草案は、従業員代表大会又は従業員全体で討論し可決された後、従業員側の首席代表が討論し可決された状況を企業側に文書で告知する(第21条第1項)。
  • 企業は「労働協約が可決された」という文書での告知を受けた日から10日以内に、労働協約を市又は区、県の労働保障行政部門に届出なければならない(第21条第1項)。
  • 労働保障行政部門が労働協約の文面を受け取った日から15日以内に異議を唱えなかったときは、労働協約は有効となる(第21条第3項)。
  • 企業と従業員側個人が締結する労働契約に約定する労働条件及び労働報酬等の基準、又は企業の規則制度に定める労働基準及び労働報酬等の基準は、労働協約の規定を下回ってはならない(第23条第2項)。











業種別労働協約/地域別労働協約
  • 建築業、飲食サービス業等の業種に適用する(第24条)。
  • 本業種の従業員の利益に密接に係わる次に掲げる事項は、業種別団体交渉を行うことができる(第25条)。
    • 本業種の最低賃金基準
    • 本業種の賃金調整の最小幅
    • 本業種の同種の職種のノルマ基準
    • 本業種の各職種、職位の労働安全及び衛生基準
    • 本業種の各職種、職位の従業員訓練制度
    • その他
  • 本地域の従業員の利益に密接に係わる次に挙げる事項は、地域別団体交渉を行うことができる(第27条)。
    • 本地域の最低賃金基準
    • 本地域の賃金調整の最小幅
    • その他
可決及び発効等
  • 業種別/地域別労働協約の草案は、本業種/地域の企業の法定代表者の認可を取得しなければならない(第26条第1項、第28条第1項)。
  • 業種別/地域別の労働協約は、当該草案を認可した企業の従業員代表全員の半数以上又は従業員全体の半数以上の同意を得た上で可決しなければならない(第26条第2項、第28条第2項)。
  • 業種別/地域別の労働協約は、企業側の代表又は労働組合が労働協約及び関係資料を区、県の労働保障行政部門に届出る(第29条第1項)。
  • 労働保障行政部門が届けられた労働協約を受け取った日から十五日以内に異議を唱えなかったときは、労働協約は有効となる(第29条第2項)。
  • 業種別/地域別の労働協約は、当該労働協約を認可した企業及びその従業員に対し拘束力をもつ。企業とその従業員が締結した労働協約及び労働契約に約定した労働条件、労働報酬等の基準は、業種別/地域別の労働協約に約定した基準を下回ってはならない(第30条)。
争議の解決
  • 上海市は、政府関係部門、労働組合、及び企業側の代表で結成する労働関係の三者による調停制度を確立する(第31条)。
  • 団体交渉に起因する争議は、企業と従業員のいずれも労働保障行政部門に調停処理を具申することができる。(第32条)。
  • 企業が労働協約に違反し、従業員の労働の権益を侵害したとき、労働組合は法に照らして企業に責任を負うよう求めることができる。労働協約の履行に起因し発生した争議が、協議で解決できないときは、労働組合は法に照らして仲裁を申立て、訴訟を提起することができる(第34条)。

日系企業への影響

理論上、本条例によるならば、上海市行政区域内の企業(日系企業を含む)が、直接に従業員の利益に密接に係わる規則制度又は重大な事項(これらの事項には、労働報酬、就業時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員訓練、労働規律、労働ノルマ、従業員賃金水準、賃金調整制度、法律法規で定めるその他の内容等が含まれる)を制定し、改正し、又は決定するときは、本企業の従業員側と団体交渉を行った後で確定しなければならない。そして、企業と従業員側が上記の関係事項につき団体交渉を行い、及び労働協約を締結し履行するときは、本条例を適用しなければならない。

但し、本条例には強制的な執行条例又は処罰措置が設けられていない。本条例の立法の主旨は、調和のとれ安定した労働関係を構築し発展させることにあるため、本条例では企業と従業員の間の利益に関する紛争の解決については、対抗的な方式をとることはせず、交渉や調停といった方式を採用している。企業と従業員の双方の民事的な主体としての地位が平等であるという視点から、いずれか一方が交渉を行いたがらないからといって、その当事者に強制的な行政処罰を科すことまでは規定されていない。

なお、処罰規定が設けられていないからといって、管理が行われないわけではない。本条例では行政部門及び労働組合の職責について多くの条項が設けられており、政府が適度に関与することで、本条例が有効に執行されるよう試みられている。