ビジネス関連法

関連市場の画定についての指針

2009年8月7日作成

【法令名称】
関連市場の画定についての指針
【発布機関】
国務院独占禁止委員会
【発布日】
2009年5月24日
【施行日】
2009年5月24日

概要

今回、国務院反独占委員会により「関連市場の画定についての指針」(以下、「今回の指針」という)が公布された。今回の指針は、09年1月5日に商務部反独占局により公布された意見募集草案に基づき修正、公布されたものである。

この「関連市場」は、独占禁止法第12条第2項で事業者が一定の期間内において特定の商品又はサービスについて競争を行う商品範囲又は地理的範囲と定義されており、独占禁止法で禁止する各独占行為、すなわち独占協定、市場支配的地位の濫用、事業者集中の有無を判断する際に、その前提として当該独占行為が行われている市場の範囲を確定するものであるため、独占禁止法違反の有無を判断する非常に重要な概念となる。

今回の指針では、関連市場の画定については主に商品関連市場、関連地理的市場によって画定すべき旨を規定し(今回の指針第3条第1項)、各関連市場については、商品または地域の代替可能性の程度という判断基準によって画定する旨を規定している(今回の指針第3条第2項、第3項、第4条、第5条)。そのため、関連市場を判断するにあたっては、需要者すなわち購買者の観点から、商品の特徴、用途、価格などの要素に基づいて需要代替分析を行い、必要な場合には供給者すなわち経営者の観点から供給代替分析を行うことによって各商品関連市場、関連地理的市場の範囲を画定していくことになる(第7条)。

また、経営者が競争する市場の範囲が不明確であり、またはそれを確定することが困難である場合は、関連市場の画定手法の一つとして、仮定的独占者テストの考え方に従って関連市場を画定することができる旨を規定している(第10条)。当該テストは、独占禁止審査において注目される事業者が提供する商品につき、当該商品が独占状態であると仮定した上で小幅な価格上昇を行った場合になお当該独占者の利益が生じるか否かという基準によって当該商品に関する関連市場を画定していくものである。また、想定する価格の上げ幅は5から10%、期間を1年程度という目安を示した。(第7条、第10条、第11条)このような仮定的独占者テストは、上記代替性の判断同様に、中国以外の欧米各国における独占禁止法の運用に当たってしばしば活用されている画定手法であり、今回の指針でも同様の手法を取り入れたものと考えられる。

主な改正内容(意見募集草案との比較)

  1. 第6条について
    本条項の後半部分で、「関連市場の画定にあたって、とりわけ関連市場への参入者を識別する際に、供給の代替性を考慮すべきである」との規定が新たに追加されている。これは、関連市場への参入者の検討に当たっては商品供給者の側からの代替性の判断が不可欠であるため、供給の代替性を検討要素として加えるべき旨を規定したものと考えられる。
  2. 需要代替に関する追加
    • 関連商品市場を画定する際の考慮要素の追加
      第8条の関連商品市場に対する判断要素である需要代替につき、「商品の価格又はその他の競争要素の変化により、需要者が、その他の商品の購入に切り替え、又は切り替えを考慮していることの証拠」という文言を、第8条第1項第1号の判断要素として追加している。
      これは、今回の指針の第3条で規定する「関連市場」が、関連商品市場(需要者が比較的密接な代替関係を有すると判断する商品範囲)により決定され、関連商品市場の判断に際しては、需要者が対象商品の代替商品の購入を行うことが重要な意味をもつことから、需要者による代替製品の購入又は購入の兆候という基準を需要代替の第1号の判断要素として追加したものと考えられる。
      また、第8条第1項第3号の需要代替の商品間の価格差という判断要素については、競争と無関係の要因により引き起こされた価格変動については排除する旨が追加規定された。これは、通常、類似商品については比較的同じ価格変動を示すため、一旦価格差が生じた場合には競争制限の疑いが生じるが、仮に競争以外の要素により価格差が生じた場合まで競争制限と判断される場合には市場競争に対する過度の制限にもなりかねないため、価格差の判断に際して競争以外の要素を排除する旨を規定したものと考えられる。
    • 関連地理市場を画定する際の考慮要素の追加
      第9条の関連地理市場に対する判断要素である需要代替につき、「商品の価格又はその他の競争要素の変化により、需要者が、その他の地域に切り替え商品を購入し、又は切り替え商品を購入することを考慮していることの証拠」という文言を、第9条第1項第1号の判断要素として追加している。
      これは、今回の指針の第3条で規定する「関連市場」が、関連地理的市場(当該代替性を有する商品を獲得する地域的範囲)により決定され、関連地理市場の判断に際しては、需要者がその他の地域で商品の購入を行うことが重要な意味をもつことから、需要者によるその他の地域での購入、又はその他の地域での購入の兆候という基準を需要代替の第1号の判断要素として追加したものと考えられる。
      次に、第9条第1項第4号の地域間の貿易障壁の内容として環境保護要素、技術要素が追加されている。当該文言を追加した趣旨については必ずしも明らかではないが、恐らくは市場参入の障壁となる要素として、典型例である関税格差、法規制のみならず、商品の性質によっては環境保護の観点及び技術レベルの観点から商品の取引等が制限される場合があるため、それらも貿易障壁に含めたものと考えられる
  3. 供給代替に関する追加
    上記需要代替の観点と同様に、第8条、第9条の供給代替の判断要素としてそれぞれ「その他の事業者が商品価格等の競争要素の変化に対してなした反応の証拠」、「その他地域の事業者が商品価格等の競争要素の変化に対してなした反応の証拠」が追加規定されている。
    これについては、供給代替が他の事業者による新たな設備投資、リスクの負担、市場参入度といった観点から関連商品に代替できるか否かを判断するものであるため、上記のように他の事業者が当該事業者の製品に対する価格設定に対して採った行動、反応状況が供給代替の観点からは重要な意味を持つことになる。そのため、第8条、第9条の各関連商品市場、関連地理的市場における判断要素として上記判断要素を追加したものと考えられる。

日系企業が注意すべき点

今回の指針によって、独占禁止法上の「関連市場の画定」は当該指針に基づくことが確定したことになり、今後、独占禁止法執行機関による具体的運用が本格的に始まることが予想される。その場合、上記仮定的独占者テストの手法等にも見られるとおり、欧米諸国で採用されている独占禁止法の考え方が取り入れられており、今後の運用内容も今後しばらくは欧米諸国の運用方針、内容が参考とされると思われる。欧米諸国の独占禁止法及び関連市場の画定方法はより詳細に規定されているため、自社製品につき欧米諸国の独占禁止法及び関連市場の画定方法に照らした場合にどのような結論となるかを検討してみることは有用ではないかと考える。
なお、今回、関連市場の画定方法が正式に公布されたが、今後も新たな独占禁止法関連法規が公布されていくと思われる。例えば、現在、最高人民法院では独占禁止法関連紛争の司法解釈が検討されているので、今後の公布状況に注目していく必要があると考える。

参考資料

※本資料および日本語仮訳はジェトロがKLO投資コンサルティング(上海)有限公司に委託し、作成しました。ジェトロは同社の許諾を得て、本ウェブサイトに掲載しております。