ビジネス関連法

独占協定、市場支配的地位の濫用事件の工商行政管理機関による調査処理手続についての規定

2009年6月15日作成

【法令名称】
独占協定、市場支配的地位の濫用事件の工商行政管理機関による調査処理手続についての規定
【発布機関】
国家工商行政管理総局
【発布番号】
国家工商行政管理総局令第42号
【発布日】
2009年5月26日
【施行日】
2009年7月1日

日本企業が注意すべきポイント

  1. 各省、自治区、直轄市の工商行政管理局への授権
    第2条以下では、独占協定、市場支配的地位の濫用の調査業務に関して、国家工商行政管理総局から各地方の工商行政管理局に調査業務を個別事件の形式で授権することを認め、調査に基づく行政処罰の決定権限も付与している(第23条)。下部組織への授権は中国の国土の広さを考えると一応の合理性はあるものの、独占協定、市場支配的地位の濫用という非常に専門性の高い分野においてその適正を確保できるのか、各地方で判断に差異が生じないか等の懸念はあるといえる。
    この点につき、今回の規定公布にあわせて工商行政管理総局が開催した記者質問会でも、工商行政管理総局の担当者は、業務の質を確保すべく再授権の禁止や行政処罰決定に関する事前報告、事後届出等の制度を規定している旨をコメントしているが、今後の運用を注意する必要があるといえる。
  2. 通報制度
    第5条以下では、独占禁止法第38条に基づき調査開始の端緒となる通報制度を規定し、書面による通報をする場合に必要な内容等を列挙している。同規定では、いかなる組織又は個人からの通報も認めており、企業は幅広く通報及び調査を受ける可能性もある。
    これに対して、第5条第2項では、通報に必要な内容として関連証拠の提出、証拠提供者の署名及び証拠の出所の明記を要求している。また、省級及び省級以下の工商行政管理局が通報を受けた場合、国家工商行政管理総局に報告し、同総局のみが調査権の発動を決定する旨を定めており、不確かな情報に基づく通報等の防止に配慮した規定をしている。また、一旦調査が発動された場合であっても、調査対象の事業者は意見陳述権を行使し、関連証拠の提出、事実の説明等を行い、調査機関に対して通報事実の照合を求めることが認められている(第13条)。
    そのため、企業としては、明らかに誤った情報に基づく調査が開始された場合、上記権利を行使して事実関係の照合を求めていくことが必要といえる。
  3. 調査協力義務に関する提出資料
    第12条では、独占禁止法第42条で規定する調査に対する協力義務の具体的内容として、調査対象者に対して提出を要求できる資料を列挙している。その中には、直近3年間の生産経営状況、年間売り上げ高、納税状況、取引相手との業務取引及び提携協議に関する書類等、各企業の重要な資料の提出を求められることになり、企業にとっては重い負担となるものと考えられる。
  4. 事業者承諾制度
    第15条以下では、独占の疑いがある事業者が当該独占の疑いを除去するための具体的措置を講じることを承諾する制度を規定している。同規定は独占禁止法第45条において定められていた調査中止制度の具体的な手続を規定したものである。そして、第16条では、調査中止の申請をする場合に、独占の疑いを除去するための具体的措置の内容のみならず、具体的措置を講じて影響を除去するスケジュール及びその実現の保証声明を記載することが要求されている。そして、第17条では、調査中止決定書に独占の疑いを除去するための具体的措置、期限及び不履行等の場合の法的結果等の内容を記載する旨を規定し、同措置の履行がスケジュールに沿って行われない場合には直ちに調査が再開されることになる。そのため、企業としては、調査中止申請に当たって具体的措置及びその実現スケジュールにつき慎重に検討する必要がある。
  5. リニエンシー制度
    第20条では、独占協定に関する重要な証拠を提供した事業者に対して、処罰の減軽又は免除を認めるいわゆるリニエンシー制度を規定している。当該制度は、独占禁止法第46条第2項でも規定しているが、今回、当該独占協定の組織者にはリニエンシーを認めない旨の新たな制限を付加している。そして、このリニエンシー制度については、以下の点に注意する必要がある。すなわち、まず、「組織者」の概念が明確ではないため、国家工商行政管理総局の判断で組織者と判断されてリニエンシーが認められないリスクがある。次に、提供した証拠の重要性、処罰の減軽・免除の有無は工商行政管理総局の自由裁量に基づき判断されるため、同総局の判断次第でリニエンシーが認められないリスクがある。
  6. 調査期限
    第26条では、独占協定及び市場支配的地位の濫用に関する調査、公聴及び処罰の手続につき、原則として、行政処罰法、工商行政管理機関行政処罰手続規定及び工商行政管理機関行政処罰事件公聴規則を適用する一方、期限に関する規定については、後者二つの規定を適用しない旨を規定している。この点につき、工商行政管理総局の記者質問会では、独占禁止事件の調査には数年を必要とする場合が多く、独占禁止法でも期限に関する規定を設けていないため、上記二つの規定の適用を除外したとコメントしている。そのため、当該調査権限については時間的制限を設けない趣旨と考えられ、企業にとっては負担となる可能性がある。

参考資料

※本資料および日本語仮訳はジェトロがKLO投資コンサルティング(上海)有限公司に委託し、作成しました。ジェトロは同社の許諾を得て、本ウェブサイトに掲載しております。