ロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査結果

2022年03月31日

ジェトロは2022年3月24日~28日、ロシアに所在する日系企業211社に対し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する西側諸国の対ロ制裁およびそれに対するロシア政府の対抗措置による影響に関するアンケート調査を実施しました。ポイントと調査結果の詳細は以下のとおりです。

調査結果のポイント

ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けた対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響
  • 回答企業97社のうち96社(99%)が「すでに悪影響がある/悪影響が予想される」と回答。
  • 具体的な影響(複数回答)として、物流の混乱・停滞(80%)、ルーブル為替レートの下落(73%)、金融決済の困難(54%)への回答が多かった。
  • 悪影響の理由として、「対ロ経済制裁およびロシアの対抗策の複合的影響」、「対ロビジネス継続による諸外国での評価の低下(レピュテーションリスク)」との声が聞かれた。
ロシアビジネスの現状
  • 2月24日を起点に前後1カ月間の売り上げの変化について、「売り上げが減少した、またはゼロ」と回答した企業は全体の64%、うち「売り上げはゼロ」が9%となった。
  • 売り上げがゼロになった要因として、「ロシア向けの物流停止」や「輸出時の安全保障審査の強化・厳格化」などが挙がった。
駐在員のロシア国外への退避
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の81%となった(全員退避は67%)。
  • 退避の判断理由(複数回答)は、移動ルートの選択肢の減少(72%)、外務省による危険度レベルの引き上げ(61%)、生活環境の悪化(37%)などが上位に挙がった。
現時点の事業運営ステータスおよび今後の見通し
  • 現時点の運営ステータスについて、回答企業のうち56%が「通常どおり、または検討中」と回答。「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」している企業は43%だった(全面的に停止は6%)。回答企業の中では「撤退済みもしくは撤退を決定」した企業はなかった。
  • 今後半年から1年後の事業見通しでは、縮小(38%)、わからない(29%)、現状維持(25%)、撤退(6%)、拡大(2%)の順に多かった。前回アンケート(2月24日~25日実施)では、拡大=16%、現状維持=54%、わからない=13%、縮小=17%だった。

本調査について

  • ジェトロは2022年3月24日~28日、モスクワ・ジャパンクラブ加盟企業およびサンクトペテルブルク日本商工会加盟企業の211社(注)を対象にアンケート調査を実施。97社より有効回答を得た(有効回答率46.0%)。
    (注)両組織に加盟する企業がいるため、重複を除いた企業数
  • 設問項目:
    1.ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けた対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響 2.ロシアビジネスの現状 3.駐在員のロシア国外への退避 4.現時点の事業運営ステータ スおよび今後の見通し 5.現地従業員への対応

調査の結果概要

1.ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けた対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響

  • 回答企業97社のうち96社(99%)が「すでに悪影響がある/悪影響が予想される」と回答。「今のところ影響はない/影響は予想しにくい」は1社(1%)となり、「良い影響がある/予想される」と回答した企業はいなかった(図1)。
  • 具体的な影響(複数回答)として、物流の混乱・停滞(80%)、ルーブル為替レートの下落(73%)、金融決済の困難(54%)、商品・原材料・部品・サービス調達の困難・制限(49%)への回答が多かった。
  • 悪影響の理由として、「対ロ経済制裁およびロシアの対抗措置の複合的影響」、「対ロビジネス継続による諸外国での評価の低下(レピュテーションリスク)」との声が聞かれた。

図1:対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響

対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響について。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響」と回答した企業の割合は99%。「今のところ影響はない/影響は予想しにくい」は1%。「良い影響がある/予想される」と回答した企業は0.0%。 製造業13社のうち「対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響」と回答した企業の割合は100%。「今のところ影響はない/影響は予想しにくい」は0.0%。「良い影響がある/予想される」は0.0%。 非製造業84社のうち「対ロ制裁およびロシア政府の対抗措置の影響」と回答した企業の割合は98.8%。「今のところ影響はない/影響は予想しにくい」は1.2%。「良い影響がある/予想される」は0.0%。

2.ロシアビジネスの現状

  • 2月24日を起点に前後1カ月間の売り上げの変化について、「売り上げが減少した、またはゼロ」と回答した企業は全体の64%、うち「売り上げはゼロ」が9%となった。「横ばい」は30%、「増加」は6%だった(図2)。
  • 売り上げがゼロになった要因として、「ロシア向けの物流停止」や「輸出時の安全保障審査の強化・厳格化」などが挙がった。

図2:ロシアビジネスの現状

ロシアビジネスの現状について。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「売り上げがゼロになった」と回答した企業の割合は9.3%。「売り上げが減少した(50%以上)」は20.6%。「売り上げが減少した(20%以上~50%未満)」は25.8%。「売り上げが減少した(1%以上~20%未満)」は8.2%。「横ばい」は29.9%。「売り上げが増加した」は6.2%。 製造業13社のうち、「売り上げがゼロになった」と回答した企業の割合は7.7%。「売り上げが減少した(50%以上)」は23.1%。「売り上げが減少した(20%以上~50%未満)」は15.4%。「売り上げが減少した(1%以上~20%未満)」は23.1。「横ばい」は30.8%。「売り上げが増加した」は0.0%。 非製造業84社のうち、「売り上げがゼロになった」と回答した企業の割合は9.5%。「売り上げが減少した(50%以上)」は20.2%。「売り上げが減少した(20%以上~50%未満)」は27.4%。「売り上げが減少した(1%以上~20%未満)」は6.0。「横ばい」は29.8%。「売り上げが増加した」は7.1%。

3.駐在員のロシア国外への退避

  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の81%となった(全員退避は67%)(図3)。
  • 退避先(複数回答)は「日本」が72%、「欧州地域」が14%、「中東・アジア地域」(日本を除く)が14%だった。
  • 退避の判断理由(複数回答)は、移動ルートの選択肢の減少(72%)、外務省による危険度レベルの引き上げ(61%)、生活環境の悪化(37%)などが上位に挙がった。
  • 今後1カ月の在ロシア駐在員数の見直しについて、「現状維持」と回答した企業は全体の58%、「わからない」は31%、「減らす(駐在員のロシアからの退避を含む)」は10%、「増やす(駐在員のロシアへの再渡航含む)」は1%だった。

図3:駐在員のロシア国外への退避

駐在員のロシア国外への退避について。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業は18.6%。「50%未満」は6.2%。「50%以上」は8.2%。「100%(駐在員全員が退避)」は67.0%。 製造業13社のうち「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業は30.8%。「50%未満」は0.0%。「50%以上」は23.1%。「100%(駐在員全員が退避)」は46.2%。 非製造業84社のうち「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業は16.7%。「50%未満」は7.1%。「50%以上」は6.0%。「100%(駐在員全員が退避)」は70.2%。

4.現時点の事業運営ステータスおよび今後の見通し

  • 現時点の運営ステータスについて、回答企業のうち56%が「通常どおり、または検討中」と回答。「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」している企業は43%だった(全面的に停止は6%)。回答企業の中では「撤退済みもしくは撤退を決定」した企業はなかった(図4-1)。
  • 今後半年から1年後の事業見通しでは、縮小(38%)、わからない(29%)、現状維持(25%)、撤退(6%)、拡大(2%)の順に多かった(図4-2)。前回アンケート(2月24日~25日実施)では、拡大=16%、現状維持=54%、わからない=13%、縮小=17%だった。
  • 撤退しない理由として、「将来的な市場の潜在性」、「現時点では判断がつかない(判断するには時期尚早)」、「撤退の場合には接収(国有化)の恐れ」との声が聞かれた。
  • 今後の見通しについて「事態の長期化、経済制裁の強化・長期化の可能性から、事業維持・縮小との判断のタイミングが難しい」や「撤退による接収リスクと事業継続によるレピュテーションリスクの板挟みの状況」といったコメントがみられた。

図4-1:現在の運営ステータス

現在の運営ステータスについて。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は0.0%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は6.2%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は37.1%。「通常どおり(検討中含む)」は55.7%。「その他」は1.0%。 製造業13社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は0.0%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は7.7%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は30.8%。「通常どおり(検討中含む)」は61.5%。「その他」は0.0%。 非製造業84社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は0.0%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は6.0%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は38.1%。「通常どおり(検討中含む)」は54.8%。「その他」は1.2%。

図4-2:今後の事業見通し

今後の事業見通しについて。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は2.1%。「現状の規模を維持する」は24.7%。「縮小する」は38.1%。「撤退する」は6.2%。「わからない」は28.9%。 製造業13社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は7.7%。「現状の規模を維持する」は15.4%。「縮小する」は30.8%。「撤退する」は0.0%。「わからない」は46.2%。 非製造業84社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は1.2%。「現状の規模を維持する」は26.2%。「縮小する」は39.3%。「撤退する」は7.1%。「わからない」は26.2%。

5.現地従業員への対応

  • 現地従業員の雇用の影響について、回答企業のうち32%が「マイナスの影響あり(減員要因)」と回答。「影響なし」は67%で、「プラスの影響あり(増員要因)」と回答した企業は1%だった(図5)。
  • 「マイナスの影響あり(減員要因)」と回答した企業からは、「送金問題や物流/通関問題で、出荷量が減少。将来的な人員の削減を検討することが必要」や「不採算製品の製造中止(販売中止)を含めた、状況変化への対応が必要であり、財務体質を強くしておくために、人員整理もやむなし」いったコメントがみられた。
  • 「マイナスの影響あり(減員要因)」と回答した企業のうち、業務が著しく減った、または無くなった現地従業員に対して取っている、または取り得る対応について、35%が「解雇」と回答。「有給休暇取得奨励」は26%、「休職扱い(雇用契約は継続し、年金等社会保障は維持)」は13%だった。
  • ロシア国内の物価上昇等への対応として、現地従業員へ行っている、または行う予定の生活保障として、「検討中」(43%)が最多。次いで「ルーブル建て給与額の引き上げ」(19%)、「一時金の追加支給」(12%)への回答が多かった。「特にとる予定はない」と回答した企業は30%だった。

図5:現地従業員への対応

現地従業員への対応について。有効回答数は合計97社、製造業13社、非製造業84社。 合計97社のうち「影響なし」と回答した企業の割合は67.0%。「マイナスの影響あり(減員要因)」は32.0%。「プラスの影響あり(増員要因)」は1.0%。 製造業13社のうち「影響なし」と回答した企業の割合は53.8%。「マイナスの影響あり(減員要因)」は46.2%。「プラスの影響あり(増員要因)」は0.0%。 非製造業84社のうち「影響なし」と回答した企業の割合は69.0%。「マイナスの影響あり(減員要因)」は29.8%。「プラスの影響あり(増員要因)」は1.2%。

ジェトロ海外調査部(担当:下社(しもやしろ)、浅元)
Tel:03-3582-1890