ロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査結果 (2022年8月)

2022年09月07日

ジェトロは2022年8月25日~31日、ロシアに所在する日系企業202社に対し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻後のロシア事業の現状、駐在員のロシアへの帰還および今後の見通しに関するアンケート調査を実施しました。これは、4月15日~19日に実施したロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査および5月11日~18日に実施した在ロシア日系企業景況感調査に続くものです。調査結果の詳細は以下のとおりです。

調査結果のポイント

  • 2月のウクライナ侵攻を受け急激に悪化したロシア進出日系企業の景況感は、半年が経過してもなお厳しい状況が続いている。足元の景況DIはマイナス57、また2カ月後の景況見通しDIはマイナス61と、前回5月調査に続きリーマンショック時並みの大幅なマイナスとなった。
  • 侵攻の長期化に伴い、撤退を決める日系企業が複数みられた。「撤退済みもしくは撤退を決定」した企業は全体の4.7%(前回4月調査では0.9%)。他方で撤退せずに、「事業の停止」や「通常どおり」とする企業は95.3%(同99.1%)に上った。ロシア市場のポテンシャルとこれまでの取り組みを鑑みると安易に撤退という選択肢は取り得ず、多くの企業で難しいかじ取りを強いられる様子がうかがわれる。
  • 日本人駐在員のロシアからの退避状態は続いているが、労働許可・査証の維持や現地管理のため一時的に戻る動きが若干みられる。

本調査について

  • ジェトロは2022年8月25日~31日、モスクワ・ジャパンクラブ加盟企業およびサンクトペテルブルク日本商工会加盟企業の202社(注)を対象にアンケート調査を実施。107社より有効回答を得た(有効回答率53.0%)。
    (注)両組織に加盟する企業がいるため、重複を除いた企業数
  • 設問項目:
    1.自社の景況感 2.現時点の事業ステータス 3.事業内容の変化 4.今後のビジネス展開の見通し 5. 駐在員のロシア国外への退避状況 6.駐在員のロシアへの帰還・出張

調査の結果概要

1.自社の景況感

  • 自社の景況DI(注)(最近の状況)は前回調査(5月11日~18日実施)比6ポイント増のマイナス57(図1)。2期連続のマイナス。

    (注)景気動向指数:ディフュージョン・インデックス(Diffusion Index)の略。景況感DIは「良い」と回答した企業の比率から「悪い」とした企業の比率を引いた数値。

  • 自社の景況見通しDI(2カ月後の状況)は前回比6ポイント増のマイナス61(図2)。2期連続のマイナス。
  • 景況もしくは景況見通しについて「さほど良くない」または「悪い」と回答した企業93社のうち、景況感にマイナス影響を与えた要因(複数回答)として、61.3%が「物流(空路、陸路、海運)の混乱・停滞」を挙げた。次いで「西側諸国による対ロ制裁」(52.7%)、「本社・在欧統括会社などの対ロシアビジネス方針の変更」(49.5%)が挙げられた(図3)。
  • 景況もしくは景況見通しについて「良い」と回答した企業7社のうち、景況感にプラスの影響を与えた要因(複数回答)として、71.4%が「ロシア市場における需要拡大」を挙げた。次いで「競合他社の撤退によるビジネスチャンス拡大」(28.6%)などが挙げられた(図4)。

2.現時点の事業ステータス

  • 回答企業のうち49.5%が「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」と回答。「通常どおり」は45.8%、「撤退済みもしくは撤退を決定」は4.7%だった(図5)。前回アンケート(4月15日~19日実施)では、「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」している企業=54.9%、「通常どおり」=44.1%、「撤退済みもしくは撤退を決定」=0.9%だった。
  • 事業ステータスについて「撤退済みもしくは撤退を決定」と回答した企業5社のうち、ロシア市場からの撤退方法(複数回答)について、60.0%が「事業売却せず事業の清算のみ」を挙げた。次いで「現地経営陣への譲渡、売却」(20.0%)などが挙げられた(図6)。また、撤退の理由(複数回答)については「物流(空路、陸路、海運)の混乱・停滞」と「事業継続によるレピュテーションリスクの増大」がそれぞれ80.0%と最多。そのほかには、「商品、原材料、部品、サービス調達の困難・制限」、「本社・在欧統括会社などの対ロシアビジネス方針の変更」、「ロシアの政治・経済状況の不確実性の増大」(いずれも60.0%)などが挙げられた(図7)。

3.事業内容の変化

  • ウクライナ侵攻を契機とした、自社のロシア拠点における営業利益の維持・改善策(複数回答)は、「費用の削減」が67.3%と最多。「特になし」は29.0%、「営業活動の拡大」は6.5%だった(図8)。具体的には「人件費や販売促進費用などの削減」、「オフィス縮小」、「ECサイトでの自社製品展開」といったコメントが見られた。

4.今後のビジネス展開の見通し

  • 今後半年から1年後の事業見通しでは、現状維持(37.4%)、縮小(35.5%)、不明・該当せず(21.5%)、撤退(5.6%)の順に多かった(図9)。拡大と回答した企業はなし。前回アンケート(4月15日~19日実施)では、現状維持=30.0%、縮小=35.5%、わからない=28.2%、撤退=5.5%、拡大=0.9%だった。

5.駐在員のロシア国外への退避状況

  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の78.5%となった(図10)。前回アンケート(4月15日~19日実施)では85.6%だった。駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業84社のうち、退避先(複数回答)は「日本」が89.3%、「欧州地域」が11.9%、「中東・アジア地域」(日本を除く)が8.3%だった。

6.駐在員のロシアへの帰還・出張

  • 退避中の駐在員のロシア拠点への帰還または出張(注)について、駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち22.6%が「今後、ロシア拠点への出張を予定」と回答。次いで「帰還・出張の予定はない」(21.4%)、「アンケート回答時点ですでにロシア拠点へ出張中である」、「現時点では不明」(いずれも16.7%)、「今後、ロシア拠点への帰還を予定」(13.1%)、「アンケート回答時点ですでにロシア拠点へ帰還している」(9.5%)が挙がった(図11)。

    (注)「帰還」は期間を定めずロシアに戻り業務に復帰すること、「出張」は一定期間ロシアに滞在して業務を行い、再び退避地に戻ることを指す。

  • 駐在員の帰還・出張を予定している、あるいはすでに実施している企業52社のうち、帰還、出張の期間について53.8%が「3カ月未満」と回答。「滞在期間は様子を見ながら適宜調整」は30.8%、「現時点では不明」と「3カ月以上」は5.8%、「通常どおりの駐在に復帰(ロシアに常駐)」は3.8%だった。
  • 駐在員の帰還・出張を予定している、あるいはすでに実施している企業のうち、ロシア拠点への帰還または出張をする人物の役職(複数回答)について、92.3%が「ロシア拠点の代表者」と回答。「『ロシア拠点の代表者」以外の駐在員」は34.6%だった。
  • 駐在員の帰還・出張を予定している、あるいはすでに実施している企業のうち、自社のロシア拠点への帰還または出張が必要となった理由(複数回答)について、8割以上の企業が「労働許可の維持・更新、査証取得」を挙げた。また、約5割の企業が「現地採用社員の管理(採用、削減含む)」を挙げた(図12)。
  • 帰還または出張中の企業から、当初想定していなかった課題として、「非居住者の口座から他国の口座へ送金ができないため、仮に撤退する場合にロシアの法人口座にある残金を送金できない」や「海外からでは厳密な勤怠管理が難しい」といったコメントが寄せられた。

図表

図1:自社の景況(最近の状況)

自社の景況感(最近の状況)について。2009年4月はマイナス69。6月はマイナス60。8月はマイナス56。10月はマイナス 42。2010年1月はマイナス25。3月はマイナス20。5月は5。7月は18。9月は27。11月は38。2011年2月は44。6月は33。9月は39。12月は41。2012年2月は51。7月は28。12月は25。2013年2月は21。6月は24。11月は1。2014年2月は7。6月は7。11月はマイナス 23。2015年4月はマイナス 32。9月はマイナス 36。2016年1月はマイナス 28。4月はマイナス 24。9月はマイナス 13。2017年2月は10。6月は1。9月は22。2018年1月は30。4月は27。9月は21。2019年1月は33。4月は27。9月は13。2020年1月は3。5月はマイナス 59。10月はマイナス4。2021年1月は5。4月は19。9月は33。2022年1月は29。5月はマイナス63。8月はマイナス 57。

図2:自社の景況見通し(2カ月後の状況)

自社の景況見通し(2カ月後の状況)について。2009年4月はマイナス61。6月はマイナス54。8月はマイナス39。10月はマイナス29。2010年1月はマイナス10。3月は0。5月は17。7月は27。9月は35。11月は38。2011年2月は46。6月は36。9月は27。12月は33。2012年2月は51。7月は26。12月は23。2013年2月は28。6月は22。11月は9。2014年2月は8。6月は8。11月はマイナス38。2015年4月はマイナス30。9月はマイナス29。2016年1月はマイナス36。4月はマイナス17。9月はマイナス7。2017年2月は15。6月は9。9月は24。2018年1月は30。4月は22。9月は17。2019年1月は25。4月は24。9月は16。2020年1月はマイナス1。5月はマイナス62。10月はマイナス10。2021年1月は10。4月は22。9月は23。2022年1月は14。5月はマイナス67。8月はマイナス61。

図3:景況感マイナスの影響の要因(複数回答)

景況感マイナスの影響の要因(複数回答)について。有効回答数は合計93社。「物流(空路、陸路、海運)の混乱・停滞」と回答した企業の割合は61.3%。「西側諸国による対ロ制裁」は52.7%。「本社・在欧統括会社などの対ロシアビジネス方針」は49.5%。「商品、原材料、部品、サービス調達の困難・制限」は48.4%。「日本政府による対ロ制裁(日本からの輸出禁止)」は46.2%。「事業継続によるレピュテーションリスクの増大」は43%。「ロシアの政治・経済状況の不確実性の増大」は41.9%。「金融決済の困難(ロシア国内外との決済、海外送金、ロシアへの送金含む)」は38.7%。「ロシアによる制裁への対抗策・報復措置(非友好国指定、特定品目の輸出禁止措置など)」は32.3%。「ロシア、欧米諸国の取引先との関係変化」は25.8%。「ロシア事業の収益性低下」は23.7%。「ロシア国内での販売の著しい減少」は22.6%。「コストの上昇(物流コストおよび商品、原材料、部品、サービス調達コストなど)」は20.4%。「ロシア拠点の勤務体制の維持・変更(駐在員不在、現地従業員の増減など)」は20.4%。「ルーブル為替の不安定化」は17.2%。「日本政府による対ロ制裁(新規投資禁止)」は17.2%。「日本政府による対ロ制裁(その他)」は10.8%。「日本政府による対ロ制裁(日本への輸入禁止)」は8.6%。「ウクライナへの軍事侵攻以外に起因する要因」は3.2%。「その他」は3.2%。

図4:景況感プラスの影響の要因(複数回答)

景況感プラスの影響の要因(複数回答)について。有効回答数は合計7社。「ロシア市場における需要拡大」と回答した企業の割合は71.4%。「競合他社の撤退によるビジネスチャンス拡大」は28.6%。「物流の再構築・再開」は14.3%。「ロシア政府による規制緩和」は14.3%。「本社・在欧統括会社などの対ロシアビジネス続行の意向」は14.3%。「商品、原材料、部品、サービスの調達再開」、「対ロ制裁やロシアによる制裁への対抗策の影響範囲」、「ウクライナへの軍事侵攻以外に起因する要因」、「その他」と回答した企業はなし。

図5:現時点の事業ステータス

現時点の事業ステータスについて。今回調査の有効回答数は合計107社、2022年4月15日から19日までの調査の有効回答数は合計111社、2022年3月24日から28日までの調査の有効回答数は合計97社。今回調査において「撤退済みもしくは撤退を決定」と回答した企業の割合は4.7%。「全面的な事業(操業)停止」は17.8%。「一部事業(操業)の停止」は31.8%。「通常どおり」は45.8%。「その他」は0%。2022年4月15日から19日までの調査において「撤退済みもしくは撤退を決定」と回答した企業の割合は0.9%。「全面的な事業(操業)停止」は9.9%。「一部事業(操業)の停止」は45.0%。「通常どおり」は44.1%。「その他」は0%。2022年3月24日から28日までの調査において「撤退済みもしくは撤退を決定」と回答した企業の割合は0%。「全面的な事業(操業)停止」は6.2%。「一部事業(操業)の停止」は37.1%。「通常どおり」は55.7%。「その他」は1.0%。

図6:撤退方法(複数回答)

撤退方法(複数回答)について。有効回答数は合計5社。「事業売却せず事業の清算のみ」と回答した企業の割合は60.0%。「現地経営陣への譲渡、売却」は20.0%。「その他」は20.0%。「現地パートナーへの譲渡、売却」、「現地他社、投資家への譲渡、売却」、「州政府/地方自治体への譲渡、売却」、「第三国企業への譲渡、売却」と回答した企業はなし。

図7:撤退を決定した理由(複数回答)

撤退を決定した理由(複数回答)について。有効回答数は合計5社。「物流(空路、陸路、海運)の混乱・停滞」と回答した企業の割合は80.0%。「商品、原材料、部品、サービス調達の困難・制限」は60.0%。「本社・在欧統括会社などの対ロシアビジネス方針」は60.0%。「ロシアの政治・経済状況の不確実性の増大」は60.0%。「金融決済の困難(ロシア国内外との決済、海外送金、ロシアへの送金含む)」は40.0%。「ロシア事業の収益性低下」は40.0%。「コストの上昇(物流コストおよび商品、原材料、部品、サービス調達コストなど)」は20.0%。「ルーブル為替の不安定化」は20.0%。「ロシア国内での販売の著しい減少」は20.0%。「ロシア、欧米諸国の取引先との関係変化」は20.0%。「ロシア拠点の勤務体制の維持・変更(駐在員不在、現地従業員の増減など)」は20.0%。「日本政府による対ロ制裁(日本からの輸出禁止)」は20.0%。「日本政府による対ロ制裁(新規投資禁止)」は20.0%。「日本政府による対ロ制裁(その他)」は20.0%。「西側諸国による対ロ制裁」は20.0%。「ロシアによる制裁への対抗策・報復措置(非友好国指定、特定品目の輸出禁止措置など)」は20.0%。「日本政府による対ロ制裁(日本への輸入禁止)」、「ウクライナへの軍事侵攻以外に起因する要因」、「その他」と回答した企業はなし。

図8:営業利益の維持・改善の施策(複数回答)

営業利益の維持・改善の施策(複数回答)について。有効回答数は合計107社。「費用の削減」と回答した企業の割合は67.3%。「特になし」は29.0%。「営業活動の拡大」は6.5%。「その他」は3.7%。

図9:今後半年から1年後の事業見通し

今後半年から1年後の事業見通しについて。今回調査の有効回答数は合計107社、2022年4月15日から19日までの調査の有効回答数は合計110社、2022年3月24日から28日までの調査の有効回答数は合計97社。今回調査において「拡大」と回答した企業はなし。「維持」は37.4%。「縮小」は35.5%。「撤退」は5.6%。「不明・該当せず」は21.5%。2022年4月15日から19日までの調査において「拡大」と回答した企業の割合は0.9%。「維持」は30.0%。「縮小」は35.5%。「撤退」は5.5%。「不明・該当せず」は28.2%。2022年3月24日から28日までの調査において「拡大」と回答した企業の割合は2.1%。「維持」は24.7%。「縮小」は38.1%。「撤退」は6.2%。「不明・該当せず」は28.9%。

図10:駐在員のロシア国外への退避

駐在員のロシア国外への退避について。今回調査の有効回答数は合計107社、2022年4月15日から19日までの調査の有効回答数は合計111社、2022年3月24日から28日までの調査の有効回答数は合計97社。今回調査において「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は21.5%。「50%未満」は5.6%。「50%以上」は12.1%。「100%(駐在員全員が退避)」は60.7%。2022年4月15日から19日までの調査において「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は14.4%。「50%未満」は3.6%。「50%以上」は7.2%。「100%(駐在員全員が退避)」は74.8%。2022年3月24日から28日までの調査において「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は18.6%。「50%未満」は6.2%。「50%以上」は8.2%。「100%(駐在員全員が退避)」は67.0%。

図11:ロシアへの帰還、出張の予定

ロシアへの帰還、出張の予定について。有効回答数は合計84社。「今後、ロシア拠点への帰還を予定」と回答した企業の割合は13.1%。「今後、ロシア拠点への出張を予定」は22.6%。「アンケート回答時点ですでにロシア拠点へ帰還している」は9.5%。「アンケート回答時点ですでにロシア拠点へ出張中である」は16.7%。「帰還・出張の予定はない」は21.4%。「現時点では不明」は16.7%。

図12:ロシアへの帰還、出張の理由(複数回答)

ロシアへの帰還、出張の理由(複数回答)について。有効回答数は合計52社。「労働許可の維持・更新、査証取得」と回答した企業の割合は80.8%。「現地採用社員の管理(採用、削減含む)」は46.2%。「拠点運営維持にかかる行政手続き」は34.6%。「駐在員、拠点運営にかかる税務処理」は25.0%。「通常業務の実施・再開に向けた現地調査」は23.1%。「在ロシア顧客への対応」は19.2%。「通常業務の実施・再開」は17.3%。「退避・帰任した駐在員の荷物処理・住居解約」は11.5%。「事業継続に向けたパートナー企業との調整」は9.6%。「その他」は7.7%。「拠点閉鎖・売却に向けた対外的な手続き(税務調査など)」は3.8%。「拠点閉鎖・売却に関する社内手続き」は1.9%。「自社ロシア事業の売却先の選定」と回答した企業はなし。

ジェトロ海外調査部(担当:下社(しもやしろ)、浅元)
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