電子通関システムが稼働、関税評価方式も切り替え

(ミャンマー)

バンコク、ヤンゴン発

2016年11月30日

 ミャンマーの輸出入貨物の7割以上を取り扱う国内主要港および空港で11月12日、日本の通関システムをベースとする新たな電子通関システム「マックス(MACCS)」が稼働した。輸出入の申告、審査、関税納付、認可を含む一連の通関手続きを電子化し、商業省の発給する輸出入ライセンスとも連結する。MACCSの稼働に伴い、税関当局が課税価格を決定するこれまでの賦課課税方式から、輸入者の申告価格に基づく申告納税方式へと、関税評価の方式が切り替わる。

<日本の通関システムをベースに開発>

 1112日にミャンマーで供用開始した電子通関システム、マックス(MACCSMyanmar Automated Cargo Clearance System)は、日本の電子通関システムであるナックス(NACCSNippon Automated Cargo and Port Consolidated System)をベースに開発された。201410月にNTTデータがミャンマー政府からシステム開発を受注し、約2年間の開発・準備期間を経て、当初計画どおりのスケジュールで運用が開始された。システムの導入や税関でのキャパシティービルディング(能力構築)に関しては、国際協力機構(JICA)が無償資金協力や専門家派遣を通じて全面的な支援を行ってきた(2016年6月10日記事参照)。

 

 マックスは、ヤンゴン国際空港、ヤンゴン本港、ティラワ港、ティラワ経済特別区(SEZ)内税関で運用が開始された。これら主要4拠点において通関手続きを行う全ての貨物については原則、マックスを通じて事前情報の登録および申告データ入力を行う必要がある。ミャンマー税関局のマックス部門ディレクター、ウィン・タン氏は「1112日以降、輸出入貨物全体の7割以上(2015年度実績ベース)が、マックスによって処理されることになる」と話す。

 

 計画財務省によると、貿易額全体の27%(2015年度実績)を占める陸上国境税関(全国に15ヵ所)経由の輸出入貨物については、2017年から段階的にマックスの導入準備を進め、2018年以降、ミャワディ、タチレク(いずれもタイとの国境税関)、ムセ(中国との国境税関)などの主要国境税関への導入を目指すという。

 

 マックスの運用開始に先立ち、海上貨物については、117日からマニフェスト(積み荷目録)登録と船舶情報登録がユーザーに開放され、事前登録を奨励してきた。加えて、実際の申告業務を行う通関業者と輸出入業者(荷主)との受委託関係情報や、関税をシステムから自動引き落しするのに必要となる、輸出入業者による税関への預入金(デポジット)のための登録も同日から実施されている。

 

 ウィン・タン氏によると、システムの本格稼働に伴い、自動的にグリーンレーン(審査なし)に振り分けられる貨物について、関税支払いが事前登録されたデポジットから自動引き落としされる場合、申告から認可までのプロセスは、システム導入前の数時間から、最短で3秒に短縮される。

 

<デポジットは新たに登録する必要>

 1116日時点でのマックスへの登録者数は、通関申告業務を担う通関事業者が243社、通関士の登録が680人となっている。また、輸出入業者として947社の登録も完了している。事前登録された通関事業者や自社通関を行う輸出入業者は、自社内のパソコンにマックスのシステムをインストールし、付与されたIDおよびパスワードを用い、インターネット経由でマックスに接続し、税関申告やその他必要情報の入力や登録を行う。ユーザー登録した輸出入業者は、自社貨物が現在どのような状況にあるかを、システムから随時確認することが可能となる。マックスへのユーザー登録自体はいつでも可能だ。

 

 なお、通関事業者が輸出入業者から受託し通関手続きを行う場合、マックスには「輸出入業者と通関事業者の受委託関係」に関する情報を事前に登録しなければならない。輸入業者が関税支払いを行うための税関へのデポジットについては、マックス導入以前は紙の台帳で管理されていたため自動移行されず、新規のデポジットを税関に申請し、マックスに登録する必要がある。その際、1112日以前のデポジット残高については、所有者の申請に基づき還付される予定だ。

 

CIF取引価格に基づく申告納税方式に変更>

 マックスの稼働に伴い、関税の支払い方式が取引価格(CIFベース)をベースとする申告納税方式に変更された。これまでは、税関が課税評価額を決定する賦課課税方式が取られていたが、WTOの関税評価協定に伴う申告納税方式がようやく導入されたことで、輸出入業者にとって予見性・透明性が大幅に向上することが期待される。

 

 申告納税方式の導入に伴い、税関による事後調査の運用も開始される予定。ウィン・タン氏は「これまでの賦課課税方式では事後調査という概念が存在しなかったが、インボイスをベースとする申告納税方式に切り替わることで、適切な事後調査の実施が必須となる。輸出入業者には、事後調査を前提とした適正価格での申告および7年間の通関書類の保存が求められる」と語る。

 

<導入当初の混乱は避けられず>

 電子システムおよび申告納税方式の導入は、ミャンマーの税関関連制度・手続きの国際標準化、透明化、迅速化を促進する上で大きな一歩となる。しかし、システム導入直後は、通関申告方法などの照会を求める通関事業者が税関のヘルプデスクに殺到するなど、混乱もみられた。

写真 稼働直後のヘルプデスクの様子(ジェトロ撮影)

 通関事業者の中には、自社内にマックスをインストールできるパソコンを保有していない企業も存在するため、地元の通関事業者協会がパソコンを備えた簡易登録場を設けるなどの対応も取られている。「マックス導入で、当面は以前より多くの時間と労力がかかるだろう。インターネット接続の問題からシステムにうまくつながらない、登録したはずの情報が税関側で確認されないなどの問題が既に発生しており、スムーズな運用に向け多くの課題が残る」(在ミャンマー日系物流会社)との声も聞かれる。税関側も、当面の混乱を想定し、税関内に設置したヘルプデスクやサポートセンターの利用を奨励している。システムの運用を通じて浮き彫りとなった多くの課題に対し、税関および関係省庁が適切かつ迅速な対応を行い、段階的な運用改善につながることが期待されている。

 

(伊藤博敏、澤田茉季)

(ミャンマー)

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