製薬、化学、航空分野などはEU機関に残留も-メイ首相、将来の通商関係に関する考え方を表明-

(英国、EU)

ロンドン発

2018年03月05日

テレーザ・メイ首相は3月2日、ロンドン市内で英国が追求する将来のEUとの関係性について明らかにした。EU単一市場・関税同盟から離脱する一方で、通常の自由貿易協定(FTA)を超える包括的な経済関係を構築することにあらためて言及し、EU市場へのアクセスに向け製薬、化学、航空などの分野ではEU機関の準メンバーとして残留する考えを示した。

北アイルランド含む英国の一体性を主張

メイ首相はまず、EUとの新たな関係についての5つの基本原則を説明した。1つ目は国民投票結果の尊重だ。その結果を踏まえ、EUからの主権回帰を志向する。2つ目はEUと合意する新協定は持続的なものでなければならないという点だ。EU離脱後にうまくいかなかったからといって、交渉テーブルに戻ることはできない。さらに3つ目として雇用と安全の確保、4つ目として開放性・先進など英国の理念との合致、5つ目として英国の各地域や国民の結束強化を挙げた。EUとの交渉においてはこの原則に沿った協定を追求するとした。

交渉課題の1つが、アイルランドと接する北アイルランドの取り扱いだ。メイ首相は「(国境管理などを伴う)ハードボーダーに逆戻りすることや、(北アイルランドと英国のその他地域を分ける)アイリッシュ海に関税や規制の境界を設け英国市場の一体性を損なうことは受け入れられない」と述べた。EU側からは、北アイルランドをEU関税同盟に残留させる考えも聞こえていることから、英国の一体性を説くことでこれを牽制したかたちだ。

通商関係に5つの基盤を提示

メイ首相は、英国が望むEUとの具体的な通商関係についても、それを支える5つの基盤が重要だと述べた。1つ目は公正かつ開かれた競争を担保するための縛りを設けることだ。これは通常の通商協定に盛り込まれるものだが、強固な関係性を志向する英国とEUの場合にはとりわけ重要だと指摘した。2つ目は独立仲裁機関の設置で、両者間の問題の公正・迅速な解決には欠かせないとした。3つ目は規制の在り方などについての対話の場の設定で、同一ルールが適用されている現状を極力維持するための作業が行われる。4つ目はデータ保護で、相互の十分性認定にとどまらない関係性を構築する。5つ目が市民・人材の相互市場へのアクセスで、就労や就学のための相互アクセスを確保するための議論を行うことに意欲を示した。

テーラーメードの経済関係を追求

メイ首相は、この5つを基盤として、EUとの間で相互のニーズに沿うテーラーメードの経済関係を作り上げることを追求するとした。テーラーメードが、EUが拒否する「いいとこどり」の経済関係と見なされる懸念もあるが、「全てのFTAにおいて、交渉当事国の関心に応じて認められる市場アクセスの程度は異なる」とし、「もし英国の姿勢が『いいとこどり』なのであれば、全ての通商関係は『いいとこどり』だ」と述べた。権利と義務の関係のバランスが保たれるのであれば「いいとこどり」には当たらないという考えだ。

その上でメイ首相は、テーラーメードの関係性を実現するために、製品(モノ)やサービスの取引上求められる要素についても説明した。製品については、最大限摩擦のない取引が必要とし、規制の相互認証に係る包括システムの構築を訴えた。さらに製薬、化学、航空などの分野でEUの規制機関に準メンバーとして留まる選択肢を提示した。その際には、当該機関のルールの縛りを受けることを容認するとともに、一定の資金拠出も行うという。準メンバーとして残留し、いずれかの加盟国で認証を取得することで、他の加盟国市場へのアクセスや関連規制策定への関与が可能となる。

また、関税の取り扱いについては、2017年8月に公表した「英国・EU間の関税上の諸手続きを最大限に簡素化」と「新たな関税上のパートナーシップ構築」の2つの案に言及した(2017年8月17日記事参照)。

一方、サービス分野については、必要性が極めて大きい部分にしか相互の取引を阻害する新たなハードルを設けることを認めないとし、放送や金融などの分野で規制の相互認証を進めたい考えを示した。

産業界は「現実的姿勢」と評価

メイ首相の演説を、英国産業連盟(CBI)は「EU機関への加盟や市場環境整備への意欲など、英国の交渉姿勢の軟化にもつながるもので歓迎する」「望ましい合意を得る可能性を高める」と評価している。また、英国商工会議所(BCC)も「メイ首相が産業界の利益にコミットしたことは、これが交渉で前面かつ中心に位置付けられることを保証する」とし、「より明確かつ現実的な姿勢が明らかになった」と受け止めている。

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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