鋼材や繊維素材などの一時輸入要件を厳格化-IMMEXプログラム活用のセンシティブ品目に関する貿易細則を改定-

(メキシコ)

米州課

2017年01月23日

 メキシコ経済省は2016年12月12日、貿易に関する一般的な規則と基準を定める経済省令(経済省貿易細則)の改定を官報公示した。同改定は2017年1月26日から適用される。同改定により、「輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム」(IMMEXプログラム)を活用して鋼材や繊維素材などのセンシティブ品目を一時輸入する場合の要件が厳格化されるが、国税庁(SAT)の認定を受けた企業はこの要件を満たす必要はない。

<改定作業が大幅に遅れ、ようやく官報公示>

 経済省は2016年1月6日にIMMEXプログラムの改正政令を公布し、複数の種類があったセンシティブ品目の対象リストを統合し、一時輸入滞留期間を18ヵ月に統一したが、センシティブ品目の一時輸入に際して求められる特別な要件については別途、経済省が定める細則で公示するとしていた(2016年1月22日記事参照)。当初、細則の公示は改正政令の発効日(2016年2月5日)から60営業日以内にされる予定(政令改正付則第1条)だったが、改定作業が大幅に遅れ、12月12日になってようやく官報公示された。同改定の主な内容は、以下のとおり。

 

(1)IMMEXプログラム登録要件である輸出義務(売り上げの10%以上、あるいは50万ドル以上の輸出)を操業準備期間は免除

(2)IMMEXプログラム新規登録申請の際の要件の厳格化

(3)センシティブ品目を一時輸入するための要件の設定

(4)センシティブ品目一時輸入許可の有効期限短縮(12ヵ月→4ヵ月)

 

 (1)については緩和措置であり、通常、IMMEXプログラムを登録する際の要件となる売り上げの10%以上、あるいは50万ドル以上の輸出義務を操業準備期間は免除し、当該年の全てが操業準備期間であれば翌年の年次報告において上記を証明する義務をなくした。

 

 (2)については、センシティブ品目を一時輸入するか否かにかかわらず、IMMEXプログラムの新規登録の際の要件を厳格化した。具体的には、IMMEXプログラムを適用する生産プロセスの説明の中に、a.一時輸入部材の在庫期間、b.生産・サービスのプロセスごとの説明と所要期間、c.生産された製品(あるいは保税サービス対象産品)の国内滞留期間、d.一時輸入部材の保管場所、を明記しなければならない。また、プログラム申請の際に提出する投資計画としては、プロジェクトの各段階における投資額や資金調達先、建屋などの建設計画、人員の雇用計画、機械設備の試運転などの情報を盛り込まなければならない。さらに、センシティブ品目を取り扱うプログラム申請の場合は、SAT職員の現場査察による承認が要件となることを規定している。

 

<必要な部材は申請した一時輸入数量枠内で厳格に管理>

 (3)が今回の細則で中心となる部分だ。2016年1月6日のIMMEX政令改正では、第5条IV項に「別添II(センシティブ品目リスト)の商品を一時輸入する際の義務履行を担保するための保証金制度」が盛り込まれたが、今回改定された細則では保証金制度は導入されず、各企業が製品製造に必要な部材の一時輸入数量枠を申請し、同枠内で一時輸入を厳格に管理するという要件が今後も継続される。具体的には、以下が要件(主要なもの)となる。

 

a.センシティブ品目を取り扱うための「プログラム拡張申請」の提出

b.一時輸入部材と輸出製品の双方に関する詳細なデータの提出

c.企業のオペレーションの詳細を記載した公認会計士による報告書

d.一時輸入許可申請量(Excelファイルで提出、総量に加え、HSコードごとの内訳も必要)の提出

 

 d.については、企業が4ヵ月ごとに一時輸入許可数量枠を申請し、実際に認められた数量枠内で一時輸入が可能になる。経済省は企業からの申請を受け、以下の基準に基づき数量枠を決定する。

 

○IMMEX政令別添IIのA(精糖関連)、D(アルミニウム関連)、E(スクラップ関連)、F(たばこ関連)に規定された品目については、4ヵ月分の生産能力(上記c.の公認会計士による報告書に記載された数量)

○IMMEX政令別添IIのB(鋼材および鉄鋼製品)、C(繊維・縫製品)に規定された品目については、過去12ヵ月の輸入実績の月平均に4を乗じた数量

 

 なお、鋼材および鉄鋼製品、繊維・縫製品の月平均輸入実績の計算の際に、過去12ヵ月の輸入で特定の月の輸入実績が月平均の2倍超に達している場合には、当該月の輸入実績を月平均の数量に置き換えた上で再度12ヵ月の平均を取ることが定められている(輸入が異常に多かった月の輸入数量の影響を弱めるため)。また、新設企業など輸入実績がない企業の場合は、企業の申請量と以下の原則に基づいて決定される。

 

○鋼材および鉄鋼製品(IMMEX政令別添IIのB)

 従業員10人未満:3,000キロ未満

 従業員10~100人:3,000キロ以上~5万キロ以下

 従業員100人超:5万キロ超

○繊維・縫製品(IMMEX政令別添IIのC)

 従業員10人未満:1,000数量単位(注)未満

 従業員10~100人:1,000数量単位以上~2万数量単位以下

 従業員100人超:2万数量単位超

 

<IVA・IEPS保税認定企業は規制の対象外>

 今回の細則改定でもう1つ注目されるのが、センシティブ品目を一時輸入する際に特別要件の順守が求められる対象企業について。従来は、鋼材(2016年1月に改定される前のIMMEX政令別添I-TERに規定された品目)については、鋼材を一時輸入して鋼材として再輸出、あるいはバーチャル輸出(他のIMMEX企業に保税状態で商品を移転すること)する企業のみが一時輸入数量枠の申請など特別要件の対象だった。つまり、鋼板を輸入し切断加工をして鋼材として販売する鉄鋼サービスセンター(コイルセンター)などは対象となったが、鋼材を一時輸入して自動車部品に加工した上で再輸出・バーチャル輸出する自動車部品製造業は対象外だった(2012年6月18日記事参照)。今回の細則改定において、特別要件は「生産する最終製品が何であるかにかかわらず」センシティブ品目を一時輸入する企業に適用されることが明記された(経済省貿易細則3.3.1)。従って、自動車部品メーカーであっても、鋼材や繊維などのセンシティブ品目をIMMEXプログラムで一時輸入するためには、特別要件の順守が必要になると解釈される。

 

 ただし、IMMEX政令の第6条は、「認定企業」であれば政令第5条に規定された特別要件の順守を求められない、と規定している。従来、同条で言及されている「認定企業」は、輸入額が大きいこと、あるいは認定経済事業者(AEO)として物流セキュリティーが確保されていることをSATに認定された企業のことを意味していたが、2016年5月9日付官報で公示されたSAT貿易細則の改定に基づき、新たな企業認定制度の一形態として、一時輸入において付加価値税(IVA)や生産サービス特別税(IEPS)の保税を可能にするための認定企業制度(IVA・IEPS保税認定)が追加された(2016年6月1日記事参照)。同改定により、IVA・IEPS保税認定を受けていれば、センシティブ品目の一時輸入における特別要件の順守も免除されることになる。

 

 IMMEX制度の最大のメリットはIVAの保税であるため、進出企業の大半はIVA・IEPS保税認定を受けている。従って、今回の経済省貿易細則改定によるセンシティブ品目の一時輸入規制強化が進出日系企業に与える影響は少ないと考えられる。

 

(注)輸入申請する際の数量単位のこと。キロ、平方メートルなど品目によって単位が異なる。

 

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 605198a1e1cb9471