権利侵害に備え商標・特許の登録状況を確認−モスクワで知財セミナー開催(2)−

(ロシア)

モスクワ事務所

2015年02月24日

ロシアで第三者から権利を侵害されないようにするには、事前に商標や特許の登録状況を確認することが重要だと法律会社ゴロジスキー・アンド・パートナーズのエフゲニー・アレクサンドロフ法務部長は指摘する。連載の2回目は、救済措置、不正競争と、第三者からのクレームへの対処について。

<救済措置の請求は賠償額に相応する範囲で>
侵害行為をやめさせるには、まず、権利者の権利を侵害者に認めさせる必要がある。その後、権利侵害行為の停止を求め、損害賠償額を提示する。権利保護手段には商品・機器の没収・破壊・廃棄、判決の公表、侵害を行った法人の解散を求めることなどがある。権利保護が難しい特許分野でも、2015年1月1日からは賠償を請求することが可能となった。

救済措置に関しては、民法第1252条第2項に基づき、全ての種類の侵害に対して可能だ。a.被告の金銭または資産を押収すること、b.被告に対して特定の行為を禁止すること(例えばドメインネームが問題の場合、第三者への譲渡禁止)、c.問題となっている資産の損傷や劣化を防止する目的で、被告に特定の行為をするように義務付けること、d.問題となっている資産を原告などの保管に移行すること、などだ。このほか、商事裁判所が上記以外の救済措置を取る場合や、同時に複数の救済措置が取られることもある。ただし、救済措置は賠償請求額に相応すべきだ。

原告が救済措置として被告の全資産没収を裁判所に訴え出た場合、裁判所が訴えを受け入れないことがある。被告の経済活動を全て停止するような行為はやり過ぎであり、救済措置内容が賠償額を上回っていると裁判所が判断するためだ。スベルドロフスク変圧器工場が、サマラ変圧器とサマラ変圧器商社を相手取り、実用新案と意匠権侵害の抑制と損害賠償を求めて提訴した事例では、連邦商事裁判所ボルガ地区裁判所は、紛争の対象となっている全ての資産(生産技術規定や機器、紛争の対象となっている変圧器製造用の金型)を原告の保管に移行するという救済措置が明らかに賠償額に相応していない、すなわち被告となった企業では製造が停止してしまい、多大な損害を被ることになると判断し、訴えを受け入れなかった。

<不正競争案件は連邦反独占局に申し立て>
不正競争は、競争保護法第4条に規定されており、ある経済主体(グループ)が企業活動時に、ロシア連邦の法律や商慣習、誠実さ・合理性・公正さの要件に反し、競合する他の経済主体に損害をもたらしたり評判を傷つけたりする、またはそのような可能性があるあらゆる行為を指す。ロシアの法律では、知的財産分野における排他的権利の侵害は競争保護法第14条に抵触し、パリ条約にも違反することとなる。

不正競争の申し立てには、a.具体的な関係の存在、b.知的財産対象物の違法使用の事実、c.具体的または潜在的な損害、を示す必要がある。不正競争は罰金額が大きいため、連邦反独占局へ提訴することになる。具体的なケースとしては、フォルクスワーゲン(VW)とゼネラルモーターズ(GM)の紛争が挙げられる。VWロシア法人はソチ・オリンピックのゼネラルスポンサーとして、オリンピックのシンボルを自社の自動車に使用する権利を有していた。他方、GM CISは広告と価格表に「オリンピックホワイト」という色名を用いた自動車「シボレー」を販売した。VWはこれに対して、連邦反独占局に苦情を申し立てた。その結果、GMの行為は不正競争で、違法に国際オリンピック委員会の商標を使用したと判断され、70万ドルを超える罰金が科された。

<クレームへの対処は弁護士と相談を>
第三者からのクレームには、a.クレームの本質を研究、b.弁護士に相談、c.返答の要否の判断、d.追加アクションの検討(商標・特許などの取り消しや交渉)、といった対策を取る必要がある。特に、弁護士とクレームの本質をじっくり研究する必要があり、戦略(証拠収集、反論の準備、告訴人との交渉の要否など)を策定する必要がある。交渉次第では、クレームを取り下げる場合もあり得る。実際には侵害行為をしていないということを証明できれば、円満に解決できる可能性もある。

そもそもクレームを未然に防ぐためには、ロシア市場に参入する前に、商標を検索するなどして類似製品がないかどうか確認をとる必要がある。商標に関しては、言語、ビジュアルの両方から見る必要がある。さらに、類似した特許の有無も確認すべきだ。

食品メーカーのリナがマクドナルドを相手取り、モスクワ商事裁判所に提訴した案件では、マクドナルドが自社のハンバーガーの箱に、「ス・プィルー・ス・ジャルー」(ロシア語で「ホカホカ」「できたて」という意味)という単語を印刷したことに端を発している。ロシアでは、焼かれたパンについて一般的な形容詞として使われている単語だが、リナは自社のクレープ製品のパッケージシールに同単語を使用し、商標登録を済ませていた。最高商事裁判所の判決としては、a.クレープとサンドイッチは同じ特性と消費者層、販売条件を持つこと、b.マクドナルドが同単語に併記していた英語が全く異なるものだったことから、リナの主張を全面的に認めた。

また、パッケージに大きく子供の顔が描かれているロシアで非常に有名な「アリョンカ」というブランド(クラスヌィ・オクチャブリ製菓工場)のチョコレートの案件では、同チョコレートのパッケージに非常に似た形で「アリーナ」というブランドを全く別のメーカーであるスラビャンカ製菓工場が発売し、あまりにも似ているということで問題となった。裁判所はスラビャンカ製菓工場の「アリーナ」は「言語的要素を含む複合的商標の違法使用」による権利侵害と判断した。その結果、2006〜2008年の「アリーナ」の売上高の2倍となる3億1,352万ルーブル(約5億3,000万円、1ルーブル=約1.7円)の罰金を支払うことになった。

(齋藤寛)

(ロシア)

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