侵害訴訟の提訴には証拠収集が重要−モスクワで知財セミナー開催(1)−

(ロシア)

モスクワ事務所

2015年02月23日

外国企業がロシア企業から権利侵害行為を受けるケースが相次いでいる。このような事態に直面した企業はどう対応したらいいのだろうか。ジェトロは2014年12月11日、モスクワで知的財産権セミナーを開催した。専門家の講演を3回に分けて報告する。1回目は弁護士事務所ゴロジスキー・アンド・パートナーズのエフゲニー・アレクサンドロフ法務部長の講演の前編。提訴する場合は証拠集めなど入念な準備が必要などと指摘した。

<侵害行為の阻止には警告状が有効>
知財分野では、排他的権利の侵害、国家機関の決定に対する不服、著作権・隣接権、契約の締結・執行、著作権料の支払い、ドメイン名など、さまざまなケースで紛争が存在する。知財保護に関連する法律は、民法、行政違反法、関税同盟関税基本法、通関規則法、競争保護法、刑法、広告法、消費者保護法などがある。

権利を守る手段は複数あり、一番広く使われている方法は、侵害行為を行っている当事者に対して直接警告状を出すことだ。裁判を経ないため、時間と費用をかけずに良い結果を得る可能性があり、有効な手段だ。警告状により侵害行為をやめるケースは多い。ゴロジスキー・アンド・パートナーズが扱った案件では、ドイツのヘンケルの界面活性剤「プリル」という製品を模倣し、「トルンプ」という名前の製品にヘンケルのマークを付けて販売しているものがあった。ヘンケルが「トルンプ」を製造しているメーカー(侵害者)を訴えた場合には、侵害者に対してかなり高額な罰金が想定されたため、侵害者が自ら模倣品を破棄することとなった。

<まずは地域の商事裁判所に提訴>
ロシアには商事裁判所と通常裁判所の2種類の裁判所がある。知財紛争の多くは商事裁判所の管轄だったが、知財裁判所が2013年7月に創設され(2014年1月31日記事参照)、第一審および破棄審(注)を担当している。また、2014年の裁判制度改革では最高裁判所と最高商事裁判所が統合され、商事裁判案件であっても最高裁判所が最上位審となった(2014年2月21日記事参照)

知財裁判所が第一審で扱う案件は、主にロシア連邦知的財産局(ロスパテント)の決定を対象としたものが中心で、商標権の使用に関するものが多い。破棄審(第三審)で知財裁の判決に不服な場合、最高裁への控訴が可能だが、訴訟の場合はまず被告の所在地の商事裁判所で提訴する必要がある。例えば、ウラジオストクの会社を起訴する場合、沿海地方の地方裁判所に訴え出ないといけない。第一審判決が不服であれば第二審に控訴することが可能で、第二審の決定に不服の場合は知財裁判所に控訴することとなる。分野別に裁判件数をみると、1位が著作権に関するもので2013年は4,593件に上った。2位が商標権で2,234件、3位は特許権で145件だった。知財関連の裁判件数は徐々に増加している。効率的な権利保護訴訟を可能とする法改正が行われたためだ。

<提訴には入念な準備が必要>
裁判所に提訴する前段階には、勝算、コスト、所要時間などのチェックポイントがある。勝算については、まず、侵害の有無を見極める必要がある。特許権侵害の場合、侵害品のサンプルをそろえ、出願書の記載内容と照らし合わせ同等性を見極める必要などがあり、なるべく専門家である弁理士に任せるのがよい。また、鑑定に関する意見を専門機関から得ることが必要となる場合もある。裁判所は法律と証拠のみを判断の材料とすることから、権利を裏付ける書類の有無と、書類があればその内容の確認も重要となる。費用に関しては、裁判に伴う税金、鑑定料、代理人サービス費用、所在地から離れた場所での裁判の場合の旅費などが必要となる。

審理期間は複雑な案件ほど長くなる。商標権侵害の紛争の場合、平均して4〜6ヵ月程度かかる。侵害行為を発見した際は、企業はまず証拠を集め、起訴に必要な書類を作成し、各審理に必要な時間などをみる必要がある。また、裁判に向けて知財紛争の専門チームを作り、意思決定者、証拠収集担当者、書類を作成する弁護士、出廷する弁護士などをそろえる必要がある。技術的知識が求められた場合を想定して、専門家を担当者としておくことも重要だ。さらに、視覚的に分かりやすい資料を作成する必要がある。例えば、ある日系自動車部品メーカーの案件では真正品と模倣品の写真を裁判所に提示した。

司法手続きは、証拠の収集と確保、提訴の準備と提訴、暫定的救済措置の請求、事前の交渉、裁判、判決、判決の法的発効、控訴、執行という流れとなる。当事者決定後、裁判所への提訴が可能となる。裁判手続きそのものについても、裁判所の検討対象となることがある。証拠については、自力での収集のほか、探偵や公証人、裁判所の活用、行政訴訟または刑事訴訟を通じて収集することができる。

<証拠集めにも注意が必要>
自力で証拠集めをする場合、製品そのものや広告用カタログ、技術仕様などの技術的情報、適合証明書などが証拠になり得る。ウェブサイトや展示会で製品を見るという方法もある。他方、自力で証拠を集める場合の注意点は、製品購入時のレシートやインボイスだけでは製品を特定できないこと(製品名のみで具体的な型式の記載なし)のほか、広告用カタログに詳細なスペックが書かれていないことや、販売元・製造元情報がなく住所などが間違っている場合があることだ。

商事裁判所制度では2年前から電子裁判所システムが導入された。オンラインで手続きに関するあらゆる情報が得られる。また、同システムに登録すれば、案件の審理進捗についてリアルタイムで情報を得ることが可能となる。

(注)ロシアの知的財産分野での裁判制度には、通常の第二審となる上告審がないため、第三審である破棄審が第二審扱いとなる。

(齋藤寛)

(ロシア)

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