欧州理事会、渡航禁止と資産凍結の対象者を拡大−対ロシア制裁、EU理事会が法制化−

(EU、ロシア、ウクライナ)

ブリュッセル事務所

2014年03月24日

欧州理事会(EU首脳会議)は3月20日、ロシアによるクリミア自治共和国編入を受けて、ウクライナ危機への対応が最重要課題となり、EU域内への渡航禁止と資産凍結を課す制裁措置対象者の拡大を追加制裁措置として決定した。EU理事会は3月21日、この決定を法制化した。

<EU渡航禁止と資産凍結の対象者は21人から33人に拡大>
欧州理事会は3月20〜21日に開催された。会議初日の3月20日、ロシアやクリミア自治共和国の21人を対象とするEU域内への渡航禁止と資産凍結を課した制裁措置(2014年3月18日記事参照)について、その対象を21人から33人に拡大することで合意した。

EU理事会は翌21日、欧州理事会での20日の合意を法制化する2014年3月21日付理事会実施決定2014/151/CFSP同日付理事会実施規則(EU)No284/2014を採択した。これにより、ロシアのロゴジン副首相やグラジエフ大統領補佐官など12人の高官が新たにEUへの渡航禁止と資産凍結の対象リストに加えられた。

欧州理事会はまた、6月にロシアで予定されていたEUロシア首脳会議の中止や、加盟各国とロシアとの定期的な2国間首脳会議の中止を決定した。

欧州理事会はロシアによるクリミア自治共和国とセバストポリ市の編入(2014年3月19日記事参照)を強く非難するとともに、認められないとした。事態のエスカレートを食い止めるいかなる措置も取られないことから、欧州理事会は今回の追加措置を決定したと説明した。欧州理事会はまた、ロシアがウクライナの状況をさらに不安定化させるような措置を取る場合にはさらなる追加措置を排除しないとして、欧州委員会と加盟国に「なし得る的を絞った措置」を準備するよう要請した。

欧州理事会のファンロンパウ常任議長は3月20日の会議終了後の深夜から始まった記者会見で、「制裁は報復の問題ではなく、外交政策の手段だ。制裁自体が目標ではなく、終わらせるための手段だ」と述べ、「われわれの目標は、ウクライナに対するロシアの行動をやめさせることであり、ウクライナの主権を回復し、われわれが必要な交渉による解決策を達成することだ。EUはウクライナとロシアを含めた意義ある対話を容易なものとし、対話に参加する用意があり、その目的に向けて全ての多国間イニシアチブを支援する」と強調した。

3月20日の会議終了後の深夜の記者会見に臨む欧州委員会のバローゾ委員長(左)と欧州理事会のファンロンパウ常任議長(右)

<ロシアによるクリミア編入を認めず>
また、欧州理事会は3月20日、「ウクライナに関する決議」を採択した。同決議の概要は以下のとおり。

(1)EUはウクライナ国民と同国民が将来を選ぶ権利を支持する。EUはウクライナ政府による同国の安定化と改革努力を支援する。国際社会とともに同国を支援する一層の努力を行う。

(2)EUとウクライナは連合協定の政治規定に調印するとともに、連合協定の残りの部分と高度かつ包括的な自由貿易協定(DCFTA)の調印を約束する。連合協定の下で検討される最初の政治対話会合を4月に開催すべきことで合意する。欧州理事会は理事会と欧州議会に対し、ウクライナからEUへの輸出にかかる関税の一時的な撤廃に関する提案を速やかに採択するよう要請する。

(3)ウクライナのマクロ経済安定の回復は緊急優先課題。欧州理事会は理事会に対し、マクロ経済支援に関する速やかな合意を要請するとともに、IMFとの合意が同支援を可能にするために重要であることを強調する。他方、ウクライナ政府は汚職対策や全ての財政活動の透明性強化を含む野心的な構造改革プログラムに速やかに着手する必要がある。

(4)EUは、ウクライナ政府による地域の多様性を反映した包括的な政府の構造や少数民族の人権保護の保証、憲法改正の実施、人権侵害の調査実施などの約束を歓迎する。EUはこの文脈で、5月25日に予定される大統領選挙が自由、かつ公平に行われることをウクライナ政府が保証することを支援する。

(5)EUはウクライナの主権と領土保全を支える約束を維持する。欧州理事会はウクライナ憲法に明らかに違反するクリミア自治共和国での違法な住民投票を認めない。ロシア連邦によるクリミア自治共和国とセバストポリ市の違法な編入を強く非難するとともに、認めない。欧州理事会は欧州委員会に対し、クリミア自治共和国編入の法的意義を審査し、同共和国に関する経済、貿易、財政の制限を速やかに実施できるような提案を要請する。

<ロシアのOECDおよびIEA加盟交渉停止を支持>
(6)事態の段階的な縮小に向けたいかなる措置も取られないことから、欧州理事会は渡航禁止と資産凍結の対象となる個人リストの拡大に合意する。欧州理事会は次回のEUロシア首脳会議の中止を決定し、加盟国はロシアとの2国間定期首脳会議を当面開催しない。加えて、欧州理事会とEU加盟国はオランダ・ハーグでの来るべき主要7ヵ国首脳会議(G7)を支持する。ロシアのOECDおよび国際エネルギー機関(IEA)加盟交渉の停止も支持する。

(7)欧州理事会は、21世紀において武力や強制により、欧州の国境変更が行われることはあり得ないと固く信じている。ロシアの行動は、過去40年の間、欧州分断の克服と平和で統合した欧州の建設に貢献してきたヘルシンキ・プロセスに明らかに違反している。欧州理事会は、ロシアが危機を段階的に小さくする行動をまだ取らず、ウクライナとロシアの間の交渉がまだ始まらないことを残念に思っている。ウクライナにできるだけ早く、欧州安全保障協力機構(OSCE)のミッションを派遣することについて速やかな合意を要請する。欧州理事会はEU外務・安全保障政策上級代表に対し、OSCEミッション作業を容易なものとするためのEUの貢献計画を緊急策定するよう要請する。

(8)EUは欧州の平和と安定に特別な責任を持つ。政治的解決策を見いだす視点から、多国間メカニズムの設置を通じることも含めて、ウクライナとロシアが関与する意義ある対話を容易なものとし、対話に参加する努力の最前線にとどまる。

(9)欧州理事会は、ウクライナの状況を不安定化させるロシアのさらなる措置が、EUおよび加盟国とロシアとの広範な分野の経済関係に追加的に幅広い影響を与えることにつながることを想起する。この観点から、欧州理事会は欧州委員会と加盟国に「なし得る的を絞った措置」を準備するよう要請する。

(10)欧州理事会はグルジアやモルドバとの政治連合や経済統合を一層強化するという目的を確認する。2013年11月にビリニュスで仮調印したDCFTAを含む連合協定について、2014年6月よりも遅くならないよう調印することを確認する。

<ウクライナとの連合協定の政治規定に調印>
さらに、EUとウクライナは3月21日、連合協定の政治規定に調印した。欧州理事会のファンロンパウ常任議長は「(連合協定の政治的の)調印はウクライナ国民との団結と、同国民の変化への熱望と渇望に対するEUの支援の証しだ」と、欧州理事会終了後の記者会見で強調した。そしてEUは、ウクライナの経済改革や民主的改革への努力を支援するために、いつも寄り沿っていると述べた。

なお、今回の欧州理事会の主要議題はもともと2030年までの温暖化対策・エネルギー政策や欧州の産業競争力強化だったが、ロシアによるクリミア編入への対応が優先して取り上げられた。

(田中晋)

(EU・ウクライナ・ロシア)

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