工場閉鎖時には売却先を探すことを義務化−従業員1,000人以上の企業が対象−

(フランス)

パリ事務所

2014年03月07日

工場閉鎖を計画する企業に売却先を探すことを義務付ける「実態経済の回復を目指す法」が2月24日国民議会(下院)で可決、成立した。対象は従業員1,000人以上の企業。売却先を探すことを怠るか、あるいは売却を拒否する企業には、年間売上高の2%を上限とし、解雇する従業員1人につき最高で月額法定最低賃金の20倍(約2万9,000ユーロ)の罰金を科す。同法には敵対的株式公開買い付け(TOB)の防衛策も盛り込まれた。

<最低3ヵ月は売却先を探す>
長期にわたる議会審議の末、2月24日に可決にこぎ着けた「実態経済の回復を目指す法」は、大企業の工場閉鎖時に売却先を探すことを義務付けて事業の継続化を図るというもの。対象となるのは従業員1,000人以上の企業(子会社を含む)。主な内容は以下のとおり。

○事業所の閉鎖、集団解雇を計画する企業は、計画内容、売却先を探すための方策を従業員代表、行政監督機関に知らせ、企業委員会との諮問の間(注1)売却先を探す。
○企業は全ての買収提案に理由を付けて回答する。
○買収提案があった場合、企業は従業員代表の企業委員会に8日以内に通知する。
○企業委員会が売却先を探すことを希望する場合、企業は必要な情報を与える。
○企業委員会は、企業負担で売却先を探すための専門家の援助を受けることができる。
○企業委員会は、企業が売却先を探すことを怠るか、あるいは正当な理由なく買収提案を退けたと判断した場合、商業裁判所へ提訴できる。
○商業裁判所は、企業が売却先を探すことを怠るか、あるいは事業全体の継続を危険にさらすといった正当な理由なく売却を拒否したと判断した場合、企業の年間売上高の2%を上限とし、解雇する従業員1人につき最高で月額法定最低賃金(SMIC、注2)の20倍(約2万9,000ユーロ)の罰金を科すことができる。また、閉鎖に先立つ2年間で企業が受けた公的援助の返済を要求することができる。

<法律には敵対的TOBの防衛策も>
同法には以下の敵対的TOBの防衛策も盛り込まれた。

○2年以上株を保有している株主に2倍の議決権を付与。
○対象企業の過半数の株式・議決権を取得できなかったTOBは無効。
○TOBにおける企業委員会の権限強化(公認会計士に調査を依頼できる、買い付けの申し込みに関する情報が足りない場合は大審裁判所に情報請求の命令を申請できるなど)。
○全従業員に配布する無料の株式付与の上限を30%に引き上げ。
○取締役会など企業の業務執行機関は、TOBの防衛策を決定できる。

急速な買い付けによる経営権の掌握を避けるため、当初法案に盛られた「公開買い付けを義務付ける議決権・株の保有率を30%から25%に引き下げる」という条項は、EU域内で30%未満の国はほとんどないとの理由で削除された。

<鉄鋼大手の労働争議が立法のきっかけに>
法律ができるきっかけとなったのは、鉄鋼の大手アルセロール・ミタルのロレーヌ地方にあるフロランジュ工場の労働争議。同工場では、欧州債務危機による鉄鋼需要の回復が見込めないことを理由に2011年から高炉の稼働を休止、アルセロール・ミタルと従業員の間で高炉の完全閉鎖をめぐり争議が続いていた。2012年2月には、大統領選挙キャンペーン中のオランド大統領が同工場を訪問、工場の閉鎖を計画する大企業に対し工場売却を義務付ける法案の提出を従業員に約束していた。

オランド大統領は大統領選挙の公約の1つに黒字企業のリストラ阻止を掲げたが、政府の方針に沿った法案が与党の社会党を中心とする議員団により提出されたのは、大統領就任1年後の2013年5月13日。フロランジュ工場で約束していた工場売却の義務付けは憲法違反になる恐れがあるとされ、法案は売却先を探すことを義務付ける内容にトーンダウンした。

同法案は2013年10月1日、国民議会(下院)で285対215の賛成多数で可決されたが、2014年2月4日、上院では159対166で否決された。両院の採決が一致しない場合に設置される両院同数委員会でも合意を得られず、紆余(うよ)曲折の末、2月24日に国民議会(下院)の最終審議でようやく可決された。

<野党の国民運動連合は違憲として提訴>
同法の審議が長引いたのは、法案が左右両派から批判され合意を得られなかったことが原因だ。左派の共産・共和・市民グループは、法案が形式だけの内容で工場閉鎖、リストラ回避の抑止力となるものではないと批判。国民運動連合(UMP)を中心とする野党は、法案が企業の自由を侵害するものと反対していた。2013年4月にはフロランジュ高炉は完全閉鎖され、売却先が見つからない場合は工場の一時国有化を望んでいた労働組合も失望した。

日本の経団連に当たるフランス企業運動(MEDEF)のティボー・ラングザド起業・成長部長は「行政手続きの簡素化、責任協定(2014年1月29日記事参照)を協議している中での同法の可決は理解できない。外国企業、企業家へ危険信号を送るものだ」と批判した。

UMPは2月27日、同法が企業の自由、刑罰の平等性に関し憲法に違反するとして憲法評議会に提訴した。

(注1)企業委員会の諮問期間は、解雇対象者の人数により、2ヵ月(10人以上99人以下)、3ヵ月(100人以上249人以下)、4ヵ月(250人以上)と異なる。
(注2)月額SMICは2014年1月1日現在1,445.38ユーロ。

(奥山直子)

(フランス)

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