雇用創出と引き換えに企業の社会保険料負担を軽減−オランド大統領が提案−

(フランス)

パリ事務所

2014年01月29日

オランド大統領は1月14日、2012年5月の就任以来3度目となる記者会見を開き、2014年の経済政策の柱を説明した。その中で大統領は「フランス経済の問題は生産(の縮小)にある」と述べ、企業活動の活性化に向け社会保険料の軽減など一連の政策を実施する方針を示した。

<家族手当に関わる企業の社会保険料を撤廃>
オランド大統領は「2014年のフランスの課題は景気回復だ。それは企業の活性化により達成される」とし、「問題は生産(の縮小)にある」との観点から、供給側(サプライサイド)への対応に力を入れる政策に切り替える意向を明らかにした。

具体的な政策の目玉として、政府が企業の税負担や事業に関わる行政手続きを軽減する見返りに、企業に対して雇用創出や労使協議の活性化を求める「責任協定」の策定を提案した。同協定は4つの柱からなる。第1の柱は労働コストの軽減。2014年から賃金支払総額の4.0%(2015年6.0%)を法人税から控除する「競争力・雇用税額控除(CICE)」が適用されるが、大統領は新たに「2017年までに企業および個人事業主に対し、家族手当に関わる社会保険料(賃金総額の5.4%)を撤廃する」方針を示した。

税・社会保険料の軽減により企業の収益率を引き上げ、設備投資余力の改善につなげたい考えだ。大統領は家族手当に関わる社会保険料の撤廃により「総額300億ユーロの軽減が可能になる」と指摘した。同措置が実施された際のCICEの存続や家族手当の新たな財源などは、今後関係者との議論により詰める。

責任協定の第2の柱は税制の透明性強化で、大統領は「2017年までの法人向け税制改正について道筋を明らかにする」と述べた。第3の柱は企業活動に関わる行政手続きの簡素化で、これについては「2014年4月にも具体的な政策を発表する」と語った。

第4の柱は、政府によるこうした政策に対する企業側からの「見返り」の部分で、大統領は「新規雇用者数、若年雇用および高齢者の雇用者数について目標値を設定することになるだろう」と述べた。

<歳出削減を財政再建の柱に>
大統領は1月3日、政府閣僚向け新年あいさつの中で「国民の税負担は限界に達しており、今後の財政再建は(増税ではなく)国、地方自治体、社会保障会計における歳出削減が柱となる」と指摘していたが、今回の会見でも「2014年の150億ユーロの歳出削減」に続き、「2015年から2017年の3年間に、およそ500億ユーロの歳出を追加削減する」方針を確認、「構造改革、国の事業集約などにより目標を達成する」と述べた。大統領は「(社会保障制度や公共サービスなど)フランス型社会モデルを維持しながら、歳出を削減することは可能だ」として社会保障制度の抜本的な改革には慎重な姿勢を示す一方、地域圏の統合など地方行政の改革による歳出削減を検討する方針を明らかにした。

欧州政策について大統領は「欧州の未来はフランスの未来だ」との認識を強調。EUが導入した「成長・雇用戦略」や「欧州銀行同盟」を評価するとともに、「欧州経済の回復には、独仏による経済・社会面でのさらなる協調が必要になる」との見方を示した。大統領はドイツの法定最低賃金導入を歓迎するとともに、今後は法人税制に関わるドイツとの協調の必要性を指摘した。

<責任協定を評価する声が多い>
欧州委員会は1月15日、オランド大統領が発表した「責任協定は2013年に欧州委がフランス政府に提案した政策ラインと一致する」とし、「こうした政策はフランス企業の競争力を高め、成長と雇用を押し上げるだろう」と評価した。欧州委は2013年5月、財政赤字比率の目標(GDP比3.0%未満)達成期限を2015年まで2年延長する代わりに、フランス政府に対し経済改革を加速するよう求めていた。

国内の報道でも「オランド大統領は初めて明確な政策ラインを打ち出した」「経済政策運営を(改革を重視する)社会民主主義にかじを切った」など好意的に受け止める向きが多い。ただし、経営者団体であるフランス企業運動(MEDEF)のピエール・ガタズ会長は、今回発表された政策について「フランス経済の現実を考慮しており、正しい方向を向いている」とする一方、責任協定による企業のコスト軽減については「(企業に対する雇用面での目標設置など)具体的な内容を明確化する必要がある」と慎重な姿勢を示した。

責任協定の導入日程について、オランド大統領は「2014年1月21日に協定策定に関する協議を開始、1月末までに首相府に法人税制に関する会合を立ち上げる。社会保障制度の財源確保については、2月末までに首相府の社会保障財政最高審議会が報告書を作成する。これを基に春(3月下旬〜6月下旬)に関係者を集めた協議を開催し、協定の具体的内容について取りまとめる」と語った。2014年秋に成立する2015〜2017年の中期財政計画に組み込みたい考えだ。

(山崎あき)

(フランス)

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