EU、カナダとの包括的経済・貿易協定で原則合意

(カナダ、EU)

ブリュッセル事務所

2013年10月21日

欧州委員会は10月18日、EUとカナダの包括的な経済・貿易協定(CETA)が原則合意に達したと発表した。一部の項目で交渉が難航する中、トップ協議により政治的打開を図った格好だ。欧州委はCETAにより、ほぼ全ての品目で関税が撤廃されるほか、特に金融サービス、通信、エネルギー、輸送分野でのサービス貿易の自由化、欧州企業のカナダの政府調達へのアクセス改善、特定の地理的表示(GI)のカナダ市場での保護が実現することを強調している。

<交渉が難航、トップ協議で政治的妥結>
欧州委員会は10月18日、バローゾ委員長とカナダのスティーブン・ジョセフ・ハーパー首相との間で、EUとカナダのCETAの主要な項目について政治的合意に達したことを発表した。今回、双方のトップ同士の協議により、難航するCETA交渉の前進に向け、政治的妥結を図った。

CETAは当初、2012年末の妥結を目指していたが、EU側が求めるEU産チーズの無税扱い割当枠の拡大、カナダにおける医薬品の知的財産権保護の強化、センシティブな分野の政府調達へのアクセス改善、カナダ側が求めるカナダ製自動車に対する関税の低減・撤廃、カナダ産牛肉と豚肉のEU市場へのアクセス改善をめぐり協議が難航していた(2013年4月25日記事参照)

CETAはEUにとって、主要8ヵ国(G8)との初めての自由貿易協定(FTA)となる。カナダとの貿易促進により、EUにおいて新たな成長と雇用機会が創出されると期待されている。CETAにより、双方間の財・サービス貿易が22.9%に相当する257億ユーロ増加するほか、EUのGDPが年間で約120億ユーロ増加することが見込まれている。

今回の合意は原則合意であり、この政治合意をベースに双方の交渉官が交渉を継続し、残っている全ての技術的な課題の解決を図る予定。続く最終合意の後に、協定のテキストの調整が行われ、EU閣僚理事会(理事会)の承認を経て正式署名となる。正式署名後は、欧州議会での承認や批准手続きを経て、協定が発効する。CETAの発効は早くても2015年以降になるとみられている。

<ほぼ全品目で関税撤廃>
欧州委が発表した、EU側からみたCETAの主な項目は次のとおり。ただし、詳細内容は正式署名後に発表される協定テキストで確認する必要がある。

(1)関税撤廃:協定発効後、ほとんどの品目で速やかに関税を撤廃する。全体として、双方の全ての関税品目の99%以上で関税を撤廃する。

○工業製品関税:EUの輸出業者にとって年間で約5億ユーロの関税が節約される。言い換えれば、EUの輸出業者がカナダ市場で商品を販売する際の関税費用が軽減される。
○農業関税:EUの農産物・農産加工品にとって、カナダは年間29億ユーロ以上の売り上げをもたらす重要な輸出市場となっている。協定発効時に速やか、かつ大規模に農業関連の関税が撤廃される予定。移行期間が終了するまでにカナダとEUは、農産物・農産加工品の関税品目のおのおの92.8%と93.5%までをそれぞれ自由化する予定。

カナダにとっての乳製品、EUにとっての牛肉、豚肉、スイートコーンといったセンシティブ品目については、それぞれが関税分類品目の1%と1.9%分上積みとなるよう関税割当を増やすかたちで、新たな市場アクセスを供与することで合意した。

特にEUにとって関心が高く、カナダに対して輸出超過である調理済み食品については、野心的な成果になるとしている。全ての調理済み食品の関税が撤廃されれば、当該産業はCETAから大きな利益を得ることになる。また、調理済み食品の中でもワイン・スピリッツ類は輸出との関係で特別にメリットがあるとしている。EUはカナダにとってワインの主要な供給源であり、カナダのワイン輸入の約半分はEUからだと強調している。EUのワイン・スピリッツ類のカナダ市場へのアクセスを大きく改善するその他の貿易関連障壁の除去が、関税撤廃を補完するものとなる。

○漁業:ほとんどの関税が協定発効時に撤廃される。関税以外に、EU加工産業のカナダの魚介類へのより良いアクセスなど、EU企業の関心がある事項も含んでいる。特に、モニター、管理、監視措置、違法・無報告・無規則(IUU)漁業対策の点で、持続可能な漁業を発展させる。

<適合性評価手続きの改善でEUのGDPが年間290億ユーロ増加>
(2)非関税障壁(NTBs):貿易の技術的障害の項目には、技術的な規則における透明性の改善と、EU・カナダ間の緊密な連絡を強化する規定が含まれている。双方は関係する標準策定機関同士の関係を一層強化することでも合意している。

協定書の付随書(プロトコル)で、双方の適合性評価承認の改善を図る。技術規制や標準、適合性評価手続きを満たす費用を削減することで、CETAが貿易を促進し、産業界全体に利益をもたらすものにする。試算によれば、これによりEUのGDPは年間で290億ユーロ増えるとしている。

○自動車分野:カナダはEUの自動車標準の承認を検討する。これにより、カナダへの自動車輸出が容易になる。
○衛生植物検疫措置(SPS):CETAは現行のEU・カナダ獣医協定を強化するとともに、EUの植物・植物製品輸出業者にとって、より予見可能な環境を創出する。

(3)サービス貿易:EUにとって、GDPの約半分はサービス貿易の自由化から得られると期待されている。CETAは、金融サービスや通信、エネルギー、海上輸送のような主要分野でカナダ市場へのアクセスを創出することにより、欧州企業に新たな機会をもたらす。協定が完全に実施されれば、EUのGDPは年間で最大58億ユーロ増えるとしている。

○企業従業員の一時的派遣(移動):サービス貿易と投資を支えるために、CETAは企業の従業員がEUとカナダ間を一時的に移動することを容易にする。

エンジニアリングや会計、建築のような特定分野の専門職がコンサルティングサービスを一時的に提供することも容易にし、販売後のメンテナンスや監視を簡素化する。

○資格の相互承認:CETAは、建築家やエンジニア、会計士のような専門職資格の将来の相互承認の枠組みを提示している。現時点では、特に国境を越えたサービス提供の際に、専門職の一貫した要件が欠如している。CETAの枠組みの下で、EUとカナダの専門職や当局が、相互承認のための技術的詳細について共同作業を行い、その成果を取り入れることもできる。

<リスボン条約を踏まえ、CETAに投資家保護規定も挿入>
(4)投資:EUとカナダの外国直接投資残高の合計は、2011年で3,600億ユーロに達しており、EUとカナダの経済関係の主要な柱の1つになっている。協定は全体と特定分野の双方で投資障壁を除去あるいは緩和し、ビジネスのための法的確実性と予見性を改善する。リスボン条約によりEUが投資に関する交渉権限を得た結果、欧州委はカナダにおける、無差別で、公平かつ公正な扱いと、収用権を行使する際の適切な賠償を保証するEUの投資家保護規定を盛り込んだ。これは既存の2国間投資協定において、EU加盟国の中で最良の慣行に沿ったものになっている。同時に、投資家保護規定は、EUとカナダの双方が公共政策目標を調整、実施する権利を十分に保護している。投資家保護義務を補強することは、投資家対国家の紛争解決の有効なメカニズムになる。

<欧州委、公共調達とGIでの成果を強調>
(5)公共調達:連邦政府より下位の全てのレベルでの調達市場を2国間で開放することを約束したのは初めてであり、CETAは新境地を開拓した。EUとカナダの共同研究(2008年)によれば、連邦政府レベルで認められた全体の契約額は年間150億〜190億カナダ・ドル(約1兆4,250億円〜1兆8,050億円、Cドル、1Cドル=約95円)と見積もられていた。政府の他のレベルの契約額全体はこれらの数字を大きく上回るとみられている。例えば、2011年のカナダの地方自治体の調達額は、カナダのGDPのほぼ7%に当たる1,120億Cドルと見積もられていた。

カナダはまた、全ての入札に関する情報と全政府レベルの公共調達へのアクセスを統合する「単一電子調達ウェブサイト」を立ち上げる。これにより、欧州の供給者にとって、カナダの調達市場で競争することがより簡単になる。

(6)知的財産権:CETAはEUとカナダの間で、より対等な競争環境(レベル・プレイング・フィールド)をつくり出す。協定は特にカナダの医薬品に関する知的財産権制度の発展に役立つものとなる。知的財産権の項目はまた、とりわけ商標やデザイン、著作権に関する規定も含んでおり、全体として、知的財産権保護のための高い水準を反映したものになっている。

(7)GI:CETAはGIと呼ばれる特定の地理的起源を持つ多くのEU農産品リストに対して、カナダ市場での特別な地位を承認し、保護する。例えば、EU側のグラナ・パダーノ(イタリア北部ポー川流域で生産されるハードチーズ)、ロックフォール(フランス南部ミディ=ピレネー地域圏アベロン県産の青カビチーズ)、カラマタオリーブ(ギリシャ・カラマタ産オリーブ)、アセト・バルサミコ(イタリア・モデナ産アセト・バルサミコ酢)などが、カナダ市場におけるGIとして認められた。

また、協定は将来的にGIリストに他の製品の名称を追加する可能性に触れている。加えて、パルマのプロシュート(イタリア・パルマ産の生ハム)やサンダニエルのプロシュート(イタリア・サンダニエル産の生ハム)のような、いくつかの著名なEUのGIは、カナダで販売する際に使うことを認められた。

<紛争解決メカニズムや持続可能な開発の項目も整備>
(8)紛争解決メカニズム:CETAは、協定のほとんどの分野をカバーする効率的で合理化された水平的なメカニズムを提供している。このシステムは、他の手段による協定の規定の解釈や実施に関する食い違いの解決に失敗した場合、最後の手段となる。決められた手続きと時間の枠組みに沿って進められる。公式な協議を通じた合意形成に失敗した場合、独立した法律専門家を入れた仲裁パネルの設置を要請できる。

○調停:EU・カナダ間の貿易と投資に有害な影響を与える措置に取り組むため、任意の調停メカニズムも用意されている。

(9)持続可能な開発:EUとカナダはCETAにおいて、持続可能な開発の原則を繰り返し確認している。このことは、投資や貿易関係が環境や社会、労働者の権利を犠牲にして発展させるべきではなく、それよりも経済成長や社会発展、環境保護の相互支援を促進すべきことを意味している。

貿易と持続可能な開発の項目は、関連規定の実施や監視に、EUのさまざまな代表者やカナダの市民も関与し、政府協議や専門家パネルを含む仲裁メカニズムを伴う、効果的なメカニズムを設けている。

なお、カナダは米国と北米自由貿易協定(NAFTA)の下で既に貿易自由化を実現しているが、EU企業はCETAにより、カナダ市場で米国の輸出業者と対等な競争環境で競争できるようになる。さらに、EU企業は政府調達や海上輸送のような特定のサービス分野で、NAFTAを超えた優遇措置により、利益を得られると欧州委は強調している。

(田中晋)

(EU・カナダ)

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