メルケル首相率いるCDU/CSUが第1党を維持−連立政権樹立を模索−
ベルリン事務所
2013年09月26日
連邦議会(下院)選挙が9月22日に実施され、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第1党を維持する一方で、現在連立を組む自由民主党(FDP)は議席獲得に必要な得票率5%に届かなかったため議席を失った。連立パートナーを失ったCDU/CSUは、社会民主党(SPD)もしくは緑の党との連立政権樹立の道を模索するとみられている。
<CDU/CSUは1994年以来最多の得票率に>
公式の暫定開票結果を政党別にみると、メルケル首相率いる中道右派のCDU/CSUが1994年以来最多の得票率41.5%(311議席)で大幅に議席を伸ばし、第1党の座を守った(表1、表2参照)。野党のSPDが25.7%(192議席)、左派党は8.6%(64議席)、緑の党は8.4%(63議席)となっている。投票率は71.5%(前回70.8%)だった。
選挙前の各種メディアによる世論調査でも、CDU/CSUは一貫して第1党の座を維持していたが、電力価格の高騰や賃金格差拡大などの問題に対して批判がなかったわけではない。このような状況下でも高い支持率を保持できた最大の理由は、メルケル首相に対する人気が根強いことだ。選挙当日の世論調査によると、SPDのペール・シュタインブリュック首相候補の支持率が34%と低迷する中、メルケル首相は58%に達していた。また、メルケル首相のCDUだけでなく、ホルスト・ゼーホーファー氏率いるCSUが9月15日のバイエルン州議会選挙(2013年9月19日記事参照)での大勝に引き続き、連邦議会選挙でも同州で50%近い得票率を獲得したことが、保守連合(CDU/CSU)の圧勝に大きく寄与したとみられている。
出口調査の結果発表を受けて、メルケル首相は党本部で支持者を前にスピーチを行い、「次の(任期)4年間もドイツを成功に導くために全力を尽くす」と勝利宣言を行った。
<歴史的な大敗を喫した連立与党のFDP>
一方で、CDU/CSUと連立を組むFDPは前回の得票率(14.6%)を大幅に下回る4.8%にとどまり、小党乱立を防ぐ5%条項(議席獲得には5%以上の得票率が必要)に抵触し、第二次大戦後初めて議席を失った。FDPは9月15日のバイエルン州議会選挙でも議席を失っている。
世論調査によると、前回の連邦議会選挙(2009年9月29日記事参照)でFDPに投票した有権者のうち90%が「多くの公約がほとんど実行されなかった」と回答しており、FDPの敗因は「実行力の欠如」だといわれている。具体的には、公約(2009年7月15日記事参照)としていた所得税改革による減税を実行できなかったことが挙げられる。
また、現政権への満足度調査では、CDUが57%、CSUが43%と高評価を受けているのに対して、FDPは12%にとどまっており、現政権が達成した堅調な財政と経済成長はCDU/CSUの成果、との見方が大勢を占めていることも要因だ。
FDPのフィリップ・レスラー党首とライナー・ブリューデレ選挙対策委員長は、出口調査の発表後、支持者を前に敗北の責任を取ることを表明し、9月23日の党幹部会の場で辞任する意思を明らかにした。なお、現在の第2次メルケル内閣では、経済・技術相、外相、司法相、保健相および経済協力・開発相がFDPから選出されており、これらの政策が今後どのように変化していくのかが注目される。
<反ユーロ政党AfDが健闘、左派党は旧東ドイツ地域で存在感>
また、2013年4月に結党されたばかりの反ユーロ政党AfD(ドイツのための選択肢)が4.7%の得票率を獲得したことは国内で驚きを持って受け止められた。AfDは経済学者やCDU、FDPの元政治家が立ち上げた政党で、「ドイツはユーロ圏から脱退し、ドイツ・マルクを再導入すべき」と主張している。同党は、国内で反グローバリズムを掲げる層の票を取り込んだことにより伸長したとみられている。
左派党は8.6%と前回の11.9%から得票率を落としたが、FDPが議席獲得に失敗したため、CDU/CSU、SPDに次ぐ第3党となった。同党は社会主義を主張しており、歴史的に旧東ドイツ地域での支持者が多く、今回の連邦議会選挙でもこれら地域の小選挙区で高い得票率を獲得するなど、同党は旧東ドイツ地域の不満を代弁しているとみられている。
<CDU/CSUの連立相手の第1候補はSPD>
FDPという連立相手を失ったCDU/CSUは、最大野党のSPDもしくは緑の党との連立政権樹立の道を模索するとみられている。
CDU/CSUとSPDの大連立は、選挙前から最も有力視されていた枠組みで、両者は2005年10月から2009年9月までのメルケル首相の第1期政権で連立を組んだ実績もある。CDU/CSUは中道右派、SPDは中道左派に分類されるが、両者の政策には大きな相違はないとみられている。実際に、連立の枠組みに関する世論調査では、最多の57%の有権者が大連立を支持している。
一方、SPDのシュタインブリュック首相候補は、選挙前から「メルケル首相の下で副首相にはならない」と明言しており、これまで大連立の可能性を否定してきた。また、同首相候補は出口調査発表後の党本部でのスピーチで、「過半数確保の道を模索しなければならないのはメルケル首相の方だ」と強調し、SPDの方から連立交渉のアプローチはしないことを暗に示した。このように大連立に対して消極的な姿勢を崩さない理由は、前回の大連立の際にSPDの政策の多くがCDUに取り込まれて「社会的公正の実現」をモットーとする同党の存在感が著しく低下し、多くの支持者を失った経緯があるためだと考えられている。
なお、9月23日の記者会見でメルケル首相は、ジグマール・ガブリエルSPD党首と電話協議を行ったことを明らかにした。同党首は、9月27日にSPD党幹部による会合を開催する必要があるという考えを示したようで、これに対してメルケル首相は「この会合の結果を待ってから、SPDとの交渉を開始する予定」と発言している。
他方、CDU/CSUと緑の党との連立政権は、実現の可能性が低いとみられている。ハンブルクで連立政権を組んだ経験はあるものの、国政レベルでの連立政権の実績はないからだ。これに加えて、緑の党が公約として掲げる増税や環境政策をCDU/CSUが受け入れるかどうかについても不透明だ。なお世論調査でも、CDU/CSUと緑の党との連立政権を支持する有権者は27%にとどまっている。
また、CDU/CSUがSPDおよび緑の党との連立交渉に失敗した場合、野党陣営のSPD・緑の党・左派党が連立交渉を開始する可能性もゼロではないが、選挙前からSPDと緑の党はともに左派党との連立を否定している。
この結果、CDU/CSUのイニシアチブによる連立政権樹立には、困難な道のりが予想されており、次回の連邦議会(11月11〜15日)までに間に合うかどうか不透明な状況だ。なお、前回2005年の大連立交渉は選挙日から65日間の日数を要した。
<ヘッセン州議会選挙でもCDU/CSUが第1党>
連邦下院選と同日に行われたヘッセン州議会選では、CDUが得票率38.3%で第1党を維持したが、現在同州でも連立与党のCDU/FDPの議席数は過半数に届かないため、こちらも新政権樹立を模索するとみられている。連邦参議院(上院)の議席数・与党は表3のとおり。なお、連邦参議院は各州政府(全16州)から各州政府の意思を連邦政府に反映させるために派遣されている。
<早期の連立政権樹立を求める経済界>
連邦議会選挙の結果を受け、産業界を代表するドイツ産業連盟(BDI)のウルリッヒ・グリロ会長は「クリーンで安価なエネルギー供給を実現するための再生可能エネルギー法(EEG)の改正、積極的な投資の強化およびユーロの安定・通貨統合の深化」を要求する声明を発表した。また、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のエリック・シュバイツァー会頭も同様に「EEGの抜本的な改正および増税の反対」を求めた。このように、産業界はCDU/CSU・FDPの連立与党が実施したエネルギーシフトによって電力価格が高騰したことを指摘しており、新政権は再生可能エネルギーの推進と競争力を保つエネルギー価格のバランスをどう取るのか、という問題の解決を求められる。
なお、総選挙の株式市場への影響も注目されていたが、9月23日のドイツ株式指数(DAX)は前営業日比0.47%の下落という結果となり、当地では「株式市場はメルケル首相とCDU/CSUの勝利にほとんど反応を示さなかった」(「ハンデルスブラット」紙9月23日)との見方が大勢を占めている。一方で、同紙は「連立交渉が難航すれば、株式市場に悪影響があるだろう」との株式関係者の見解を掲載した。また、保険大手アリアンツのチーフエコノミスト、ミヒャエル・ハイゼ氏は「一刻も早い新政権の樹立が市場にとって非常に重要だ」と同様の意見を述べているほか、ドイツ青年経営者連合(WJD)のザンドール・モハージ代表は「ドイツは欧州経済全体に安定をもたらす存在であり、政治的な駆け引きが原因で政権樹立が遅れることはあってはならならい」と発言するなど、経済界からも新政権の早期発足を求める声が多い(「ハンデルスブラット」紙9月23日)。
(望月智治、ユリア・クリューガー)
(ドイツ)
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