永住ビザへの切り替えに1年ほど要することも−法務・労務・税務勉強会(1)−
サンパウロ事務所
2013年08月28日
ジェトロはブラジル日本商工会議所と共催で、在サンパウロ日本総領事館の協力の下、日系企業の海外展開を支援する「海外展開プラットフォーム」事業の一環として、煩雑かつ複雑なブラジルの法務・労務・税務などを学ぶ勉強会(全6回)を開催した。その内容を4回に分けて紹介する。第1回勉強会(7月16日)のテーマは、入国法(ビザなど)の基礎と参加者から共有された最近の運用状況。就労ビザを永住ビザに切り替えるには、滞在期間が切れる4ヵ月前までに申請するよう当局が求めたという。
<駐在員や長期出張者に関するビザの基本>
近年、日本企業においては、駐在員の増員や長期出張者が増えている。こうした中、最初にぶつかる壁の1つがビザだ。発給に係る運用面で大きな課題を抱えており、進出日系企業の間でもその対応に苦慮する状況が本勉強会においても確認された。ブラジルでの円滑なビジネスを進める上で、適切なビザの取得と、煩雑な運用を前提とした対応策について紹介する。
日本企業の駐在員や長期出張者がよく利用するビザとして、商用ビザ、研修生ビザ、就労ビザ、永住ビザがある。商用ビザは出張者などに対して発給され、日本人に対しては最大3年間のマルチビザが発給される。同ビザによるブラジル滞在期間は入国日から通常90日間だが、滞在期間終了の30日前までに手続きを行えば、最大180日まで延長できる。なお、両国の法人間の契約・協約に基づいて行われる技術指導、機械の整備などを目的とした出張については就労ビザの扱いとなり、90日間有効となる。2013年4月から、就労ビザの申請については直接、在日ブラジル総領事館でも申請できるようになった。また、通常30〜60日を要する労働省の許可が不要となり、ビザ発給期間が短縮された。
就労ビザは、役員ではなく労働者の立場で赴任する駐在員が主な対象で、最長2年間有効。2012年12月から、それまで認められていた2年間の延長はなくなり、その代わりに永住ビザへの切り替えが可能となった。これにより、駐在員の駐在期間の制限が事実上なくなった。
ブラジル法人の役員に任命される駐在員は永住ビザの取得が必要だ。ブラジルに招く役員1人当たり60万レアル(約2,500万円、1レアル=約41.2円)の投資が必要となる。ただし、2年以内に10人以上のブラジル人従業員を雇用する場合(新規投資から2年間、あるいは既進出企業が2年間で10人の雇用を純増させた場合)は、投資額は15万レアルでよい。
<進出日系企業の抱える課題と疑問>
今回の勉強会で、ビザに関する進出日系企業が抱える課題や疑問が明らかになった。就労ビザについては、発給審査が厳しくなってビザが下りにくくなっていること、永住ビザへの切り替えがスムーズにいっていないことが報告された。
就労ビザの発給審査については、ある日系進出企業が「ここ最近、特にブラジル人以外である理由を強く求められるケースが増えている。例えば、技術者であっても、その技術がどの程度特別なものなのか、と尋ねられることがある。中には、就労ビザが下りないケースも出ている」と報告した。就労ビザ発給申請に当たっては、こうした点についての説明が従来以上に求められているようだ。
また、就労ビザの永住ビザへの切り替えについて、法律上は滞在期間が切れる30日前までに申請しなければならないとある。しかし、勉強会参加企業は「申請窓口に行ったところ、4ヵ月前までに申請してほしい、と要請された」という。実際の運用状況について参加企業に聞いたところ、最短で取得できた企業でも6ヵ月を要しており、多くの企業が9ヵ月〜1年ほどかかっていると分かった。また、切り替え申請中の海外渡航の扱いについて申請窓口で聞いたところ、「ブラジルへの再入国は保証しない」と言われた企業もあった。多くの企業は、ブラジル国外への出張を控えたり、国外に出た際に観光ビザを取得したりして、不測の事態に備えていると報告した。
永住ビザについては、2年間ブラジルを不在にすると失効するとともに、会社を辞めた場合も失効する。また役員が新たに赴任する場合は、永住ビザの取得のみならず、(役員の名前は定款に記載されるため)定款の変更も必要になる。サンパウロでは、同じ駐在員が再度ブラジルに駐在するケースなども多いことから、失効要件について高い関心が寄せられた。
今回の勉強会で講師を務めたジルセウ佐藤弁護士は「ブラジルでは、頻繁に制度変更が行われるだけなく、制度に見合った運用がなされていないケースも散見される。制度を把握するだけでなく、その運用状況に関する情報収集とそれを踏まえた対応が重要となってくる」と指摘した。
(井上徹哉)
(ブラジル)
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