不安定な雇用への罰則を強化−「雇用安定化法の進出日系企業への影響」セミナー(1)−

(フランス)

パリ事務所

2013年07月24日

ジェトロは7月4日、在フランス日系企業を対象に、「雇用の安定化に関する法律成立に伴う在仏日系企業への影響」に関する労務セミナーを開催した。法律事務所ランドウェルの横田文志ジャパンデスク責任者による講演を2回に分けて紹介する。1回目は労働者の雇用安定について。

<短期雇用の雇用コスト引き上げ>
雇用の安定化に関する法律は、企業の競争力強化と労働者の雇用安定に向けた労使間の合意に基づいて法制化された(2013年7月8日記事参照)

無期限雇用を原則とするフランスでは、短期契約の利用はa.継続的でない仕事、b.一時的な事業増加、c.従業員代替、d.季節労働、などに限られており、契約期間は原則として、更新1回を含めて18ヵ月と定められている。

労働市場の現状としては、利用に制限があるものの、短期雇用が多い。政府は企業による短期雇用の多用を抑えるため、2013年7月1日から短期雇用労働者の給与に係る失業保険の事業主負担を通常の4.0%から、雇用期間が1ヵ月に満たない契約については7.0%に、1ヵ月以上3ヵ月未満は5.5%に、それぞれ引き上げた。慣例的雇用(レストラン、ホテル、文化的活動など)に基づく短期雇用の場合は、3ヵ月未満で4.5%とする。ただし、欠勤従業員の代替契約、季節労働、終了後に無期限契約となる場合は適用されない。

また、若年層の正社員化を目的として、26歳未満の若年労働者を無期限契約で雇用した場合、失業保険の事業主負担分を、従業員50人未満は4ヵ月間、50人以上は3ヵ月間に限って免除する措置が導入された。

<短時間労働者の労働時間に下限設ける>
短時間労働者の労働時間は、週35時間を下回れば自由に定めることができたが、週当たりの最低労働時間を24時間に規定した。ただし、従業員が24時間未満を希望する場合は書面による本人からの説明を必要とする。また、契約時間の10%以内の残業については、10%の割増賃金を支払うことが定められた。これらの適用は2014年1月1日からだ。なお、適用時点で履行中のパート契約で、週労働時間が24時間未満のものは、その必要性を証明できる明確な理由があれば、2016年1月1日までは同契約を継続することができる。

<失業手当受給権利の合算が可能に>
失業手当は、直近28ヵ月(50歳以上は36ヵ月)のうち4ヵ月の勤務実績があれば給付対象となる。給付期間は最長24ヵ月(50歳以上は36ヵ月)の範囲で、勤務した期間の手当が給付される。失業手当の受給権利を残して再就職後、さらに失業した場合、現行では再就職前の受給権利と新しい受給権利を比較して、本人に有利な手当を受けることになっている。今後は、全国商工業雇用連合(UNEDIC)での労使間合意を行い、その後2014年1月1日から再就職前の権利と新しい権利を合算した手当の支給を受けられることになる。

<補足医療保険への加入義務付けで交渉>
医療基本料と公的保険還付額との差額、および公的保険で還付されない医療費の自己負担分の一部または全額を払い戻す補足医療保険は、大手企業においては加入しているところが多いが、零細企業では3割程度しか加入していないのが現状だ。

補足医療保険の加入を全労働者に義務付けることを目的として、2013年6月から業種別交渉を開始、2014年7月から組合代表のいる企業での交渉を開始することが義務付けられた。対象となる治療は、医療基本料と公的保険還付額との差額、入院費、歯科、眼科などの費用だ。交渉が決裂した場合、または所属する業界団体がない場合は、企業の決定に基づく補足医療保険を従業員に提案しなければならない。また、保険料の少なくとも50%は雇用主が負担しなければならない。適用は遅くとも2016年1月1日からとする。

退職後に失業保険の受給資格を持つ者(故意の重過失解雇を除く)に対する、補足医療保険・障害死亡保険の継続適用が、現行の最長9ヵ月から最長12ヵ月に延長される。補足医療保険は2014年6月1日から、障害死亡保険は2015年6月1日から適用される。保険財源は労使ともに、勤務期間中に支払った負担金でカバーすることになる。

<安全な転職を可能に>
勤続2年以上の従業員が、雇用主の合意の下に一定期間、他の企業で就労できる制度が導入された。他の企業での就労中は雇用契約の中断として扱われ、期限内であれば以前と同じ労働条件で復帰することが可能となる。従業員300人以上の企業が対象となり、他の企業に就労する期間は労使交渉で定められる。復帰を望まない場合は辞職と見なされる。

(後藤尚美)

(フランス)

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