企業の競争力強化のため、法人税負担を軽減−憲法評議会が「合憲」判断−

(フランス)

パリ事務所

2013年01月15日

憲法評議会は2012年12月29日、労働コスト削減のための法人税の税額控除に関する法律を「合憲」と判断した。この決定により、企業は2013年1月1日以降、月収が法定最低賃金の2.5倍(3,575.55ユーロ)以下の従業員の年間賃金総額(社会保険料込み)の6%相当を、法人税から控除できることになる。ただし、2013年の控除の対象となるのは4%相当。税控除の財源となる付加価値税(VAT)率の引き上げは、2014年1月から実施される。

<労働コスト削減の施策を急ぐ>
法人税の税額控除は、エロー首相が2012年11月6日に発表した企業の競争力強化による投資の活性化と雇用創出に向けた、「成長、競争力、雇用のための国家協約」の一環(2012年11月16日記事参照)だ。景気低迷や雇用悪化を受け、労働コスト削減のための法令化を急いだ政府は、2013年初頭から施行可能にこぎ着けられるよう、法人税控除に関する法案を2012年11月27日に2012年第3次補正予算法の修正案に盛り込んでいた。

ピエール・モスコビシ経済・財務相は「控除の対象となる法定最低賃金の2.5倍以下の給与所得者は、全体の85%に相当する。その(年間賃金総額の)6%相当を控除することで、雇用と競争力両方の問題に対処できる」と主張。また「急いで行動する必要がある」と補正予算案に組み込んだ趣旨を説明し、第3次補正予算法は2012年12月11日に国民議会(下院)を通過した。元老院(上院)の審議では、国民運動連合(UMP)や中道右派、共産党など野党の反対のため2回にわたり法案が否決されたが、12月19日の国民議会(下院)の最終決議において183対158で法案が可決された。しかし、反対する上・下院の野党UMPの議員らが法案の合憲性の審議を求め、憲法評議会に付託して判断を仰いでいた。

野党は「税額控除にかかる財源、経済効果についての調査が十分でない」と予算法の修正案による拙速な審議の末の可決を不服として提訴した。しかし、憲法評議会は「政府の財源負担について入手可能な情報および合理的に起こり得る予測を考慮すると、修正案は誠実と評価される」とした。また、税額控除による財政への影響についても「2013年の予算に影響を及ぼすものではない。また、いかなる原因であろうとも、予算法の変更が必要な場合、政府は議会に補正予算法案を提出できる」とし、法人税の税額控除に関する措置を「合憲」と判断した。

<財源となるVAT率引き上げは2014年から>
法人税は当該事業年度分を翌年支払う仕組みとなっていて、国の歳入に影響が出るのは2014年からとなる。政府は総額200億ユーロを見込む控除の財源の半分を歳出削減によって、残りをVAT率の引き上げおよび環境税の強化により確保するとしている。このため、2014年1月からVATの一般税率を19.6%から20%に、レストランなどの外食料金や住宅改修などにかかる軽減税率を7%から10%に引き上げる一方、生活必需品の食品などにかかる軽減税率は5.5%から5%に引き下げる。

法人税控除の対象となる企業は、法人税や所得税の支払い課税の対象となる全ての企業および協同組合。2013年1月1日以降に支給される給与を対象とし、企業は法定最低賃金(2013年1月時点で月額1,430.22ユーロ)の2.5倍以下の給与所得者層の年間賃金総額(社会保険料込み)の6%相当を法人税から控除できる。ただし、2013年の控除の対象となるのは4%相当。控除額は残業代を含める。

<控除額の超過分は3年間据え置き後、払い戻し>
税控除の額が支払うべき法人税の額を超える場合、超過分の金額は国に対する債権となり、その後3年間にわたり法人税の支払い分として据え置かれる。3年後にまだ超過分の残高がある場合、残高分は企業に払い戻される。新設の企業については、以下の場合について設立年およびその後4年間は即時払い戻しを要求することができる。

(1)資本金の最低50%を自然人が保有する新設企業
(2)資本金の最低50%を自然人が保有している企業が資本金の最低50%を保有する新設企業
(3)経営権を持たないベンチャーキャピタル、投資ファンド、地域開発企業、エンジェル投資家などが資本金の最低50%を保有している新設企業

また政府は、中小企業の資金繰りの円滑化を図るため、法人税の控除を翌年まで待たなくてもよいよう、新たに設立する公的投資銀行(2012年10月29日記事参照)の保証を基に、企業が銀行から税額控除分の融資を2013年内に受けられるようメカニズム(仕組み)を構築する予定だ。

<フォローアップ委が税控除の使途を監視>
控除分の使途については、法律で規定された目的に使用されたことを明らかにするために、年間報告書に明記する必要がある。また、「投資、研究、イノベーション、研修、採用、新たな市場調査、環境配慮およびエネルギーシフトに関する活動、企業活動の資金の再配分への努力を通じた競争力改善」を控除分の目的とし、「配当金の増額や役員報酬の増額への使用」を禁止している。

さらに、控除による労働コスト軽減分が、正しく法律に基づき投資および雇用促進に使用されている実施状況とその評価について監視するため、フォローアップ委員会を国・地方レベルで設置。フォローアップ委員会は労使および管轄官庁の代表により構成され、予算法案の議会提出(2013年9月)までに、その評価の結果をまとめた報告書を作成する。報告書の内容によっては、控除の措置が改定される可能性もある。

日本の経団連に当たるフランス企業運動(MEDEF)のパリゾ会長は「中小企業の経営者は雇用に対し非常に後ろ向きになっている。すぐに雇用の増加につながるとは思わないが、雇用意欲の減退に歯止めがかかることを期待している。それだけでも意義あることだ」と法人税控除措置に好意的な反応を示した。

(奥山直子)

(フランス)

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