増税を含む152億ユーロの緊急措置発表−想定外の赤字に公約覆す−

(スペイン)

マドリード発

2012年01月17日

ラホイ新政権は2011年12月30日、大規模な歳出削減や個人所得税引き上げを柱とする総額152億ユーロ規模の緊縮財政措置を発表した。11年の財政赤字のGDP比が目標を2ポイント上回る8%となったことから、12年末の目標達成に必要な削減幅は、当初の165億ユーロから400億ユーロに大幅に拡大した。

<個人所得税率を引き上げ、最高52%に>
財政再建を最重要政策とする新政権は11年12月30日、12年3月末までの暫定予算(11年予算の延長)を閣議で決定し、12年に89億1,498万ユーロの大規模な歳出削減を実施することを明らかにした。

公務員給与の実質引き下げ(引き上げ凍結と勤務時間延長)、自治州への特定交付金の打ち切り、研究開発(R&D)援助の削減、高速道路運営会社への投融資削減、介護保険の新規支給の一時停止、ODAの削減など、幅広い分野で支出をカットした。

他方、公約では実施を否定していた62億7,500万ユーロ規模の増税も実施する。このうち、3分の2近くを占めるのが、個人所得税(IRPF)だ。課税対象となる勤労所得への税率区分を従来の24、28、37、43、44、45%から、24.75、30、40、47、49、51、52%とする。最高税率52%は新設された課税ベース30万ユーロ以上の区分に適用される(注)。また、キャピタルゲイン所得に対する税率区分は従来の19、21%から21、25、27%になる。最高税率27%は、新設された課税ベース2万4,000ユーロ以上の区分に適用される。

また、市町村税の固定資産税も、税額を4〜10ポイント引き上げる(表参照)。

ラホイ新政権・総額152億ユーロの財政再建策第1弾

<財政赤字のGDP比は目標を2ポイントも上回る>
増税について、サンタマリア副首相は「11年の財政赤字が目標を大幅に上回るGDP比8%前後に達することが判明したため、想定外の特別措置が必要になった」と釈明。「年金受給者や失業者以外の、収入のある国民に所得の規模に応じた負担をお願いしたい」と理解を求めた。

11年の財政赤字目標はGDP比6.0%(10年の9.2%から3.2ポイント削減)に設定されており、ラホイ首相は首相指名演説で、あくまでもこの数値が達成されるという前提で、12年中に165億ユーロの緊縮財政策を行うという総選挙の公約どおり、増税はしないと明言していた(2011年12月26日記事参照)

この目標が達成困難なのは半ば公然の事実になってはいたものの、目標と実態の間に2ポイントもの差があるとは一般には予想されていなかった。新政権に代わり、実際にふたを開けてみた結果、12年の財政赤字目標を達成するには165億ユーロではなく400億ユーロ規模の歳出削減が必要なことが判明し、その結果増税せざるを得なくなった、と政府は増税に踏み切った理由を説明している。

サンタマリア副首相は「今回の緊縮策は、まだ手始めにすぎない」と明言しており、3月に成立予定の12年本予算ではさらに踏み込んだ措置を取るとみられる。なお、モントロ財務・公共行政相は、付加価値税(VAT)率の引き上げは、短期的には行わないほか、近日中に中小企業への減税措置も行う予定だとしている。

なお、1月5日の閣議では、さらなる歳入確保・歳出削減のため、脱税取り締まり強化(目標は約80億ユーロの税収増)や公営企業の合理化を進める方針を決定した。公営企業(団体)は現在約4,000あるが、その9割近くが自治州や市町村による運営。政府は自治州に対し、まず全体の2割削減を働き掛ける意向だ。

<市場は対策よりも赤字の大きさに反応>
こうした大規模な対策の発表にもかかわらず、年明けからスペイン国債(10年物)のドイツ国債に対する利回り格差は11年12月21日の新政権発足時(305ベーシスポイント)から25%近く高い水準で推移している。背景には、欧州債務危機の先行き懸念が根強いことに加え、11年の財政赤字が目標を2ポイントも上回っていた事実の方が、対策よりも市場に驚きを与えたことがある。

就任以降沈黙を守ってきたラホイ首相は1月10日、報道機関のインタビューに初めて応じ、「約200億ユーロの新たな赤字浮上により、実際の財政赤字GDP比が目標を2ポイントも上回っていたことを知ったのは就任1週間後。増税は苦渋の決断だったが、失業者や年金生活者に現在以上の打撃を与えるようなVAT税率の引き上げには踏み切れず、この選択肢しかなかった。これは12年と13年の2年間だけの辛抱であり、スペインへの信認を取り戻す上で不可欠な措置だ」(エフェ通信)と述べた。

(注)自治州は部分的に税率を独自に設定できる権限を持っており、特に最高税率は州によりばらつきがある。税率を変更していない大部分の自治州では52%だが、4ポイントの引き上げを行ったカタルーニャ州では56%とスウェーデンなみの高税率になる。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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