S&P、ユーロ圏9ヵ国の長期国債を格下げ

(ユーロ圏、EU)

欧州ロシアCIS課

2012年01月16日

格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は1月13日、ユーロ圏16ヵ国の国債格付けを発表し、9ヵ国の長期国債を格下げした。フランスは最上格のAAAからAA+へ1段階下がった。ポルトガルはBBB−からBBと2段階格下げとなり、投資不適格となった。長期見通しでは、ドイツ、スロバキア以外の14ヵ国がネガティブとなり、今後の格下げの可能性を残した。

<フランスが最上格から1段階下がる>
S&Pは今回の発表で、キプロス、イタリア、ポルトガル、スペインの4ヵ国を2段階格下げ、オーストリア、フランス、マルタ、スロバキア、スロベニアの5ヵ国を1段階格下げした(表参照)。

フランスとオーストリアはAAAからAA+となり、最上格を失った。IMFなどから財政支援を受けているポルトガルはBBB−からBBと2段階の大幅な格下げとなり、投資不適格(注)になった。また、長期国債の利回りが高水準となり、財政不安が叫ばれるイタリアは、AからBBB+と2段階格下げとなり、今後さらなる利回りの上昇が懸念される。

ベルギー、エストニア、フィンランド、ドイツ、アイルランド、ルクセンブルク、オランダの7ヵ国の長期国債格付けは現状を維持した。

他方、長期見通しについては、ドイツ、スロバキア以外の14ヵ国はすべて「ネガティブ」となり、今後の格下げの可能性を含ませた。

S&Pの格付け(1月13日発表)

<財政問題の根本的解決がされていないと厳しく評価>
S&Pは今回の格下げについて、過去数週間の欧州政策関係者の政治的イニシアチブがユーロ圏の構造的問題を解決するには十分でなかった、としている。特に2011年12月9日のEU首脳会議の合意(2011年12月12日記事参照)は、ユーロ圏の財政問題の根本的解決にはつながらないと評価し、複数国の格下げに一気に踏み切った。さらに、ユーロ圏のいくつかの国は財政再建コストが引き続き高まり、信用と経済成長はさらに低下する、と予想している。

S&PはEU首脳会議前の12月5日、市場での信認毀損(きそん)という足元の問題や、より長期的には、ユーロ圏の経済・金融・財政の収斂(しゅうれん)確保に向けて取り組む上で、政策関係者の間に合意を形成できない状態が続いている、などの理由から、ユーロ圏15ヵ国の格下げを示唆していた。

ユーロ中核国のフランスの格下げは市場に影響を与えそうだ。欧州金融安定ファシリティー(EFSF)はドイツ、フランスの高い格付けを担保に資金調達をしており、今回のフランス格下げは少なからず影響するだろう。また、フランスは12年4〜5月に大統領選挙を控えており、再選を目指すサルコジ大統領は苦しい立場に立たされる。

(注)S&PはBB+以下を投資不適格と規定しており、現在、キプロス、ギリシャ、ポルトガルが投資不適格国となっている。

(植原行洋)

(EU・ユーロ圏)

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