各社とも減益または赤字拡大−大手金融機関の第3四半期決算−

(米国)

ニューヨーク発

2008年10月31日

大手金融機関の2008年第3四半期決算は、約半数で赤字が拡大、黒字を維持した金融機関も軒並み減益だった。9月半ば以降、買収による規模拡大の動きが相次ぎ、商業銀行では、期末に行われた買収により総資産ベースでの順位が入れ替わり、JPモルガン・チェースがシティグループを抜いて、最大の銀行となった。一方、投資銀行は、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの銀行持ち株会社化、メリルリンチの身売りなどにより、投資銀行としての決算発表は第3四半期が最終となった。

<JPモルガン・チェース、総資産規模でシティを抜く>
08年第3四半期(7〜9月)の大手商業銀行5社の決算は、減益または赤字拡大となった(表1参照)。5社とも、財務省による公的資本注入プログラムを利用する予定だ(ワコービア分はウェルズ・ファーゴへの注入に含まれる見込み、2008年10月16日記事参照)。

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JPモルガン・チェースは、住宅ローン関連の評価損36億ドル、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の証券にかかる損失6億ドルなどの計上により、利益が前年同期から84%の大幅減。一方、08年3月のベア・スターンズ買収に続き、9月に破綻したワシントン・ミューチュアルの資産を取得したことで、同社の総資産は2兆2,515億ドルとなり、シティグループ(以下、シティ)を抜いて総資産規模で全米最大の銀行となった。

シティは4四半期連続の赤字。買収により規模拡大を続けるJPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカに対抗するため、9月に政府支援付き買収でワコービアと合意したにもかかわらず、ワコービアは10月に入ってウェルズ・ファーゴへの身売りを決めた(2008年10月9日記事参照)。ある株価アナリストは「シティにとっては、たたき売り価格で絶好の預金獲得基盤が手に入るところだった。(それが実現せず)株主たちはがっかりしている」と述べた(「ブルームバーグ」10月16日)。シティは、ワコービアとウェルズ・ファーゴの2社を相手取り、600億ドルの損害賠償を求め訴訟を起こしている。

バンク・オブ・アメリカの黒字額は、前年同期比68%減少した。同社は1株当たりの配当を64セントから32セントに半減する予定。期中に買収した住宅ローン最大手カントリーワイドの統合は順調に進んでおり、合理化に伴う年間9億ドルの費用削減効果が11年までに表れるとみている。なお、9月に発表したメリルリンチの買収手続きは、09年第1四半期に終了する見込み。

239億ドルの大赤字を出したワコービアは、3四半期連続の赤字。不動産価格が最も高かった06年に250億ドルで買収した住宅ローン大手ゴールデン・ウエストの営業権償却費が188億ドルに上った。この償却は、今回のウェルズ・ファーゴによる買収条件の1つ。また、貸倒引当金繰入額として66億ドルを計上したが、ゴールデン・ウエストはオプションARMと呼ばれる貸し出し(変動金利型の一種で、初回金利から大きく跳ね上がる)を多用していたため、同社の住宅ローン残高の22%に相当する261億ドルが不良債権化する見込み。ウェルズ・ファーゴによる買収手続きは、年内に完了する予定である。

ウェルズ・ファーゴは、同じ西海岸に拠点を置くインディマック(7月に破綻)、ワシントン・ミューチュアルから顧客が流れ、融資残高が535億ドル(前年同期比15%)、預金が237億ドル(同10%)、それぞれ増加した。しかし、ファニーメイ、フレディマック、リーマン・ブラザーズ関連で6億ドルの評価損を計上するなど減益となった。自己資本比率(Tier1)は8.38%と安定しているが、ワコービア買収後も十分な水準を保持できるかどうかは不透明。「ニューヨーク・タイムズ」紙(10月15日)によると、同社は250億ドルの公的資本注入に加え、200億ドルの増資も計画している。

<投資銀行としては最後の決算>
大手投資銀行は9月半ばに、破産申請、身売り、銀行持ち株会社として商業銀行への転向を相次いで発表。投資銀行として決算をするのは、08年第3四半期が最後となった。

ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー(ともに6〜8月期決算)は、減益ながら黒字を維持(2008年10月6日記事参照)。両社は9月に、銀行持ち株会社化を連邦準備制度理事会(FRB)に申請し、受理された。ゴールドマンは10月13日、ゴールドマン・サックス・バンク・USA(総資産は約1,500億ドル)の設立をニューヨーク州に申請し、現在認可待ち。モルガン・スタンレーもこの動きに追随するとみられる。

なお、ゴールドマン・サックスは9月にバークシャー・ハサウェイなどから100億ドル、モルガン・スタンレーも10月13日に三菱UFJフィナンシャルから90億ドル、それぞれ出資を受けたばかりだが、両社とも今回の公的資本注入プログラムに参加している。

メリルリンチ(7〜9月期決算)は、住宅ローン関連を中心に95億ドルの評価損を計上するなど、52億ドルの赤字。前年同期に赤字転落して以来、これで5四半期連続の赤字となった。同社は、バンク・オブ・アメリカへの事業売却に備えて、リスク資産削減と負債圧縮に努めている。予定していた子会社フィナンシャル・データ・サービシズの第三者への売却は、バンク・オブ・アメリカへの事業売却が決まったことで、取りやめになった。また、バンク・オブ・アメリカへの公的資本注入に際して、メリルリンチが100億ドル分の議決権なしの優先株を発行する予定である。

リーマン・ブラザーズ(6〜8月決算)は9月に破産申請。ニューヨークの本社を含む北米の投資銀行部門と資本市場部門は、英バークレイズが取得した。アジア・パシフィック地域部門と欧州・中東地域の投資銀行部門と株式市場部門、欧州地域の債券市場部門は、野村ホールディングスが取得済み。野村はさらに、インドにあるリーマンのIT関連子会社3社の取得も表明している。

(森棟彩奈子)

(米国)

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