転換期のグローバル経済、多面的に分析-2017年版「ジェトロ世界貿易投資報告」-

(世界)

国際経済課

2017年08月01日

ジェトロは7月31日、「ジェトロ世界貿易投資報告」の2017年版を発表した。報告では、グローバル経済の転換を象徴する年だった2016年以降の世界の貿易投資動向、通商政策の注目点のほか、ビジネスにおける変化として世界の電子商取引(EC)市場と、外国人材の活用に焦点を当てた。

世界貿易は3.1%減、2年連続で減少

ジェトロの推計によると、2016年の世界の貿易額は前年比3.1%減の15兆6,201億ドルと、2年連続で減少した。連続でマイナス成長となったのは1981~1983年以来のこと。貿易量の伸びが世界のGDP成長率を下回る「スロートレード」現象は2012年以降続いており、特に新興・途上国で顕著だ。ただ、低調な物品貿易に対し、サービス貿易は比較的好調を維持している。

世界の対内直接投資額は1.6%減と前年並みを維持したが、世界総額に占める新興・途上国のシェアは40.9%にとどまった。経済成長の鈍化や一次産品の価格低迷の影響で、ピークだった2014年の57.4%に比べて新興・途上国は勢いを失っている。

日本の貿易収支は黒字化、対外直接投資は過去最高に

一方、日本の2016年の貿易収支は6年ぶりに黒字となった。鉱物性燃料の輸入減に加え、輸出の主力である輸送機器が先進国向けを中心に好調を維持している。貿易以上に力強さを示したのが日本の対外直接投資で、2016年には前年比24.3%増の1,696億ドルと過去最高額を記録した。欧米向けの大型M&Aが牽引役となった上、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)分野に代表される最新技術も投資機会の創出につながった。日本の対内直接投資額も、比較可能な1996年以降で最大となった。

転換期を迎える世界の通商政策

2016年は、英国での国民投票によるEU離脱の選択、米大統領選で示された「米国第一主義」への支持の広がりに代表されるように、グローバル経済の不確実性がかつてないほど高まった。世界では、2008年の金融危機以後に導入された貿易制限的措置が累積を続け、G20で導入された措置1,263件のうち撤廃されたのは408件にとどまる。2017年に入っても、米欧で目立つ「内向き」の通商政策、着地点のみえない英国とEUの離脱交渉の行方など、不透明感が強まる傾向にある。グローバリゼーションに対する不信も指摘される中、あらゆる層が恩恵を受けられる包摂的な貿易投資の在り方が模索される。

報告では、自由貿易協定(FTA)やWTOの最新動向だけでなく、激動の時代にさしかかった米国と欧州の通商政策、さらに貿易への影響が大きい非関税分野のテーマとして国際標準化についても解説している。

新たなビジネスモデルとしてのECと人材

ビジネス動向に目を向けると、世界では電子商取引(EC)の急速な拡大期にあり、ECは国際取引の流れに革命的ともいうべき変化をもたらしている。国連貿易開発会議(UNCTAD)は、2015年の世界のBtoCにおけるEC取引額を2兆9,000億ドルと推計する。報告では、複数の日本企業のEC活用により従来と異なる販売先へのアプローチが可能となった事例も紹介している。EC市場が拡大する一方、データ・ローカリゼーションなどビジネスの障壁となる規制も、とりわけ2000年代後半以降に増加する傾向にある。こうした規制を緩和すべくECに関する国際ルールの策定が試みられており、WTOでは2016 年7 月から本格的な議論が始まった。FTAでも2000年代以降、ECに関するルールの取り扱いが増えた。

ECを含め、日本企業が海外ビジネスを展開する上で、それを担う人材の確保が課題となっている。国内では生産年齢人口の減少が顕著な一方、就労外国人は2016年に初めて100万人を超えた。外国人社員の雇用で海外の多様な価値観を経営に取り込む意義は大きい。

自由貿易体制は転換期を迎えており、世界の消費市場においてもECの台頭など構造変化の波が押し寄せている。こうした変化への対応が今こそ日本に求められている。

2017年版「ジェトロ世界貿易投資報告」の概要は、ジェトロのウェブサイトを参照。本文は「ジェトロ世界貿易投資報告」ページで近日中に公開予定。

(山崎伊都子)

(世界)

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